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2.ギルドの名前

 冒険者には様々なタイプの人がいる。

 まずはシンプルに、『冒険者としての名声』をほしがる者。この場合、地位に固執するばかりでなく、冒険者としていかに活躍ができるか、というところにある。

 ひょっとしたら、この手のタイプが一番多いのかもしれない。

 あるいは、人助けをしたい――という者もいる。

 冒険者への依頼の中には、お金がないけれどどうにかしてほしい、という切実なものがある。

 当然、そういう依頼を好んで受ける者は多くはない。

 何せ、冒険者と言う仕事は慈善事業ではなく、依頼に対する成功報酬をもらうことで成り立つ仕事なのだから。

 それでも、『訳アリ』案件を受ける冒険者もまた、少なくはなかった。

 後は自らの強さの限界に挑戦するために、冒険者の仕事を受けている者など、とにかく色々なタイプが存在する。

 そんな冒険者達をまとめ上げるための冒険者――それが、ギルドマスターと呼ばれる者達である。

 ギルドとして冒険者協会へ申請し、複数の冒険者を管理するのだ。

 単独で仕事をするよりも、冒険者協会からの手当てなど、多くの保証が得られる反面、ギルドとして構成する以上、そのメンバーの失敗などは、ギルドマスターの責任にも繋がってくる。

 故に、ギルドマスターになる人間の多くは、協会に信頼されるような冒険者達だ。

 若くしていきなりギルドマスターを目指したとして、協会側は簡単に認めたりはしない。

 その資質がギルドマスターとして成り立つかどうかを、当然見られる――のだが、ミントの件について、かなり例外的な処置と言えるだろう。

 ミントはアリスとレーシャの幼馴染を助けるために、所属していたギルドのメンバーに頼み込み、情報の収集に尽力した。

 また、多くのギルドにも助力を請い、結果として――ミントは二人を助け出すことに成功する。

 己の蓄えてきた財を投げてでも誰かを助け出そうとする精神。

 そして、多くのギルドと連携することができるだけの能力。

 それらを加味した上で、アリスとレーシャという冒険者協会としても期待する若手のホープと友人関係にあり、彼女らを管理することができそうな唯一の人物――そのために、特例としてミントは現在所属していたギルドからの除名処分と、即日ギルドマスターとして認められることになった。


「え、えー……」


 通達を受けた時のミントは、こんな間の抜けた声を漏らすしかなかった。

 ギルドマスターを目指して、冒険者をしている者も少なくはない。

 はっきり言ってしまえば、一介の冒険者でしかなかったミントが、ギルドマスターとして認められるのは栄転と言っても過言ではなかった。

 けれど、ミントは別にギルドマスターになりたい、という目標を掲げていたわけではない。

 どちらかと言えば、幼馴染二人に負けないような冒険者になる――無理だったとしても、それが彼女にとっての一つの目標であった。

 それなのに、いつの間にか二人を管理する立場になってしまうという、ミントが想像もしなかった状況になってしまっている。


「それでマスター、これからどうするのよ?」

「どうするの、マスター」

「マスター呼びはやめなさい。今は仮でギルドの名前を登録しているだけなので、とりあえず名前を決めて、とか色々やることはあります」

「あたし達のギルド名ってこと?」

「そうですね」

「はいはい! 『アリスと愉快な仲間達』!」

「却下です」

「ええ、なんでよ!?」

「ギルドに個人名を使わないでください。いや、そういうルールがあるわけではもちろんないんですけれど」

「『ミントと愉快な仲間達』」

「私の話を聞いていましたか!?」

「ミントがマスターだから、ミントの名前はあった方がいい」

「そう言われるとそうかもね」


 勝手にアリスとレーシャで納得し始めているが、ミント本人の名前を使うなど、絶対に避けなければならないことであった。


「そんな名前はダメに決まっています! もっとかっこいい名前にしましょう!」

「今の仮の名前ってどうなってるのよ?」

「え、それは……」


 アリスに問われて、ミントは途端に視線を逸らして口を噤む。

 今、仮登録しているギルド名は、ミントが勢いで決めたものだ。

 それも、全てミントのセンスによるもの。


「い、今は仮名だからいいじゃないですか」

「だから、それを参考に決めようって言ってるのよ」

「うん、なんて名前なの?」

「うっ、えっと……笑わないですか?」


 ミントの問いかけに、二人は頷く

 二人に顔を近づけて、小さな声で呟くように言う。


「え、『炎氷双牙えんひょうそうが』、です」


 それを聞いたアリスとレーシャは顔を合わせて、にやりと笑みを浮かべた。


「あ、あー! 笑わないって言いましたよね!?」

「わ、笑ってないわ。まあ、あんたらしいセンスだなって思っただけで……」

「うん、ミントらしい」

「いいじゃないですか! 二人がメインなんだから、炎と氷で、それにかっこいい感じを合わせたら、こういう名前が思いついたんですっ! 協会の受付でもちょっと笑われたんですよ!?」


 女の子には似合わない、子供っぽいセンスだ――そういう風に思われたのだろう。

 けれど、ギルドの名前なんてこういう雰囲気のものも、時々見られるくらいだ。

 どうせ二人と一緒に仕事をするなら、とミントがイメージして考えた名前ではあった。


「じゃあ、それでいいじゃん」

「え、これを正式に!?」

「うん、わたしもいいと思う。ミントがわたし達のために考えてくれたんだから」

「え、えぇ……? でも、心の中では『クソダサネーミングギルド』とか思っていませんか……?」

「自覚ありそうなのがちょっと面白いわね」

「思ってるんですか!?」

「思ってないわよ。でも、ちょっとだけ名前、追加しよ」

「これに追加を?」

「ミントのイメージが入ってないから」

「私のって……え、私のことなんて気にしなくていいですよ」

「そんなのダメよ。あたし達は、これから三人でやっていくんでしょ? なら、やっぱりギルド名はしっかり三人のイメージをつけないと!」

「ミントは風魔法が得意だから、『風の炎氷双牙』にしよう」

「風の……ちょっとかっこいいからいいんですけど、『風の山』っていうギルドと被らないですか?」

「少なくともこれ聞いたからってそのギルド名は思い浮かばないから平気よ。はい、これで決まりね! それじゃあ、やっと三人で一緒に仕事ができるわけね!」

「うん、嬉しい」


 楽しそうな様子を見せるアリスとレーシャ。

 二人が楽しそうならば、それでいい――なんて言えればよかったのだが、状況はそれを許してくれない。


「じゃあ、あとで正式な名前として協会に連絡してきますが……私達には早速課された仕事があります」

「え、いきなり仕事? 幸先いいじゃん!」

「どんな仕事なの?」

「……使われなくなった炭鉱に、『蟲系』の魔物が溢れているそうでして、それを討伐してきてほしい、と」

「蟲って、気持ち悪いからみんな受けたがらない仕事じゃない。ミントもよくそんな仕事受けたわね」

「……まあ、罰則みたいなものですから」

「え?」

「なんでもありません。一先ず、今日は二人とも疲れているでしょうし、休んでください。明日から、本格的に活動を開始しましょう」


 ミントはそう言って、部屋を出て行く。

 こうして、彼女のギルドマスターとしての新生活が始まった。

 いくつかミントが受けた依頼には、当然受けたくないような内容もあった。

 けれど――ミントが失った財産の一部を保証してもらえる条件として、協会から『表向きには依頼』と言う形で仕事が回されたのだ。


「はあ、すでに心労が溜まりそうです……」


 天井を見上げて、ミントは大きくため息を吐いた。

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