12.綺麗な夕焼け
暗い倉庫の中、数人の冒険者の集団の姿があった。その中心にいるのは大男――名はゴッツ・ブライアント。
冒険者ギルドの『暴獣』を束ねるギルドマスターであり、ここにいるのはその仲間達であった。
彼は目の前にある大きな袋を無理やり引きはがす。
すると、そこにいたのは怯えた様子の少女であった。
「こいつも『狼の群れ』の残ったメンバーの一人だ。最近名を挙げてきて調子に乗ってる奴らってのはむかつくがよ……見ろよ、こいつを。すっかり怯えてやがるぜ」
ゴッツがそう言うと、周囲の仲間達から笑い声が上がる。
ビクリと少女は身を震わせた。
少女もまた、同じ冒険者であるのだが――ここ数日で次々と仲間を失い、一人怯えて部屋にこもる生活を送っていた。
それなのに、不意に現れたこの男達によって、こんなところまで連れ出されたのだ。
「俺達はよぉ……調子に乗った奴らが大嫌いでな? ボコボコにしてやりたくなるんだよ。ちっと腕が立つからって、粋がるのはいけねえ。そんなだから、俺らの不意を突かれて半殺しにされるんだよ」
「ひっ」
少女は思わず、恐怖で声を漏らした。にやりとゴッズが笑みを浮かべ、
「心配すんなよ。殺したりはしてねえさ。けどな、裏のルートで冒険者を買ってくれる奴らがいるんだよ。だから、てめえは暴れなければ、無傷で売りに出してやるさ」
その言葉は、紛れもなく彼が冒険者達を襲い、行方不明事件の主犯として行動しているという証言に他ならなかった。
少女は何とか逃げ出そうとするが、すでに縄で縛られている身体は満足に動かない。
ゴッズがゆっくりと近づいてゆく。
「おいおい、逃げようとするってことは、抵抗してるようなもんだよな? それなら、てめえも半殺しだぜッ!」
ゴッズは背中の棍棒を抜き取ると、大きく振りかぶる。
少女は思わず目を瞑る――こんなものが直撃すれば、少女の華奢な身体はタダでは済まないだろう。
だが、それが少女へと振り下ろされることはなかった。なぜなら、
「流星の如く――あたし参上ッ!」
建物の屋根を破壊しながら、燃え盛る炎と共に、一人の少女が姿を現す。
否――正確に言えば、三人の少女がそこにはいた。
流れるような動きで、少女はゴッズの振り上げた棍棒へと蹴りを加え、それを瞬時に燃やしながらへし折る。
「うおあちっ!?」
ゴッズはその勢いに驚きながら、棍棒を手放した。
ついで、やってきた一人の少女は――床に手を付くと瞬時に凍らせる。縛られた少女以外の者達の足元は、すぐに氷によって止められた。
さらに、やってきた三人目は――
「いたた……漏らすかと思いました……」
半泣きになりながら、天井を見上げていた。
だが、すぐに身体を起こして状況を確認する。
「てめえは……朝の会議にいたガキ……!」
「あなたは――いえ、あなたが、先ほどの話にあった、行方不明事件の犯人……ですか」
縛られた少女が冒険者なのか、ミントには分からないだろう。
けれど、状況を見れば、ほぼ間違いなく黒であった。
ゴッズはすぐに、足元の氷を砕きながら動き出す。
「丁度いいぜ……。てめえは次のターゲットにしようと思ってたんだ。今一番、調子に乗って――」
「は? 今なんて言ったの?」
「ミントをターゲット?」
ゴッズの言葉に反応したのは二人の少女――アリスとレーシャだった。
その表情は、いつもの明るいアリスでもなく、何を考えているか分からないレーシャでもなく、完全に『キレた』時のものであった。
「てめえらもこいつの仲間か。はっ、首輪なんかつけて、こいつに飼い慣らされてんのか? 覚えとけよ……俺は武器がなくたって――うぼあっ!?」
全てを言い終える前に、アリスの繰り出した拳がゴッズの腹部に思いきりめり込む。圧倒的な体格差があるというのに、アリスはゴッズの身体を持ち上げた。
「な、がっ、ば、かな……!?」
「バカはあんたよ。ミントを狙う? そんなことを言う奴だけはね、あたしは絶対に許さないの」
「わたしも同じ。八つ裂きにしたいくらい――だけど、わたし達はあなたとは違うから」
アリスが炎を纏い、レーシャが冷気を漂わせた。
にやりと笑みを浮かべた二人が、息の合った声で叫ぶ。
「「半殺しで済ませてやるッ!」」
次の瞬間――倉庫は丸ごと吹き飛ばされ、小さな声でミントが呟く。
「……やっぱり、私いりますかね?」
夕焼けの空は、いつもより綺麗に見えた。