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指に針を刺すのか、針に指を刺すのか

運針は寝ながらやってはいけない。と教訓にしてますが、

刺さったら痛いんです。でも寝ながらでもできる。多分。

(真似しないでください)

『痛っ!』


ここがゲームの中で

私は公爵令嬢で

王太子の婚約者選抜の途中だと気づいたのは指に針を刺した時だった


婚約者選びの基準は誰も知らない。

今作っている衣装が出来上がった時に自分の衣装を王太子が着ていればその製作者は婚約者になれる。と言われている。


そして。これがビリビリに破かれてしまうのだ


そう思うと涙が出てきた。


あと少しで完成するのに。


『レティシア様、どうかされましたか?』


王室筆頭針子のヘリオスが顔を覗かせた。


ヘリオスはレティシアよりも十しか変わらないが花鏡の頃(10歳前後)より針子の腕を買われ王室入りをした。

颯爽と階段を登るように筆頭針子へとなった女傑である。


話しやすく、穏やかな筆頭針子にレティシアは姉のように慕っていた。


『ヘリオス様…なんでも…ありません…』


あまりにも顔色の悪いレティシアをみてヘリオスは


『少し休憩します。四阿へ行って少しお茶をしましょう』


そう促されるまま針子部屋から連れ出されてしまった。


作りかけの衣装をそのままに。










暖かい紅茶と一口菓子を口に入れてようやく頭がはっきりしてきた。


私はレティシア・マクスウェル公爵令嬢。

前世はーーーーという名前でーーーーをーーーーしていて…

ここはミストル王国…そしてここは…ゲーム、ーーーーの中…


今のレティシアにはレティシアの記憶もあり、前世の記憶もある。細かいところは靄がかかっているが。


ゲーム内のミストル王国は綿花や絹織物、繊維業に特化した国である。


主人公は男爵令嬢に転生した現代のコスプレイヤー初心者で、

本で培った知識を活かして婚約者選びのひとつである王太子衣装をスキルで作り王太子妃になるというなんとも偏ったストーリーである。

スキルを全て解放し、全てをMAXにすると王太子ルート、

刺繍方面のスキルをMAXにすると宰相ルート、

裁縫方面のスキルをMAXにすると近衛騎士ルート、

機織り方面のスキルをMAXにすると辺境伯ルート、

スキルの強化具合で裏ルートがあったり(非公開)

少し偏らせるだけでルートフラグが立ってしまい、王太子ルートに入れないというなかなか難しいゲームだが手芸女子に人気だった。

コスプレ界隈や手芸沼が賑わいを見せる立役者となったゲームとも言われる。


ちなみに主人公のライバルとして出てくるのが公爵令嬢のレティシアである。

トータル面で主人公が勝てる要素はなく、スキルアップをしていく中で王太子との親密度が上がり、最終的に王太子が主人公の作った衣装を選ぶのである。


つまりは王太子との親密度。



レティシア(私)は王太子と交流なんて深めていない…

せいぜい2日に1回のお茶のみ(ほぼ会話なし)


レティシアは物心つく頃からただひたすらに衣装に関するものを作り続けてきた。

母に刺繍。乳母に裁縫。領民に機織り。

素敵な衣装を作る人がいれば身分なんて関係なく教わりに行った。

それだけで幸せだった。

まだ知らない技術を学ぶことが出来る毎日に感謝していた。


そして裁縫技術の最高峰、筆頭針子のヘリオスにつきっきりで見てもらえるなんて夢のようである

皇太子妃になれなくてもヘリオスとの勉強会ができると思えばいいのかも知れない。


『何かお困り事ですか?』


ヘリオスが、にこやかに話しかけてきた。


『ここ数日、レティシア様は心ここに在らずのような雰囲気でしたが…気のせいでしょうか?』


そうだ。

2、3日ほど前、衣装製作の一環で刺繍の柄を調べに国立図書館へ行こうとした時に王太子を見かけたのだ。


王太子妃候補に選ばれたアマリエ・ウィルズ男爵令嬢と共に。


さらに次の日、陛下に経過報告が終わった帰りに男爵令嬢にボソリと言われたのだ。

『…衣装がズタズタにならなければいいですね』


と、こちらを蔑むような視線を添えていた。


そこから怖くなって、衣装を作るのに手がどうしても止まってしまっていた。



『先日…あるご令嬢に…作っている衣装がズタズタにならなければいいですね…といわれました…』


せっかく作ったのに。

あと少しで完成するのに。


大粒の涙が出て膝のハンカチを濡らしていく。


『王太子様の衣装…最後まで作り上げたいのに… 』

そうなってしまったら怖い…



小さく呟くとヘリオスは優しく背中をさすってくれた。



『レティシア様は王太子様のことが本当にお好きなんですねぇ。』

ま、好きじゃなきゃここまでやりませんもんね。



『…そうですね。王太子様をお慕いしてます。

たとえ会話がなくても、背丈が高くて凛々しいお顔立ち。

たまに庭園の花を見て微笑まれた時の顔、

騎士隊長との模擬試験で勝った際に笑った時

どれをとっても素敵で。

会話こそなかったものの、それでも。お慕いしてます。


この試験に落ちたらどなたかのお嫁さんになるしかないですね…』



『嬉しい言葉だな。しかし、レティシアを王太子妃以外…俺以外の男の嫁にはしたくはないんだ』


すまないな。


後ろから聞こえた声はいつも遠巻きでしか聞けない声で。


その背後には宰相様と近衛騎士様と王弟殿下がいた。



さらに男爵令嬢が並んで立っていた。

猿轡をして後ろ手に縛られて。

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