7.忘れていたこと
翌日――あまり寝付けないままに目を覚ましたレーシャであったが、冒険者は体力のいる仕事だ。一日くらいなら、満足に眠れなくてどうにかなるということはない。
それでも、朝から大きな欠伸を何度か繰り返していた。
アリスとレーシャでは、アリスの方が寝覚めはいい。
ミントが起きるより前に起きて、朝から外に出て修行をするくらい元気な子だ。
一方、レーシャの方はまだうとうととした状態で、おそらく三人の中では一番朝に弱い。
ちらりと、ミントはレーシャに視線を送る。
「おはよう……ミント」
「は、はい、おはようございます」
「顔、洗ってくる……」
そう言って、レーシャはゆっくりとベッドから立ち上がり、洗面所へと向かう。――あまりにもいつも通りで、ミントの方が拍子抜けしてしまうくらいだった。
(昨日の夜のこと、私の方が気にしすぎなんでしょうか……?)
レーシャが冗談めかして言ってきただけのような気がしてきて、ミントも深く考えるのはよそう、と改めでテーブルに向かう。
昨日のうちに、今日の予定はまとめておいた。
こなす依頼は三つほど。この王都から少し離れたところにある村をゴール地点として、いくつか依頼をこなしながら向かう算段だ。
昨日、レーシャが手伝ってくれたおかげで、比較的スムーズにまとめることができた。とはいえ、まだ全てを完璧にまとめたわけではないが。
「とりあえず、移動しながらまた書類確認をして……」
「あれ、ミントは準備しないの?」
顔を洗って目を覚ましたのか、レーシャが不意にそんな問いかけをしてくる。
「準備ですか? もちろん、あとで一緒に出掛けますけど」
「そうじゃくて、今日って確か月に一度の会議がある日じゃないっけ。ギルドマスターが集まってする」
「……あ、そう言えば前のギルドマスターもこの日に抜けていたような――ってことは、私も行かないとダメってことですよね?」
「うん、早く準備して向かった方がいいよ」
「……っ! ちょ、ちょっと急ぎます! あっ、あとで合流するので、えーっと支部の近くの噴水待ち合わせでっ! アリスにもそう伝えてください!」
「分かった」
ミントは慌てて出かける準備をし始める。覚えることが多くて、すっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
ミントは着替えて顔を洗うと、すぐに部屋を飛び出して、駆け出す。
途中、戻ってきたアリスとすれ違うが、
「あれ、ミント急いでどこ行くの?」
「詳しくはレーシャに聞いてくださいっ!」
その言葉だけで済ませて、ミントは急いで冒険者協会の支部へと向かった。
ギルドマスターの朝は早い。