それから
翌日、王国から国民に向けて王太子妃選抜の事件について発表がなされた。
今回の針子の葬儀の後、喪が明けてから王太子アーセルと公爵令嬢レティシアの婚約内定。
さらに一年後には結婚と発表され、公爵領は驚きと喜びにあふれた。
三貴族と男爵令嬢の処刑はいつとは言わず、皆お互いを罵りながらいつ処刑されるかわからないままを過ごした。
亡くなった針子の葬儀は恙無く終わり、荼毘に付した後、三貴族と男爵令嬢一家の処刑も行われた。
『レティシア様、こちらはこのような技法を使ってーーー』
王太子妃ほぼ確定のため、ヘリオスはレティシアに妃教育のための勉強を始めた。
まぁ、物作りである。
現在はヘリオスと他の針子と共に各国の、各地方の刺繍の勉強である。
合間に編み物をすればどこからか王様と王妃様がやってきて編み目のチェックが入る。
アドバイス通りにやるとものすごく綺麗にできあがった。
喜んでいたところに王太子がやってきてさわやかに持って行った。
完成を祝って30秒の出来事であった。
有言実行の王太子に若干引きはしたが、大事に使っているところを見て溜飲を下げた。
きっと結婚しても王太子に色々作ってしまうのだろう。
頬を少し赤くして抱えて、嬉しそうに使ってくれるのを見てまた私は次に何を作るか考えるのだろう。
後世に伝えられるように。王太子が喜んでくれるようにと当時の王太子妃は王太子のためにたくさんの作品を作った。
そしてそれを王太子はとても大事に使った。
やがて王になり、王妃になっても続いた。
子や孫にも恵まれ、いつしか家族のものもたくさん作った。
やがて老成し、後身を育てたりしつつもその手は作ることを辞めずに家族のために作り続けた。
そして、
レティシア98歳、家族に見守られての大往生となった。
わずかに呼吸をしながらも、その手は作るのを止めなかった。
『私の生きがいだから、作り続けていたいの。
あちらでアーセル様、ヘリオス様…皆とまたたくさん物作りしたいわ』