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副担任に

「また同じクラスだな!」


 1年生の時も同じクラスであった数人の男子生徒達が天翔に親しげに話し掛けてくる。


「って言うか、同じクラスだった奴が結構居るぞ!」

 

 いくら話し掛けられても、そんな事は今の天翔にとってはどうでも良かった。

 新しく赴任してきた教師、御神本美月の事で頭が一杯だ。


『あれは美月で間違い無いよな?』


 天翔にとって初めて出来た彼女である御神本美月は、新任教師の御神本美月。

 突然の事に頭が追い付かない!

 


「ねえ蒼井君、今日は始業式だけだから早いじゃない。みんなで何処かに行かない?」


 にっこりと微笑んで誘って来たのはこれまた1年生の時に同じクラスだった女子生徒、三田陽菜(みた はるな)だ。

 実は美月と付き合うまで天翔が想いを寄せていたこの長い髪の少女は無邪気に微笑を浮かべるが、美月と言う彼女が出来た天翔にとってはどうでも良い存在になっていた。


「悪いけどパス。バイト入れちゃった」


「バイト?」


「カラオケだっけ?」


 天翔は金には困っている訳ではないが、社会勉強として渋谷のカラオケ店でアルバイトをしている。

 部活には入っていない。


「それじゃ、そのカラオケ店に行こうよ!」

「サービスしてね!」

「何だったらバイト代からの天引きで、奢ってくれ!」


 いつの間にか男女構わず天翔を囲むメンバーが増えている。全員が1年生から同じクラスの連中だ。


「来んな!」


 天翔が叫ぶと同時にガラッと教室の引き戸が開かれた。


「来んなとは何だ、来んなとは」


 新しく担任になった数学教師の川﨑が不機嫌さを隠さずに入って来た。

 1年生の時にも天翔たちの数学を担当していたが何かと生徒を見下しており、「こんな問題も解けないクズは死ね。死んだ方が世のため人のため」 「お前の生きる価値はゴキブリ以下の価値しかない」「バカは嫌いだ。死ねばいい」と言って憚らない。

 当然ながら慕っている生徒は皆無だ。


「席に着け!」


 教壇で声を荒げる川﨑。声だけでなく冷淡な視線で生徒たちを威圧している。 

 こうなっては皆それぞれ着席するしかなかった。

 

「担任してやる事になった川﨑だ。お前ら、俺に迷惑掛けるなよ!」


 慕われている教師なら冗談になるが、川﨑は冗談を言う輩ではない事は皆が知っている。

 初日から和気藹々だった教室の雰囲気が一気に凍り付いていった。


「何をしているのですか。御神本先生、さっさと入って来て下さい」


 川﨑が面白くもなさそうに開きっぱなしの引き戸の向こう側へと声を掛ける。

 

『御神本先生?』


 予想通り入って来たのは色気の無い黒いスーツを身に纏い、髪は後ろで一本に束ね、分厚い眼鏡を掛けた垢抜けない女教師だ。


「軽く挨拶だけして。時間の無駄だから」


「あっ、はい。副担任を勤めさせて頂きます、御神本美月です。教師になって3年目です。皆さんと…」


「御神本先生、名前だけを言いなさい。それ以上は時間の無駄と言ったでしょう。まったく」


 美月の自己紹介は川﨑の恫喝めいた一言で打ち切られた。


「すみません。でも」


「あぁん、口答えをするつもりですか?」


 50歳に近い川﨑は年齢が半分程度の美月を睨み付け、ジリジリと距離を詰める。

 冷淡な視線、冷淡な声に美月が追い詰められている事は誰の目にも明らかであった。

 きっと黒縁の分厚い伊達眼鏡の下の目は踊っているのか潤んでいるのか、天翔は簡単に想像出来た。

 なので行動を起こす前に深呼吸をした。そして、咄嗟に考えた事を行動に移す。


「川﨑先生、ありがとうございました!」


 天翔は勢い良く立ち上げると、ありったけの大声で言い放ち、身体を腰から曲げて頭を下げた。


「もう大丈夫です!」


 突然の事に皆が唖然となり、結果的に川﨑による美月への恫喝は中断された。

 そんな中、助けられた教壇の女教師1人だけが違う意味で唖然としている。


『今の声、天翔くんにそっくり!』


 頭を下げたままなので顔は見えない。確かめる術は無いと思っていた所でゆっくりと身体を戻していった。


 声だけでなく背格好もそっくりだ。

 しかし美月の知っている天翔とは違い分厚い眼鏡を掛けているし、髪もボサボサ。

 

『やっぱり天翔くんじゃないわ』


 そう思いながらズリ落ちかけた眼鏡を戻していると思い出した。天翔も学校では分厚い眼鏡を掛けて髪もボサボサにしていると言っていた事を!


『えっ、でもここは高校よ。天翔くんは今度(大学)2年生だって。えっ、2年生?』


「何の真似だ、蒼井!」


『蒼井?』


 美月の視線は天翔に釘付けとなり、川﨑の事は視界から消えていた。

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