第6話 上空
超高層建築群の上空を高速で飛ぶ、色鮮やかな大量の何か。その『何か』のうちひとつは、中に先ほど三人を助けた魚人、ロテが乗っていた。超硬質セラミックでつくられた緑色の乗り物は自動操縦で進んでおり、車内は激しいハードロックが流れる。ロテはコクピットに一切触れず、ジャナをコクピットのスタンドに置き、ハンズフリーで通話していた。
「課長、聞こえるか。ちゃんと通報したな? スキャンデータは送った通りだ。すげーぞ、ちゃんとダールに礼金もらわねぇとな? 最低でもカプセルの分はな……じゃねぇと骨折り損だぜ」
「ロテ、本気か? もしかしたらこいつら、合成獣なんぞよりよほど危険かもしれんぞ」しわがれた男の声が答える。先ほどの通話の相手と同じだ。
「話してるのを見ただけだが、あいつら、頭はただのガキだぜ」
「だから余計に危険なんだ。カプセルなんぞ飲ませるべきじゃなかった」
「なこと言ったってよ……」ロテはほんの少し残念そうに答える。「可愛い姉ちゃんが死にかけてるとあっちゃ、放置はできねーだろ。トウモロコシの子だって、ボロボロになってたけど可愛かったしな」
「ダールがうまくやってくれるだろうが……」
「やれやれ、新種の生き物見つけたんだぞ。もっと盛り上がれよな、大発見だぜ。そっちのビジネス考えていいんじゃねーか? 自然保護区歩き回って、新種探してどっかに売りつけるってどうだ。最高だぜ」
「もっと真剣に考えろ、ロテ」
ロテは気まぐれに外の景色を見る。何十、何百という超高層ビルが近づいては後ろに流れていく。その合間を、彼が乗っているのと同様のマシンが超高速で、次々と駆け抜けていく。
彼の乗るセラミックス製の箱は小舟と呼ばれているが、AI操縦システムはほぼ完璧が保証されている。世界中をこの乗り物が何百万台と飛び交っているが、衝突事故など数年に一度しか起こらない。
「もうちょっと楽しませてもらってもよかったかもな……おかしな連中だったしな。なかなか会えねーぞ、あんなの」
「ロテ。今回の件がジョークなら、今のうちに白状しろよ。ダールににらまれたら、うちみたいな中小企業は簡単に潰される」
「わかってるよ。オレが一番冗談だと思ってんだ。誰かがオレを騙そうとしてるってな。いくら自然保護区だからってあんな変な奴らがいると思わねーし、スキャン結果はご覧の通りだ。信じられっかよ。幼稚園児か小学生の頭ん中から出てきたんじゃねーのか? あいつら」
「お前が地元のダチに着ぐるみ着せて、適当に作ったスキャンデータと一緒に送ってきたんじゃないだろうな」
「んな暇じゃねぇよ。地元なんかもう10年も帰ってねぇし、スキャンデータの偽造なんかどうやるんだよ?」
「まさか、嘘じゃないのか? お前のジャナが安いから、あんな狂ったデータが出てくるんじゃないのか」
「同感だ。給料上げてくれよ、早く買い換えたいぜ」
「……なら、今回の件でダールから大金がもらえるように祈っとくんだな」
「マジでなんなんだろうな、あのスキャンデータ。教えてほしいぜ」
「でかい鳥とトウモロコシが、本当にただの鳥とトウモロコシとは……」
「な。ふざけたスキャンだろ? ジャナがオンボロだからな」
「パフィオという尻尾の生えた女も、信じられん力だ。あんな筋力の数字は見たことがない」
「握力2.2トンだぜ? どうかしてんだろ、んなの。考えらんねー。でもあいつら、ほとんど素手で合成獣倒したみたいだからな……」
「握力が2.2トンあれば、計算上は合成獣を素手で倒すのは不可能ではないはずだ。おまけに、その攻撃に耐えられるぐらい皮膚と骨格も頑丈とは。しかし……それでもな」
「んなの、誰がやるかっての。イカれた配信者でもやらねーぜ。奴らとライフルでやり合うのだって命懸けなんだからな」
そんな会話をしながら、セラミックス製の箱はどこかへ順調に飛んでいった。