侵入者は無謀
『ヘリオス、裁縫室に不届き者が入り込んでいてな。
そこにあった衣装をズタズタに引き裂いていたんだ。』
レティシアの血の気が引いた。
裁縫室は。私たちが今までいた場所。
そこに置いてあったのは
『私の作っ…『まぁ、本当にやったんですね。困りましたわ〜。あら、明日の王太子の正服がズタズタ。』…え?』
『レティシア様、レティシア様の裁縫室は二つ奥ですよ。』
ポカンとするレティシアにニッコリと笑うヘリオス。
『ちゃんと護衛もおりますし、万が一を考え私たち針子部屋をダミーとして用意しておりました。』
『…筆頭針子殿の言った通りのことになるとは…』
と、後ろからこめかみを抑えた王と王妃が入ってきた。
『王様、私達の陳情は聞き届けていただけますか?』
『はぁ…すまなかったな。筆頭針子の願うようにしよう…』
『だから言ったじゃないですか。ヘリオスは嘘偽りは申しませんし、男爵令嬢は資格すらない。と。』
にこにこと黒い笑顔を向けるヘリオス、いつもより一回り小さくなった王、プリプリとかわいらしく怒る王妃。
レティシアはただ目をぱちくりさせるだけである。
『申し訳ありません、レティシア様。
此度の騒動は私の失態でございます。』
深々とお辞儀をするヘリオスにようやく混乱する頭が冴えてきた。
『失…態?』
『ええ。私共針子に無理難題を押し付けるどころか、無謀なことをした男爵令嬢を野放しにしたことです。』
『…え?』
『筆頭針子殿、その件は室内にて。レティシアの顔色が悪い』
そう言うと王太子が着ていたマントをレティシアの肩に掛けた。
裏地に見覚えがある。
『秋の機織り…』
ボソリとつぶやいたが移動の音にかき消され、レティシアはさらに混乱が深まってしまった。






