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果てなき時空のサプニス  作者: インゴランティス
第6章 悪夢
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第14話 混ざった何か

 そして奇怪な声の主は、木々の向こうから姿を現した。


『奇怪な何か』としか表現しようがなかった。それは全長10mほどもあるクモ。いや、クモとも思えない怪物だ。本来クモの身体があるはずの部分の代わりに、身体の周囲4方向から、青いアサガオの花、セミの羽、ネコ科らしき何かの獣の口、そして人間の肘に似た真っ赤な物体が突き出しているという、とてもいびつな生物だった。周囲に花や獣や、様々混じり合った奇妙な匂いを充満させていた。


「へっ、え……」バンスターはその怪物を見るなり、喉がけいれんしたような高く短い声を発して、固まった。固まったのは彼だけではなく、ターニャも、ミスペンも、一歩も動けていなかった。


「キィィィィガァァァァ!!」


 また嫌な声で鳴きながら怪物はドンドンと歩いてくる。外見はデタラメだし目もないが、ミスペン達の居場所はちゃんと認識しており、巨体に似合わぬ速さでまっすぐ進む。その足運びは決して速くないが、完全にクモのそれだった。


 ミスペンは天に手のひらを向けて念じ、自身とターニャに術の盾を張ると、この意味不明な怪物に炎の術を撃ち始めた。


「カァァァイグォアァァァァァ!!」


 術を受けると怪物は苦しそうに足をばたつかせ、立ち止まるが、倒れる気配はない。悲鳴を聞いているだけで耳が異常をきたしそうだ。


「へっ……何、こいつ……」あれだけ気の強いターニャですら、この怪物を前に声が震え、はっきり発音できていなかった。


「うわあぁぁ! 来るなぁぁぁぁぁ!」バンスターが悲鳴を上げ、バサバサと飛んで逃げていく。先ほどまで仲間だの、ミスペンについて行くだのとまくし立てていたアブだが、あっさり素性を発揮した。


「こらぁー、虫けらー!」ターニャは涙声でバンスターの背中に声を浴びせる。怒声とも泣き言ともとれる声で。


「前を向け! 相手するぞ!」


 ミスペンは紫色の空に手のひらを向けて念じる。自身とターニャの前に術の盾が張られた。


 怪物はミスペンの攻撃の手が緩んだ隙に近寄ってきて攻撃を始めた。攻撃はデタラメで、身体の上に乗った4つのパーツが好き勝手に繰り出すのだ。獣の口が目一杯開くと、中には木の幹のように太い牙がギッシリ並んでいる。この牙で噛みつこうとしてくる。セミの羽は黄色い胞子のような粉を放ち、アサガオは黄色い光線を撃つ。赤い肘は太く長くなりながら全体をぐにゃりとねじ曲げさせ、もはや肘ともいえない物体と化しながら、2人に体当たりをかましてくる。


 ターニャはこの怪物の異様な見た目に肝を潰されているのか、突っ立ったまま避けようともしなかった。せっかく張った術の盾をすぐに壊されてしまうので、ミスペンは張り直してターニャに声を掛ける。


「どうした? ターニャ!」


 ミスペンは振り返ってターニャの顔をチラッと見ると、彼女は涙を流し、目と口をぼんやり開けたまま放心状態になっていた。しかし、その顔を見られたと知ったターニャはすぐに気を張り直してミスペンをにらみつけ、強がりからか涙声で言い返す。


「うるさい! うるさーい! こんな化け物、バラバラにしてやるわ!」


 ターニャはミスペンを邪魔だといわんばかりに大鎌を振るい、応戦を始めた。勇敢ではあるが冷静さを欠いた、危険を感じさせる戦い方だ。それでも牙を見せびらかしてくる獣の口を根元から斬り落とした。大量の青い血が跳ね飛び、術の盾はそれがターニャに振りかかるのを防いだ。ミスペンは森を走ってターニャの戦いの邪魔にならず、なおかつ彼女の様子を見ながら戦える場所を探しながら、雷の術で怪物を攻撃し続けた。


 すると案の定、ほどなくターニャは赤い肘に殴られて再び盾を壊される。ターニャは衝撃で腰が砕けて地面に尻餅をつき、そのまま倒れて動かなくなった。


 ミスペンは手のひらを怪物に向けて強く念じ、普段より大きな風の弾を撃った。怪物がのけぞると、そこにさらに水と雷の術を撃って追い討ちした。さらに炎や水、雷を連続で撃つと、この変なクモは逆さになってとうとう動かなくなった。


 この隙にミスペンはターニャのもとへ急いだ。彼女は術の盾のおかげで無傷のようだが、地面に横に倒れたまま動かない。しかも、ミスペンが目の前まで来た時にターニャは咳をしたのだが……。


「ごほっ、ごほっ!」


 なんとターニャは咳とともに吐血した。顔は真っ青で唇が紫になっている。目の焦点が合っておらず、明らかに危ない状態だ。ミスペンがすかさず手のひらを向けて回復してやると、少しずつ症状は改善した。


「はぁ、はぁ……ごほっ」


 咳は出るが、もう吐血はしない。


「あの虫の羽みたいな奴が黄色いのを出してたが、あれを吸ったか?」


 ターニャは普段とは別人のような気弱な顔をして「わかんない」と小声で答えた。あまりろれつが回っていなかった。

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