9.新たな決意
「では、これより定例会議を始める。ギルドマスター各位、報告のある者は挙手で頼む」
「はい、私から一つ」
「なんだ?」
「先日の依頼での件ですが――」
ようやく会議が始まり、ミントは隅っこの方で目立たないように壁と同化していた。
さすがに今はミントへの視線はなく、比較的落ち着いたままに話を聞くことができる。
ミントと違い、皆この場に慣れているのだろう――スムーズに話が進んでいく。
(私の場違い感、やっぱりすごいですね……)
素直に、そう感じざるを得ない状況であった。この中には、冒険者としても名の知れた実力者が何人もいる。
それこそ、ミントとは『格』の違う冒険者ばかりだ。
アリスやレーシャならば、他の冒険者にも引けを取らないどころか、上を行くくらいの実力は、間違いなくある。
いずれは二人のどちらかが、ギルドマスターを変わってくれないか、なんて考えてもいた。
「そんなに難しい顔してどうしたんだい?」
小声で、ルイゼが話しかけてきた。
ミントは視線を動かさないままに、同じく小声で返す。
「……いえ、やっぱり、私にここは合わない気がして」
「それって、ギルドマスターに向いてない、とかそういう話?」
「そうですよ。みんな、冒険者として有名な人ばかりで――」
「有名じゃない奴だっているさ。まだ君はギルドマスターになったばかりじゃないか。何事も経験を踏んでからだよ」
「そうかも、しれませんけど……」
一生慣れる気はしない――それが、ミントの素直な気持ちだった。
「君のところのメンバー――アリスとレーシャは君と幼馴染なんだろ?」
「はい。二人とも、すごい冒険者です」
「なら、困った時は二人を頼ればいい」
「二人を……?」
「そりゃそうさ。君がギルドマスターとして、あくまで代表を務めているだけ。みんな同じ仲間なんだから。僕なんて、仕事がきつい時は仲間に頼っていたよ。君も含めてね」
ルイゼの言う通り、確かにミントは書類の整理など、頼まれて手伝ったことはある。
二人を頼る――言われなくても、ミントは二人に頼ることになる。
むしろ、二人が頼もしすぎて、ミントが不要なのではないか、そう思ってしまうことさえあるくらいだ。
「ご助言、ありがとうございます」
「ありゃ、あんまり響かないね?」
「え、そんなことは――」
「他に報告がある者はいないな? では次に、冒険者協会から一つ報告がある。何人かはすでに気付いていると思うが、『雷華』と『狼の群れ』の二つのギルドが、今回は出席していない。欠席の理由は仕事ではなく、ギルドマスターを含めたメンバーが行方不明になっているからだ」
「え……?」
思わず、ミントは険しい表情でガレリアの方を見た。
その二つのギルドの名前は知っている――近頃活躍が目覚ましく、冒険者としても名が知れ始めたばかりだ。
そんなギルドが同時に二つ、ギルドメンバーが失踪していると言う。
ギルドマスターまでいなくなったのだとすれば、それは間違いなく事件に巻き込まれた、ということだろう。
「こんなこと、大々的に知らせるものなんですか……?」
「普通はしないね。けれど、今回は相当に『ヤバイ』って判断したんじゃないかな。個人の冒険者が行方不明程度なら、他の土地に移った可能性だってあるからね。けれど、ギルドマスターも含めたメンバーがいなくなっている、なんて事件以外の何物でもないよ」
「じゃあ、わざと冒険者を狙って……?」
「さあ? そこまでは分からない。ひょっとしたら、他にも行方不明の者がいるかもしれない。けれど、あくまで冒険者協会側で把握している『事実』を報告しているだけさ。要は注意喚起ってことだよ」
「そういうことですか……」
ガレリアの言葉以降、会場も少しざわつきを見せ始める。
実際、冒険者が襲われることは珍しい話ではない。
例で言えば、人助けのために犯罪者を捕らえた冒険者が、その仲間から復讐をされる――そんな事件が起こることもあった。
(二人にも注意するように言わないと……)
アリスとレーシャ――それこそ二人は、そういう冒険者に絡む事件に巻き込まれたばかりだ。
二人とも、先日炭鉱で『無双』ぶりを見せてくれたが、そんな二人ですら、簡単に捕らえてしまうような組織が存在する。
ミントは息を飲んで、その事実を改めて認識した。
(そうだ。私がギルドマスターなんだから、二人のことは私が守らないと……)
もちろん、彼女達を強さで守れるなんて全く思っていない。
ミントはギルドマスターという立場で、二人で守れるように立ち回る、ということだ。
先ほどまで弱気だったミントは、ガレリアの話を聞いて決意を新たにした。