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6.ずっと前から

 夜遅く、ミントは机に向かって今日、受け取った書面を確認していた。

 これから、三人でやっていく依頼の確認だ。

 すでにアリスとレーシャはベッドに横になり、眠りについている。

 先ほどまでは、メイド服を無理やり着させられて、マッサージさせられたり、逆にマッサージを受けたり――際どいところまで触れてくるので、中々他人に見せられない状況にまでなってしまった。

 今は寝間着に着替えて、ある程度の整理ができたら眠るつもりだった。


「できるだけ近場の依頼はまとめて終わらせられるようにして……うーん、そうなると一旦、場所でまとめた方がいい……?」


 メモを取りながら、今後の予定を整理していく。雑用程度に書類の整理などはしたことはあるが、いざ自分一人で考えて整理するとなると、大変なものであった。


「……ふぅ」


 小さくため息を吐いて、ミントは天井を見上げる。

 おそらく去年の自分に『来年はギルドマスターになっている』と話しても、絶対に信じることはないだろう。

 ここ最近は特に、目まぐるしく過ぎていったと思う。

 アリスとレーシャの二人の危機を知ってから、ミントはとにかく無我夢中で頑張ってきた。

 全財産を失ってしまったが、二人を無事に助け出すことができて、ミントはそれが一番うれしかったのだ。

 だから――二人にはまず無事でよかった、という気持ちを伝えたかったのだが、ギルドマスターになることになってしまい、思った以上に二人が『元気』であったために、ミントもいつも通り接することにした。

 実際、奴隷として売りに出された二人を見た時、ミントはおそらく人生で一番緊張していた、と言える。

 たとえば一部の犯罪者や、身寄りのない者が自らを奴隷として差し出すことは、決して珍しいことではない。

 アリスとレーシャは、冒険者としての肩書きを伏せた状態で、犯罪者として売りに出されようとしていた。

 その二人だけをピンポイントで、ミントが買い取った形だ――彼女達を奴隷に陥れた者達から、何かしら仕掛けられてもおかしくはない、と最後まで気が抜けなかったことは、記憶に新しい。

 奴隷として売りに出されていた時の彼女達がどう考えていたのか、ミントには想像もできない。

 だが、決して不安でなかったわけではないはずだ。

 そんな二人が元気に振る舞っているのであれば、ミントも二人のために――頑張っていこうと心に決めた。


「よし、もう少しだけ――」

「ミント、まだ起きてたの?」

「! レーシャ? ごめんなさい、起こしてしまいましたか?」


 振り返ると、そこには少し眠そうな表情をしたレーシャが立っていた。

 少しサイズの合わない寝間着のため、下着が若干見えてしまっている。

 相変わらず、華奢な身体に着けられた首輪は似つかわしくない――そう思っていたのだが、どこか独特の雰囲気があって、レーシャが着けているとそういう『ファッション』として身に着けているようにさえ見えた。


「大丈夫。ミントは仕事?」

「あ、はい。明日以降、色んなところに行くと思いますが、仕事をこなしていく上である程度は効率よくやっていきたいと思いまして」

「ふぅん、ミントは真面目だね」

「まあ、私が役に立てることと言えば、こういうところしかないですからね」

「――そんなことないよ」


 ミントの言葉を否定して、レーシャが隣の椅子に腰掛けた。

 そっとミントの手を握ると、


「あなたがいなかったら、わたしとアリスはここにいない。あなたが助けてくれたから――わたしとアリスは無事でいられたの。だから、役に立たないなんてことはないよ」

「それは……あの時は、無我夢中だっただけです。協力してくれたみんなの力でもありますし、本当に運が良かっただけです」

「それでも、ミントがわたし達を助けてくれたことには変わりない。ミントは、わたし達のヒーローだよ?」


 レーシャにそう言われ、ミントは思わず感極まってしまう。

 ミントからしてみれば、アリスとレーシャは幼馴染であっても――それ以上に憧れの存在だ。

 そんな彼女から感謝の言葉を言われれば、嬉しくないはずがない。


「アリスだって、同じように思ってる。けど……こういうの、面と向かって言うの、恥ずかしいから」


 視線を逸らしながら、レーシャは少しだけ頬を赤らめた。

 ミントから見ても、可愛らしい少女であるレーシャのこの反応に、思わず胸が高鳴る。


「それに、前から言ってたよ。わたしはミントと一緒に仕事したいって」

「私とレーシャでは、実力に差が――」

「他のギルドだって、実力に差がある人同士がいくらでも組んでるよ。ミントが前にいたところだって、そう。わたしはミントだからこそ、一緒のギルドにいる」

「あ、ありがとうございます。そう言ってくれるだけで、嬉しいですよ。でも、どうして私なんです? 確かに、レーシャと一緒に仕事できるのは嬉しいですし、光栄でもあります。けれど、やっぱり実力で考えれば、私なんかと組むメリットなんてないじゃないですか」

「メリット……? メリットなら、あるよ」


 ミントの言葉を聞いて、レーシャの表情は真剣なものになった。スッとレーシャがミントの耳元へと顔を近づけると、囁くように言う。


「わたし、ずっと前からミントのこと、好きだから」

「私のことが好き――へ!?」


 ミントは動揺して、思わず立ち上がる。

 だが、すぐに冷静さを取り戻し、


「あ、あー! 友達! 友達として、好きってことですよね!? あはは、私ったら、変な勘違いをしそうになってしまいました……」

「うん、友達としても好き。でも、他の意味でも好き」

「え? ほ、他の意味って……?」


 ミントが問いかける。心臓の鼓動音が、どんどん大きくなっていくのを感じた。

 ――今日は、どうなっているのだろう。

 アリスとレーシャの二人と共に仕事をして、ギルドマスターとしての活動を始めて、レーシャから告白を受けている。

 一体何がどうなっているのか、ミントには理解できなかった。

 動揺する様子のミントを見て、普段あまり表情を表に出さないレーシャがくすりと笑い、


「ふふっ、内緒。わたしも手伝うから、早く仕事を終わらせて、一緒に寝よう?」

「あ、は、はい、ありがとうございます……」


 レーシャに促され、ミントは席に着く。

 だが、一度乱されてしまった心は、簡単に落ち着くことはなく――


(え、え……? 私は、からかわれているんでしょうか……? そ、そうですよね。レーシャが私のこと、友達以外の意味で好き、だなんて。そもそも、友達以外の好きって、なんでしょう……? 主人として――いやいや、彼女は奴隷になりかけただけで、私は彼女の主人でもなんでもないですしっ! それじゃあ……?)


 悶々とした様子のまま、まとまらない思考でミントは書類を纏めていく。

 その後、アリスとレーシャの間に挟まれて眠ることになるミントであったが、ほとんど眠ることができなかった。

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