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果てなき時空のサプニス  作者: インゴランティス
第6章 悪夢
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第11話 慣れない森

 リラはトキ先輩に連れられ、そのビルへと向かった。ビル裏とフェンスの間にある隙間を通っていくと、古いシャッターがあった。鍵も掛かっておらず、素手で簡単に開けられた。その先には緑の葉が生い茂り、小さな虫が気楽に飛び込んでくる。道はない。そこから若い草のような青い匂いに混じり、灰やホコリ、そして何かが腐ったような……多々混じった異臭が漂ってくる。


 ここから先は、彼女らが普段暮らす、清潔で便利で雑多な街とはまるで別の場所だ。進めば、何かあっても助けは来ない。


「トキ先輩……本当にこんなとこ入るんですか?」不安に満ちた顔でリラは確認した。


「このぐらいなんでもないでしょ。あんたって優等生だよね」対するトキは無邪気に笑っている。


「先輩も、こういう場所好きですね……というか、こんな簡単に入れるんですか? 鍵も掛かってないって……」


「今日日自然保護区なんて、誰も行かないからね。セキュリティなんか適当よ」


 そうして言いくるめられ、リラはトキとともに自然保護区に侵入する破目となった。




「でも本当にやるんですか? 合成獣が出たら大変ですよ」たぷんたぷんと身を弾ませながら、リラはジャナで周辺の情報を調べている。木々の間は特にナラムの身体では進むのが難しいらしく、落ち葉や低木を越えるのに苦労している。


「あのね、リラ」トキは先まで進んで後輩を待ちながら得意げに答える。「誰が悪いかわかってる? こんな街のそばに自然保護区なんか作った連中でしょ。こんな場所があるから合成獣なんか出てくんのよ」


「いや、合成獣が悪いんじゃないでしょうか……」


「もし合成獣が出たって、あたしらはレラスタ進出実績もある学校のレギュラーよ。なんとかなるでしょ」


「逆にバレたら問題になると思うんですけど」


「だから、バレないって言ってんのよ。合成獣なんかぶっ飛ばしちゃえばいいの」


「そうですか? うちの学校がレラスタ行ったのはすごい前の話で、わたしらはまだ地区大会の1回戦突破したばっかりですけど……あっ!」


「なんか見つけた?」


 リラはジャナの画面を凝視したまま、「います」と答えた。


「どこ?」


「紫の人、400mくらい先にいます。それと、他にも……」


「え? 壁越えたの、おっさん一人じゃないの?」トキはその場にしゃがんで、カバンから双眼鏡を出す。「なんか……2人いるよ。いや、3人」


「えっ? 3人? 2人じゃ……」


「黒い、ゴツくてチビの奴と話してる。おっさんも黒いのも角がない。あとは、ジャンディー? ムシュケル? こいつも黒い」


「……ジャンディーかムシュケル? そんなのは……」


 リラはジャナの画面を見ながらブツブツ言っているが、トキはそれを気にせず双眼鏡から目を離し、体勢を低くしたままひとりで前進していく。リラは気づいて、その後をついていった。


「あの……先輩、それって双眼鏡ってやつですか?」


「これはただの双眼鏡じゃないから。32万倍光学ズーム搭載だよ」


「32万倍!? そんなズーム必要なんですか?」


「いや。ピント全然合わない」


「あ、そうですか……スキャンはできますか?」


「できない」


「ああ……はい」


 リラは乾いた笑いを浮かべたが、やはりそれを気にせずトキは双眼鏡を見ながら進んでいく。草に足を取られ、転びかけながらも。


 やがて茂みの裏まで到達すると、無鉄砲な先輩は不審者の様子を観察していた。リラも彼女の横まで来て同じように彼らをよく見る。確かに先輩の言う通り、3人だ。ジャナの画面とよく見比べるが、それについて言及する前に、先輩の行動が目に留まった。トキは中指にはめた指輪をさすって、少し掲げる。指輪にはレンズがついており、このレンズを怪しい者達に向けていた。


「写真撮ってるんですか?」リラが訊いた。


「動画よ。あんなの、次いつ見れるかわかんないでしょ。リラ、伏せて。そんな色してるから目立つよ」


「いや……先輩も目立ちますよ」リラは体勢を少し低くしながら言った。ピンク色のゼリー型の身体がなだらかになった。


 トキはやはりリラの話を聞かない。茂みを抜け、前に走っていく。仕方なくリラも追いかけた。


「もうちょっと近くに行こう」


「あの……もう帰りませんか? 本当に危ないと思います」


「木とか草って、変な匂いするね。虫も多いし。あ、蚊に刺された! もう~」トキは腕をかきむしっている。


「だから、帰りましょう」


 まったく聞かないで、トキは今度はカバンから細長いものを取り出すと、細長いものの先から出たプラグをジャナに接続する。


「先輩、それはなんですか?」


「しっ! 静かに。超高感度指向性マイクよ」


 ジャナから、ガサガサと大音量で葉擦れの音が聞こえた。


「ヤバ!」


「音量でかいですよ」


 だが、3人には気づかれていないらしい。トキはこの3人の不審者の観察を続けた。


「合成獣出たら……」


「静かに! その声も拾っちゃうから!」


「あの……指向性だったら、おじさん達の声しか拾わない気が……」


「あれ? そうだっけ」

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