表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/13

10.二人の気持ち

 会議を終えて、ミントは冒険者協会近くにある噴水前へと向かった。


「あ、おーい! ミントーっ」


 近づくと、すぐに名前を呼ぶ少女の声が耳に届く。

 アリスとレーシャの二人が、噴水の前で待機していた。


「待たせてしまってごめんなさい……!」

「ううん、いま来たとこだよー。なんか、こういうとデートみたいだよね」

「三人でデート?」

「デ、デートじゃなくて仕事ですよ! そんなことより、馬車を調達して早速仕事に向かいましょう」

「よーし、今日も元気にやってこ!」

「おー」


 アリスの言葉に合わせて、レーシャもノリがよく声を合わせる。

 冒険者として仕事をしている時は張り合うことの多い二人だが、基本的には息が合っていると言える。そんな二人だからこそ、ミントも信頼を寄せているのだが。

 馬車を探して歩き出そうとするが、ミントはその前に伝えなければならないことを思い出す。


「あ、忘れてしまう前に……二人に共有しておかないといけないことがありまして」

「共有? なになに?」

「実は……」


 ミントは先ほど会議で聞いた『冒険者が行方不明になっている件』について話した。

 どう説明するか迷ったミントであったが、話すのならば嘘は吐かない方がいい――全て、ガレリアから聞いた話通りのことだ。


「――そういうわけで、私達三人も気を付けて行動したいと思います」

「……なるほどね。冒険者が行方不明、か」

「わたし達の時とは、また違う話なのかな?」

「複数人、行方不明になっていて、今のところ足取りは全く掴めていないみたいです。事件と言えるか分かりませんが、十中八九は……」

「ふぅん……?」


 先ほどまで元気いっぱいだったアリスは、神妙な面持ちでミントの話を聞いていた。

 やはり、自分に起こった出来事と重なる部分があるのかもしれない――そう思って、ミントはアリスをフォローしようとする。


「だ、大丈夫ですよ。少なくとも、私達三人は常に一緒に行動すれば――」

「そうじゃなくてさ。冒険者ギルドが二つも襲われてるわけでしょ? それってもう、冒険者に対して喧嘩売ってるようなものじゃん?」

「へ、喧嘩……?」

「うん、明確に冒険者を狙ってると思う」

「そんな状況でさ。あたし達だけ安全に、ここを離れて仕事をしに行こうっていうのは違うと思わない?」


 何やら不穏な空気を感じ取るミント。予想通り、アリスは言葉を続けた。


「何か動いてるって言うなら、あたし達で解決しちゃうのが一番手っ取り早いでしょ」

「だ、ダメですよ!」


 ミントは即座に、否定の言葉を口にした。

 アリスはやや不服そうな表情を見せる。


「なんでよ?」

「なんでって……そんな、自分から危ないことに首を突っ込むなんて」

「冒険者ってそういうものでしょ?」

「今回は話の方向が違います! 二人は、そういうことに首を突っ込んで――あ」


 ミントは注意しようとして、自ら口を噤む。そんな責め方をしてはいけない――そう思ったからだ。


「分かってるよ、ミントの言いたいこと。確かに、あたしとレーシャはヘマして、それであんたに迷惑かけた。それは本当にごめんって思ってる。だから……さっきミントの言った通りだよ」

「私の言った通り……?」

「今度は三人で一緒に行動する」


 ミントの疑問に答えたのは、レーシャの方だった。こくりとアリスが頷き、


「そういうこと。あたしとレーシャは、二人で一緒に動かなかったから、失敗した。けど、今度はしっかり三人で動く――そうすれば、あたし達は無敵でしょ!」

「そうは言いますが……」


 ミントも簡単に頷くことはできない。

 だが、そんなミントの手を強く握って、アリスがはっきりとした口調で言う。


「あたしと違ってミントは冷静だからさ。だから、必要なところでしっかり考えてくれると思うんだ。昔からそうだったし。だから、あたしはミントと一緒なら、こうやって誰かと組んで仕事ができると思ってる。もちろん、ヘマしたあたしを信頼できないっていうあんたの言うことも――」

「し、信頼してないなんてことないですよ! 私、二人は頼りにしてますから」

「……なら、今度は三人で一緒に動こう。ミントが嫌だって言うなら、わたしはやらないで言いと思う」

「……それは、あたしも同じ。でも、どのみち相手が冒険者を狙っているっていうなら、怯えて行動するよりは、こっちから動いた方がいいとは思ってる」


 二人の意見は、ミントに委ねられたものであった。

 もちろん、ミントとしてはこの事件を調査するなんて、拒否したい気持ちがある。

 自分の身の危険を心配しているのではなく、二人のことが心配なのだ。

 けれど、二人の表情を見れば分かる――この件を解決したいと思っているということが。

性格の違う二人だけれど、正義感は昔から強かったことは、ミントもよく知っている。

 ミントは小さくため息を吐いて、


「……はあ、分かりました。ただし、三人一緒に行動すること――これは絶対ですし、危険だと思ったら下がります。それで、いいですか?」


 ミントが問いかけると、二人は笑顔で頷いた。

 ガレリアから受けた依頼をすっ飛ばして、三人は『冒険者行方不明事件』の調査を開始するのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 仕事をするのは違わない。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ