3.初仕事
ガタン、と揺れる馬車の中――ミントは二人を連れて、仕事へと向かっていた。
だが、膝を抱えて何故か隅っこの方で、ミントは縮こまっている。
「いい加減、機嫌直しなって」
アリスが声を掛けてきた。
ちらりと、ミントは彼女の方に視線を送る。別に――ミントは怒っているわけではない。
遡るほど数時間前のこと、ミントは冒険者協会にギルド名の正式登録へと向かった。
そこで、『風の氷炎双牙』という名前でギルド名を登録したのだが、その時の受付の女性のきょとんとした顔が忘れられない。
「あんな『え、本当にこんな名前にするの?』みたいな表情されたら、恥ずかしくてもう協会に顔出せないですよ……」
「いやいや、『風の』が増えたくらいなんだから、あまり変わらないって!」
「全然フォローになってないんですが……!?」
「わたしはミントらしくて好きだから、大丈夫だよ」
レーシャがフォローを入れてくれるが、『ミントらしい』というのが冒険者協会から正気を疑われているので、地味に傷付く一言ではあった。
ミントのギルドマスターとしての最初の仕事は、冒険者協会から依頼のあった『蟲退治』である。
半ば強制的に三人で組まされることになったが、実のところ――二人と共に仕事をするのは、ミントにとって初めてのことであった。
よくアリスとレーシャは一緒に仕事をすることがあるようだが、彼女達の実力であれば、同じ仕事を受けることがあっても不思議ではない。
だが、ミントは二人に比べれば、冒険者としてのランクも実力も格下ということになる。
おそらく、協会側の依頼も、アリスとレーシャの二人に合わせた難易度となっているだろう。
「なんか色々、気が乗らないですね……」
「そんな言い方しないでよ。あたし、三人で仕事できるの、楽しみにしてたんだよ? ミントが一緒にやってくれないからさ」
「それは……そうでしょう。私は二人ほどの実力はないわけですし」
「ミントは十分に強いよ」
「二人には敵わないですよ。まあでも、こうなってしまった以上は仕方ありません。一先ずアリスとレーシャには、協会が私に押し付けようとしている依頼を片っ端から片付けてもらいますっ!」
「任せてよ! あたしが一人でも片付けちゃうから」
「ううん、アリスの力なんてなくても、わたし一人で終わらせられるよ」
「はあ? 何言ってんのよ。あんたこそ、氷使いなんだからミントを守る壁でも作っておきなさいって」
「それくらい、戦いながらでもできる。アリスの炎がミントにあたると危ないから、戦闘はわたしに任せてくれたらいい」
「あたしがそんなヘマするわけないでしょ! いいわ、そこまで言うなら――勝負しましょ!」
「……勝負?」
「ちょっと、これは仕事であって遊びでは――」
「ミントは黙ってて! より多く魔物を討伐した方が勝ち! これでどう!?」
「……いいよ。負けた方が勝った方の言うことを聞く、ね」
仕事に向かうはずなのに、気付けばアリスとレーシャの競争となってしまっていた。
これから行くところは、正直そんな明るい気分で迎える場所ではないはずなのだが、二人にとっては魔物の出没する危険区域でも、問題ないという認識なのだろう。
実際――ミントは少しだけ安堵していた。
二人は冒険者として優秀で、文字通り『これから』の存在であった。
それなのに、二人は仕事に失敗して、今では華奢な身体に似合わない首輪を付けられてしまっている。
二人は全く気にしていなさそうなところが、本当にタフである。
ミントだったら、しばらくは引きこもっていてもおかしくはないのだが、こうしてギルドを結成してすぐに仕事に向かうことができるくらいには、二人とも元気であった。
ただ、そんな元気の有り余った二人をコントロールすることこそが、ミントに課せられたもっとも重大な仕事である。
「……勝負するのはいいですけど、しっかり仕事はしてくださいね」
「ふふん、もちろんよ。あんたは大船に乗ったつもりで見てなさい」
「すぐに終わらせるからね」
自信満々に言い切る二人を見て、ミントも頷く。
きっとこの二人なら大丈夫だろう――その認識は確かに間違ってはいないのだが、ある意味では間違っていることに気付くのは、このすぐ後のことだ。
ケンカップルの間で仲裁する女の子みたいな立ち位置、それが主人公ちゃんです。




