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果てなき時空のサプニス  作者: インゴランティス
第7章 穏やかな時の中で、僕らは混沌を抱く
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第21話 サイボーグとナラム

「にしても……」バイカルスがパーダルに訊く。「ずっと気になってたんですけど、あなたは一体? 私達スカーロと似てるかと思ったけど、なんか違うみたい。銀でゴツゴツしてるなんて、そういう呪いにでも掛かったんですか?」


「呪いではない」パーダルが答える。「私がこの身体なのは、サイボーグとなったからだ」


「サイボーグ?」


「私は5年前に任務で重傷を負い、瀕死となった。だが、身体を改造し、サイボーグとなることで生き続けられたのだ」


 パーダルの説明は簡潔なものだったが、やはりスカーロ達がまったく知らない言葉を使っているので、パフィオの母も他のスカーロもぽかんとした顔を見せる。


「瀕死? それなら、あなたはどうして今も生きてるんだ?」キンギルスが訊いた。


「今説明したように、サイボーグとなったからだ」


「サイボーグになったら死ななくて済むのか?」


「そういう場合もある。私は運がよかった。サイボーグ処置には適合性判断があり、それに適合しなければサイボーグにはなれないからだ」


 この説明に、スカーロ達は再度ぽかんとしてしまった。


 サルタンテのコップ片手に、ほろ酔いのキンギルスが近づいてくる。


「なんかよくわかんねぇが、サイボーグってのはかっこいいな。サイボーグになったら、俺もそんな風に銀ピカになれるのか?」


「もしサイボーグになったとしら、確かにこんな見た目にはなるが……」


「そりゃーいい! どうやったらサイボーグになれるんだ? 教えてくれよ」


「無理だ」


「なんでだ! 銀ピカになれるんだろ? サイボーグになったらかっこよくなるし、強くなるよな?」


「やめておけ、簡単な話ではない。サイボーグはとても不便だ」


「何が不便なんだ?」


「不便なことはいくつもあるが、代表的なのは流動食しか食べられないことだ」


「りゅうどう……?」


「だから、君達がせっかく用意してくれたこの食事も、このままでは食べられない」


 パーダルの目の前には村のスカーロ達が持ってきてくれた様々な丼が置かれているが、彼はまったく手をつけていなかった。


「そういえばパーダルさん、さっきから何も食べてないですね」バイカルスが言った。


「どうしたら食べられるんだ?」


「後でこちらで準備するから問題ない」


「準備だと? 何か手伝うことはないのか?」


「いや、独りでできる」


「こんなに美味い飯も満足に食えないなんて、やっぱりサイボーグはやめといたほうがいいなぁ」


 その話をしている横で、テーブルの上に乗ったリラは、軟らかい身体にスプーンを浸けるようにして保持し、丼をすくっては食べていた。


「リラちゃん、美味しい?」バイカルスが笑顔で彼女に訊く。


「あ……はい」リラは今までのことから少しスカーロに恐れを抱いているので、怯えながら答えた。


「不思議だな、君はアリーアか?」ビスカルスもリラに視線を落とした。


「アリーアというのは?」リラが尋ねる。


「アリーアを知らないのか。じゃあ、君はアリーアじゃないんだな」


「わたしはナラムです」


「ナラムちゃん? でも、リラちゃんよね」


「ナラムという種族なんです」


「ナラム? 聞いたことないな」


 するとリラは、嬉々として学術的な解説を始めた。


「ナラムという種族は、元々は単細胞生物アメーバから、そのアメーバの性質を保ったまま多細胞生物として進化していったものが祖先です。そういう意味では非常に原始的な生物といえますが、知能を得て現在のナラムのような種族といえる存在になった時期は約4億3000万年前と、他の知的生命と比べて大差ないといわれており、この理由に関しては今でも議論の的――」


 スカーロ達の頭に『?』が浮かんでいるので、さすがにキンギルスが止めた。


「ちょっと待て、なんだ? 何言ってんだ?」


「あっ……ごめんなさい。癖で、難しい説明しちゃうんです」リラは申し訳なさそうに答えた。


「リラさん」パーダルは落ち着いて言う。「君はとても優秀だ。今の説明で、間違っている箇所はない」


「あっ、ありがとうございます」リラは恐縮して頭を下げ、身体をやや平べったくさせた。


「結局、ナラムが何かよくわかんねぇぞ。なんなんだ?」


 キンギルスが少々いら立ち混じりに言うので、リラはまた笑顔になって説明を始めようとする。


「ナラムというのは――」


「あっ、リラちゃん大丈夫。もう説明しなくていいから」今度はバイカルスが止める。


「あぁ……ごめんなさい。どうしても癖で……」


「サイボーグにナラムか、本当に君達は不思議だ」ビスカルスはしみじみ評した。


 そして、その場にダッダッとひとりのスカーロが走ってきた。トージュルスだ。彼は酒が乗った盆をリラの横にガン! と乱暴に置いた。そしてその場の面々にこんなことを口走る。


「なあ。おれ、かつおだしを飲むことにしたんだ。ミスペンが飲まして、酒のことだけ考えてたんだ」


 その場の誰も、彼が何を言ったのか理解できなかった。


「お前、どうした?」キンギルスが訊く。


「……あれ? おれ、今、なんて言った?」


「意味が分からないことを言ったぞ」


「え!? うわ! おれ、すごいこと思いついたはずなのに。何を思いついたか忘れた! なんでだろ、何考えてたかわかんなくなった。この酒もなんで持ってきたんだ? まあいいや。ここに最高の枕があるし、おれは寝るぞ!」


 トージュルスはジャンプして、ドン! とテーブルに乗り、その上で横になろうとした。彼の頭がリラの身体に、今まさに乗せられようとしたその時。


「やめろ、貴様!」


 パーダルはトージュルスの頭を両手で押さえ、力ずくで彼の身体をテーブルから落とした。


「なんだよお前! なんで邪魔するんだ? おれは最高の枕で寝たいだけなのに!」


 トージュルスはテーブルに乗ったまま、パーダルに一発パンチを見舞った。が、パーダルは彼の拳を手で受け止める。ガァン!! 金属同士がぶつかるような音が村にこだました。


「うわ、お前強いな!」トージュルスは大げさに驚いた。「なんでだ? 毎日かつおだし作ってるのに、おれのパンチが効かないのか」


 そして周囲のスカーロ達は、なぜかパーダルを応援する。


「頑張れサイボーグ! お前は強いぞ!」


「リラちゃんを守ってあげて」


「なんだよこれ!」トージュルスは振り上げた拳を大げさに上下に振って抗議した。「おれが悪者か? おかしいぞ、今まで毎日かつおだし作ったのに!」


 周囲のスカーロが言い返す。


「お前はいつもいつもかつおだし、かつおだしって。そればっかりだな!」


「かつおだしは全然すごくないよ」


 トージュルスはまた上下に拳を動かす。


「なんだよ! かつおだしが一番美味いんだよ! 本当だからな!」


 トージュルスはテーブルに先ほど自分で置いた盆から、サルタンテが入ったグラスを次々と手に取り、どんどん飲み干していった。


「フッ。酒があればすべてを肯定できる……そういうことさ」いつの間にかここに来ていたヘリオトルスは、いつものポーズで評した。彼の角には、村の子どもに悪戯で乗せられた器がそのまま引っ掛かっていた。

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