少々の絶望と意図しない野望
推薦人が見つかり、ヘリオスは史上最年少で筆頭針子になった。
ヘリオス19歳の時である。
それとともに針子業務の改善や改革を打ち出した。
紆余曲折あったが針子が守られる環境をさらに強化していった。
落ち着いた頃、密かにヒロインと思われる男爵令嬢の情報を仕入れるようにした。
花鏡の頃に何をしたいか考え始める子供が多いと言われているが、とある男爵令嬢は全くできず、それをただ親は見守るばかりであった。と、噂もだんだん流れるようになってきた。
『私はヒロインなの!』『コマンドが出ないからやらない!』と。言っているようだ。
ゲーム内とわかっているからやらないのか、成長でスキルが備わると思っているのか…
話すのも面倒になり、とある子女に協力を仰ぎ、それとなく男爵令嬢に聞き込むことに成功した。
そして、前世の名前を聞いて血の気が引いた。
染色室でタマネギの皮を煮出しながら少々考えがまとまらずぼおっとしていた。
『ファブリケ殿、染色中にすま…』
王弟殿下のお出ましである。
言いかけたまま、固まっている。
『なんでしょう…』
『な…泣いてる…のか…?』
鬼の目にも涙と言いたいのか
『感情がぐちゃぐちゃになりまして…』
ぽつり。ぽつり。
頭の中のたくさん積もった雪の上に紅い椿の花が落ちていく。
じわり、じわりとその紅が雪を染めていく。
染めているのはタマネギだった。違う。
でも、前世の私はその紅を覚えている。
『そう言う時は染めるんだ!』
怒号かな。少々びっくりしてしまった。
染色室の色んな染料を持ち出しては様々な生地を染めていく。手早い。ではなく。
いつの間にか一緒に染めていた。
『はー…染めすぎました…ね』
『やばいな…染料もなくなったし、生地もなくなったぞ』
ドレス5着分生地、礼服2着分生地、シーツ10枚は少々やりすぎである。
ドレスは売って材料費を稼いでもいいだろう。礼服…サイケデリックな柄である。少々奇抜な柄として…着て…もらえるだろうか。
シーツは淡い色で10色なので刺繍を施したらいけないだろうか。
頭の中の算盤を弾いても染料分あれば良い方ではないだろうか。
生地分はポケットマネーから出そう。
『請求はこちらに回してくれ。言い出したのは俺だから。』
にこやかに王弟殿下は言ってくれたので折半した額を後日請求した。
この日以来、何かと王弟殿下が声をかけてくれるようになった。
色々な感情を少しずつ整理できるようになって王弟殿下と打ち解けられるようになった。
『王室認定は貰わないのか?』
何気ない会話をしていて急に言われた一言。
『母上がぼやいていたぞ。王室認定をやらせたい。と。』
筆頭針子だけがもらえるランクアップ認定である。当該筆頭針子が各分野の大会(大体月一で行われる飛び入り参加アリの「いい作品、作っちゃおうぜ。」と言うノリの大会である。審査員は国民)で全分野トップを取ると王室認定をもらえるのである。
基本分野として
裁縫
染色
刺繍
編み物
ビーズ
プラス
機織り
パッチワークがある。
前王妃からは打診されてはいたが、その間針子の仕事を休んでその作品のみに徹するのは無理な話である。
一分野1ヶ月かけたら7ヶ月である。すごい無理。
脳内で弾き出していらないと思った。
半年間針子業務が行えないのはキツい。前世と違って有給があるわけではない…。
そして前筆頭針子は南に行ったまま帰ってこないので代理がいない。
『無理ですね。』
『おや?史上最年少の筆頭針子、ヘリオス・ファブリケ殿も王室認定は受けたくないと。』
カチンとくる言い方である。
『早くても7ヶ月かかるじゃないですか。一発優勝するわけではないのに針子の仕事を休んでまで時間をかけるわけには…』
『俺が推薦する筆頭針子殿はそんな弱音は吐かないんだが。』
ぷち
3ヶ月後、ヘリオスは半ばヤケクソで王室認定をぶんどった。




