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果てなき時空のサプニス  作者: インゴランティス
第1章 逃避へのいざない
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第11話 冒険者ユウト

「ほう、似合ってるじゃないか」

 チボゴンは村の英雄の新しい姿を見て、満足そうに言った。


 エクジースティ討伐を成し遂げた翌日、鍛冶屋のイノシシ、チボゴンがユウトのために武器と防具を作ってくれたのだ。


 裸のままで武器だけ持って戦う冒険者が多い中、本格的な防具一式を必要とする冒険者は久々だったらしく、朝から夕方までかかった。


 武器は両刃剣と、それを納める鞘。防具は胸当て、腰鎧、小手、そしてブーツ。

 重くて腰が痛くなりそうだ。


 そのうえどれもシンプルなデザインで、ゲームに出てくるモブの兵士でももう少し見栄えのいい鎧を着ているものだが、それでもようやく冒険者という肩書にふさわしい格好の最低限に達したような気がして、ユウトの心は誇らしかった。


 レサニーグ中の人々が集まって、ユウトが冒険者として生まれ変わった姿を見物する。


「似合ってるー!」


「すごーい!」


「強そう!」


 村の英雄の晴れ姿に、彼らも嬉しそうだ。


「やっぱりチボゴンはいい装備作るよな」

 ドゥムが言った。


「だろう? 特製の装備だ。作るの大変だったんだから大事に使えよ。これならまたエクジースティが出てきても安心だぞ」


 改心の出来というところだろう、チボゴンは上機嫌だ。


「ユウトは俺も使わんような古い武器で簡単にエクジースティを倒した強者だ。これくらいの装備が相応しい」

 ダイムがしみじみと言った。


「あれ、ダイムが人を褒めるなんて珍しい!」

 レドが目を丸くする。


「どういう意味だ」


「別にー?」


「それと、これも持っとけ」


 チボゴンはユウトに、棒の先に青紫色の石がついたものを渡した。石はかすかに輝いている。


 ユウトが昨日受け取ったものとは違って棒が金属でできており、柄に革が巻いてあったりと作りがいい。


「これは?」


 ユウトが訊くと、チボゴンは答える。

「ブルーア・ヴィオーロだ」


「久しぶりに聞いたよ、それ」レドが言う。


「『灯り』でいいだろ?」ドゥムが呆れ混じりに言った。


「いいや! 正式名称はブルーア・ヴィオーロだ。それで呼べって言ってんのに、誰も呼ばねーんだよな」


「呼ばないよ、長いから」


「魔獣討伐に行くなら、これがないと村に帰ってこられないぞ」


「というか、灯りだったらもうあげたぜ」


「だが、こいつは普通の灯りとは違う。エクジースティを倒すような冒険者には、特別製のブルーア・ヴィオーロが必要だろ?」


 ユウトはこのブルーア・ヴィオーロなる道具をよく観察した。



 なぜ光っているのだろう? 当たり前だが、電池を入れるケースの蓋などはない。


 剣や鎧と同じだろうか、金属の棒の先に宝石が取りつけられている。


 ネジや接着剤なども見当たらず、装着した手段は不明だ。


「どうした? 気になるか?」

 チボゴンが近づいてくる。


「いや……これ、なんだろうと思って」


「お前の世界には魔獣と魔晶だけじゃなくて、灯りもないのか? 夜はどうしてんだ?」


「灯りはあるけど、こういうのじゃない」


「へえ? どんなのだ?」


「LEDとか、蛍光灯とか」


「んん?」

 チボゴンも周りの村人も怪訝な顔をした。当然、知っているわけがない。


「あ。えーっと、いや、気にしなくていい。ありがとう」


「なんだよ、もっと喜べよな!」

 チボゴンはユウトの背中を叩いた。


「うん。嬉しいよ」


 その間、他の村人より一回り背の低い生き物はユウトのそばで喜んでいた。


「すごーい! すごいよ!」

 ピーマンが飛び跳ねている。


「すごいねー!」

 昨日ユウトを恐れおののかせた大蛇のシュケリも、その横で口を揃える。


「なー! おれ、冒険者になったばっかりなんだ。戦い方教えてよ!」

 茶色い服を着たシマウマがユウトのもとに駆け寄ってくる。


「教えて! エクジースティの倒し方!」

 ピーマンはシマウマの横で飛び跳ねた。


 ユウトが答える前に、「お前らはまだ早い」とダイムが突っぱねる。


「あなた達、ルーポも倒せないでしょう?」エルタも続く。


「えーっ!」


「えーっと、あのシマウマとかも駆け出し?」

 ユウトが先輩冒険者達に訊いた。


「あいつら、まだ冒険者になったばっかなんだ」カフが答える。


「簡単に冒険者に慣れると思ったら大間違いだぜ」ドゥムが言う。


「ちなみに僕は冒険者じゃないよ!」後ろから声がして、ユウトは振り返る。トマトがいつの間にか背後に、満面の笑みで立っていた。


「じゃあ、お前は何?」ユウトが不機嫌そうに、トマトに訊く。


「トマトだよ!!」


 笑顔で自信満々に答える野菜。どうして訊いたのだろうとユウトは後悔した。


「エクジースティは普通の冒険者には絶対倒せない。誰かが倒したって話もほとんど聞かないんだ。一体どれくらい振りだろうな」バースが言った。


「バースが来た頃じゃないですか?」ブドウが答える。


「そう、多分それくらいだ。かなり前だな」


 ユウトは何か、重いものが身体にくっついてくる感覚があった。見ると、先ほどの大蛇が仕立ててもらったばかりのブーツや鎧に身体を引っかけるようにして這いあがってくる。


「うわーっ! だから、来んなって!」


 足を振ったりして大蛇を落とそうとするが、蛇はどうにかしがみつく。


「ねえ、どうして蛇が嫌いなの?」


「いや、嫌いっていうか……だから……」


 この蛇の心を傷つけないように伝えるのに苦労していたら、レドが来る。


「どうしたの? ユウト」


「ユウトは、なんでか知らねぇけどシュケリが苦手みたいなんだ」ドゥムが言った。


「なんで?」

 疑問を口にしながら、レドはユウトの足元でしゃがんでシュケリの頭をなでた。


 シュケリは気持ちよさそうに目を閉じて、頭をくねらせた。


 そしてこの大蛇は、ユウトを見上げて言う。


「私は普通の蛇だから、怖がらなくていいよ?」


 そんなことを言われても、とユウトは思った。外見のインパクトがあまりにも強すぎる。


 他の駆け出し冒険者のシマウマとピーマンもユウトに駆け寄ってくる。


「シュケリだけ、ずるいぞ!」


「ねー、冒険行こうよー」


 シマウマとピーマンはユウトの左右から現れて彼の腕を握り、挟み込むように身体をユウトに押しつけた。


 シマウマは駆け出し冒険者というには立派な筋肉を持っているのが服越しにわかったし、ピーマンの軟らかい感触は完全にあの緑の野菜そのものだった。


 さらに、正面からはトマトが笑顔で体当たりを仕掛けてくる。再び尻餅をつきながら、ユウトは叫んだ。


「お前はもういいって!!」

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