10.二人の気持ち
会議を終えて、ミントは冒険者協会近くにある噴水前へと向かった。
「あ、おーい! ミントーっ」
近づくと、すぐに名前を呼ぶ少女の声が耳に届く。
アリスとレーシャの二人が、噴水の前で待機していた。
「待たせてしまってごめんなさい……!」
「ううん、いま来たとこだよー。なんか、こういうとデートみたいだよね」
「三人でデート?」
「デ、デートじゃなくて仕事ですよ! そんなことより、馬車を調達して早速仕事に向かいましょう」
「よーし、今日も元気にやってこ!」
「おー」
アリスの言葉に合わせて、レーシャもノリがよく声を合わせる。
冒険者として仕事をしている時は張り合うことの多い二人だが、基本的には息が合っていると言える。そんな二人だからこそ、ミントも信頼を寄せているのだが。
馬車を探して歩き出そうとするが、ミントはその前に伝えなければならないことを思い出す。
「あ、忘れてしまう前に……二人に共有しておかないといけないことがありまして」
「共有? なになに?」
「実は……」
ミントは先ほど会議で聞いた『冒険者が行方不明になっている件』について話した。
どう説明するか迷ったミントであったが、話すのならば嘘は吐かない方がいい――全て、ガレリアから聞いた話通りのことだ。
「――そういうわけで、私達三人も気を付けて行動したいと思います」
「……なるほどね。冒険者が行方不明、か」
「わたし達の時とは、また違う話なのかな?」
「複数人、行方不明になっていて、今のところ足取りは全く掴めていないみたいです。事件と言えるか分かりませんが、十中八九は……」
「ふぅん……?」
先ほどまで元気いっぱいだったアリスは、神妙な面持ちでミントの話を聞いていた。
やはり、自分に起こった出来事と重なる部分があるのかもしれない――そう思って、ミントはアリスをフォローしようとする。
「だ、大丈夫ですよ。少なくとも、私達三人は常に一緒に行動すれば――」
「そうじゃなくてさ。冒険者ギルドが二つも襲われてるわけでしょ? それってもう、冒険者に対して喧嘩売ってるようなものじゃん?」
「へ、喧嘩……?」
「うん、明確に冒険者を狙ってると思う」
「そんな状況でさ。あたし達だけ安全に、ここを離れて仕事をしに行こうっていうのは違うと思わない?」
何やら不穏な空気を感じ取るミント。予想通り、アリスは言葉を続けた。
「何か動いてるって言うなら、あたし達で解決しちゃうのが一番手っ取り早いでしょ」
「だ、ダメですよ!」
ミントは即座に、否定の言葉を口にした。
アリスはやや不服そうな表情を見せる。
「なんでよ?」
「なんでって……そんな、自分から危ないことに首を突っ込むなんて」
「冒険者ってそういうものでしょ?」
「今回は話の方向が違います! 二人は、そういうことに首を突っ込んで――あ」
ミントは注意しようとして、自ら口を噤む。そんな責め方をしてはいけない――そう思ったからだ。
「分かってるよ、ミントの言いたいこと。確かに、あたしとレーシャはヘマして、それであんたに迷惑かけた。それは本当にごめんって思ってる。だから……さっきミントの言った通りだよ」
「私の言った通り……?」
「今度は三人で一緒に行動する」
ミントの疑問に答えたのは、レーシャの方だった。こくりとアリスが頷き、
「そういうこと。あたしとレーシャは、二人で一緒に動かなかったから、失敗した。けど、今度はしっかり三人で動く――そうすれば、あたし達は無敵でしょ!」
「そうは言いますが……」
ミントも簡単に頷くことはできない。
だが、そんなミントの手を強く握って、アリスがはっきりとした口調で言う。
「あたしと違ってミントは冷静だからさ。だから、必要なところでしっかり考えてくれると思うんだ。昔からそうだったし。だから、あたしはミントと一緒なら、こうやって誰かと組んで仕事ができると思ってる。もちろん、ヘマしたあたしを信頼できないっていうあんたの言うことも――」
「し、信頼してないなんてことないですよ! 私、二人は頼りにしてますから」
「……なら、今度は三人で一緒に動こう。ミントが嫌だって言うなら、わたしはやらないで言いと思う」
「……それは、あたしも同じ。でも、どのみち相手が冒険者を狙っているっていうなら、怯えて行動するよりは、こっちから動いた方がいいとは思ってる」
二人の意見は、ミントに委ねられたものであった。
もちろん、ミントとしてはこの事件を調査するなんて、拒否したい気持ちがある。
自分の身の危険を心配しているのではなく、二人のことが心配なのだ。
けれど、二人の表情を見れば分かる――この件を解決したいと思っているということが。
性格の違う二人だけれど、正義感は昔から強かったことは、ミントもよく知っている。
ミントは小さくため息を吐いて、
「……はあ、分かりました。ただし、三人一緒に行動すること――これは絶対ですし、危険だと思ったら下がります。それで、いいですか?」
ミントが問いかけると、二人は笑顔で頷いた。
ガレリアから受けた依頼をすっ飛ばして、三人は『冒険者行方不明事件』の調査を開始するのだった。