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3:試作実験研究! 笹団子名人

 お昼御飯もそっちのけで、二人は笹団子作りに勤しむ。

 よもぎとニガヨモギの配合を少しずつ変え、それに合わせてあんこの甘さやもち粉と上新粉の配合も変える。

 一つ一つの配合と組み合わせをメモし、蒸し加減も少しずつ変える。

 山のように出来上がっていく試作品を、息子も呼びつけ何度も試食していく。

 

「全然違いがわからん。今日の分は間に合わないんじゃないか?」

 

 早々に音を上げる息子に、おじいちゃんはまだまだだと言い、納得しない。

 集落中から上がる薪の煙に、どことなく目が痛いような気がする。

 どの家も、今笹団子作りに夢中になっている。

 

「ニガヨモギを入れすぎると旨くないからねぇ、あんこに届く前に苦くて吐き出しちまう。ニガヨモギは少なめであんこはいつも通りの甘さで良いんでないかい?」

「んだな。今年から米も笹団子用のを育てるか。どの品種が良いか……」

 

 ついに笹団子用の米を別で育てると言い始めたおじいちゃんに、さすがに息子はギブアップ。

 一つの組み合わせで一個の笹団子とは言え、組み合わせはもちろん片手では収まらない。

 ただでさえ昼御飯も食べずずっと笹団子だけ食べ続けている中、思考まで笹団子に使いたくなかった。

 

「じゃあ俺は名人の笹団子に合うお茶でも準備しようかね」

 

 そう言って逃げようと息子が腰を浮かせると、はっとおじいちゃんとおばあちゃんが同時に見上げてきた。

 しまった、と思った矢先、メモに【お茶に合う配合。煎茶。番茶。ほうじ茶。麦茶】という項目が追加されてしまった。

 

 何度目かの蒸し作業中、玄関からごめんくださいと声が聞こえた。

 蒸すのは見習いと言われたおじいちゃんだが、火加減と蒸し時間など細かく管理しはじめた今、片時もそ場を離れられない。

 団子を捏ねすぎて痛む手首をさすりながら、おばあちゃんが玄関に出ていってみれば、移動販売車の若い男性が私服姿でにこにこと立っていた。

 

「あらまぁ。今日はお休みじゃないの? あ、祭りに来ただか?」

 

 意外な来客に小首をかしげるおばあちゃんだったが、男性はそれもあるけどと口を開く。

 

「昨日貰った笹団子、親父に一個やったら信じられないくらい気に入っちゃって『これは商品化すれば必ず売れる! もう一回行って何個か買って来い!』って言われちゃってね。貰った物だからって言っても聞かなくてさ、しょうがないから祭りだけ楽しんで帰ろうって思ったらなんと売っててびっくりしたよ。屋台で笹団子、始めて見た」

 

 そう言うや、男性は屋台で買ったと思われる笹団子を何個か取り出して見せた。

 何台かある移動販売車は、それぞれ担当地域をぐるりと回っている。

 この男性の父も同じ移動販売車の仕事をしており、交代でこの集落に来てくれる顔見知りだ。

 集落の爺婆以外にも気に入ってくれた人が居たのかと思っていると、でもね、と男性は残念そうに言葉を続け、笹団子を一つ開けはじめた。

 

「さっき買ってきたやつ、団子って言うか餅でさ、団子のつもりでかぶり付くと喉に詰まっちゃいそうでさ。昨日のより苦いし、あんまり大きな声で言えないけどちょっとイマイチで……。失礼を承知で、昨日の笹団子が一つでもあまってたらわけて欲しくて……」

 

 男性が開いて見せた笹団子は、おばあちゃんが作るものより幾分か大振りで、見るからに柔らかそうだった。

 しげしげと笹団子を眺めていたおばあちゃんだったが、はっと顔を上げると男性の腕を掴み、ちょっと裏まで来てくんなと無理矢理引っ張り歩き出す。

 靴を揃えて脱ぐことも出来ず、引っ張られるまま慌てて裏の台所まで来て男性は絶句。

 テーブルや床に広がる笹団子と、まだ作りかけの生地に大量の素材とメモ。

 勝手口の外では真剣な顔のおじいちゃんが、顔に煙がかかるのも気にせず火の番をし、息子が床に両足を放り出し座り込んでいる。

 

「これ、一個貰って良いかえ?」

 

 男性が手に持ったままだった開けた笹団子を指差しおばあちゃんが口を開く。

 返事と言うより絶句したまま曖昧に頷けば、おばあちゃんはさっと笹団子を手に取りおじいちゃんの所へと駆け寄っていった。

 

「ちょいとじいさん。これ、祭りの笹団子だて」

 

 おばあちゃんが笹団子を差し出すと、おじいちゃんは勢い良く振り返り笹団子を手にとり睨み付けた。

 

「なんじゃこりゃ。やっこい草餅に笹巻いただけでねぇか。こんな手抜き品売りやがって……」

 

 憎らしそうに笹団子を睨み付け、恨み言をこぼすおじいちゃんに、男性はこっそり息子をつかまえ何がどうなっているのか説明を求めた。

 良いところに次の犠牲者が来たと、息子は男性の肩を組み事の次第を細かく説明していった。

 

 状況を理解した男性は、どこかに電話をかけると、その後はニコニコと試食を手伝ってくれた。

 

「こっちの生地より、こっちのが好きだなぁ。もちもちしてるのにちゃんと噛みきれる。最近はつぶあんよりこしあんの方が人気だけど、やっぱり作るのは手間? つぶあんの豆のほくほくした食感も好きだけど、こしあんのさらさらしたのも好きなんだよねー」

 

 息子よりしっかり具体的な意見がもらえると、おじいちゃんもおばあちゃんもせっせと作っては男性に意見を聞く。

 せっせとメモしていき、大体の配合が決まりかけた時、再び玄関からごめんくださいと声が聞こえた。

 玄関に迎え出る時間すら惜しくなったおばあちゃんは、ごめんけど裏に回ってと、誰が来たか分からないと言うのに無防備な言葉を投げる。

 しばらくし、ざくざくと足音が近づいてきたと思えば、そこに立っていたのは移動販売車の男性の父親だった。

 

「突然すみません。息子から『今面白いことになってるから早く来い』って電話をもらいましてね」

 

 手土産の菓子折を差し出しながら、男性と同じ人懐っこい笑顔でニカッと笑う。

 台所の惨状と集落中から立ち上る煙を確認した男性の父親の顔は、先ほどまでの作った爽やかな笑みから、笑いをこらえられない自然な笑顔に変わっていった。

 それを確認した男性が、今の段階で一番良い出来の笹団子を父親に差し出す。

 すると、父親は半分以上一気に頬張ると、目を閉じゆっくりと咀嚼する。

 しばらくくにゅくにゅと咀嚼だけが響いていたが、父親はかっと目を見開くとにやりと笑い、勝手口の段差に腰かけた。

 

「旨い! これを街の道の駅で売りませんか? いや、売りましょうそうするべきだ!」

 

 突然の申し出に、男性を含むその場にいた全員が理解できず一瞬言葉を失った。

 

「お、親父、もうプラン考えたのか?」

 

 いち早く状況を理解した男性が問うと、父親は深く頷いた。

 

「労力と材料を考えたら期間限定になるでしょう。道の駅に出すのも一日十個限定とかにし、第一月曜日は誰々さん家の笹団子ってな風に、持ち回りで担当する日を決めてしまえばそれほど苦にならんと思います。それに、気に入った家の笹団子目当てのお客さんが出るかも知れない。こんだけ旨い笹団子、売らずにいるのは実に惜しい。毎日息子か俺が責任もって道の駅まで持って行きますし、売り上げもちょろまかさずちゃんと全額お渡しいたします! 念書も書きます。考えてくださりませんか!?」

 

 畳み掛けるように言葉を繋げる父親に、おじいちゃんもおばあちゃんも狼狽えるばかりで頭が回らない。

 それに、持ち回りでやるとなると二人だけで決めれる事ではない。

 それをどう伝えようかと言葉を探していると、隣に座っていた息子が代弁してくれた。

 

「熱意はようく分かりました。でも、みんなでやるなら、今ここではい分かりましたとは言えないですよ。集落中の爺婆を集めて説明しなきゃ。ただ、今その爺婆達は売る売らないなんて頭からすっぽ抜けてて、ただ笹団子名人の名をかけて作ってる最中でしてね。孫に自慢できるなら労力を惜しまないって爺婆もいれば、もう歳だしお金はいらん。家族が食べる分と年一の祭り用だけ作りたいって爺婆も居て、是非売り出したいって爺婆も居るわけですよ」

 

 冷静に要点をまとめて話す息子に、男性の父親もそうだったそうだったと冷静さを取り戻した。

 しばし唸っていた父親だったが、ではこうすればどうかと一つ提案して来た。

 その提案を聞き、それなら今晩にでも寄り合い所にみんなを集めるかと、おじいちゃんは隣の家へと急いで行ってしまった。

 

「そっちにはなんの利益も無いのに。移動販売に加え朝晩の道の駅への往復なんて、手間が増えるだけでしょうに」

 

 不思議そうにそう息子がこぼすと、男性の父親は照れ臭そうに頭をかく。

 

「私もいわゆる限界集落出身でしてね。ここはみんな元気で明るく活気がありますが、うちの里はそうでもなくいつもジメジメしとったんですよ。何かしてやりたい何か爺婆に生き甲斐をって思ってる間に、一人また一人と里を離れ、結果誰もいなくなっちまったんですよ。だからか、こう言う集落を見てると俺が何かしてやらなくちゃって思っちまって、移動販売を始めたりこうしてお節介を焼いたりとね……へへ、自己満足なんですけどね」

 

 何度も自己満足自己満足と繰り返しながら、ひょこひょこと走っていくおじいちゃんの背中を見送っていた。

 

 翌年連休前、寄り合い所には自慢の笹団子を持った集落中の爺婆が終結し、今か今かと結果を待ち望んでいた。

 選挙かと見間違う程立派な投票箱を開け、代表の何人かが一枚ずつ丁寧に仕分けしていく。

 投票箱の下の机には、達筆な文字で【投票は自分以外。投票してくれと根回し厳禁。勝っても負けても恨み言言わない】など、事細かな注意書が書かれており、事前に回覧板でも同じ文言が通達されていた。

 水分の少ない手で一枚一枚広げては、紙を少し離し確認しては、丁寧に置いていく。

 老人のそんなゆったりした動作が、同じ老人だと言うのに皆見ていてもどかしい。

 

「なぁ、まだかえ?」

 

 居ても立ってもいられず、何人かがそわそわと立ち上がり声を上げると、投票用紙を数えている一人がシーっと指を立て、壁に貼ってある【私語厳禁】の文字を指差す。

 

「全くせっかちばっかりで嫌だ嫌だ。ほれ、これで終いじゃ」

 

 そう言うや、集計した紙とペンを手に立ち上がり、壁に貼られた各家の名前の前まで行くも、待ちきれないと近くに居た爺が紙を奪い取った。

 それをきっかけに我先にと一枚の紙切れに人がたかり、収集がつかない事態に陥った。

 

「おい、見えねぇ! でかい声で誰が初代名人か言ってくれ!」

 

 離れたところに居た爺婆から抗議の声が上がると、紙を奪った爺が悔しそうに口許を歪ませると、きっと睨みを聞かせ、昨年孫に苦くて不味いと吐き出されてしまった、おじいちゃんとおばあちゃんの手を取り高く上げさせた。

 

「ちくしょうめ! おめぇさが初代名人だ! 来年は絶対うちが勝つ!」

 

 老人達とは思えない声量で、落胆する声や歓喜の声が入り交じり寄り合い所に響き渡る。

 

「じゃあ取り決め通り、今年の祭りの出店はおめぇさ達だ。道の駅に出す笹団子に【初代名人】って書かな。次は道の駅さ持ってく順番決めるど、座れ座れ」

 

 壁に貼られた名前一覧のおじいちゃんの名前の上に、紙で作った可愛い花が飾られた。

 

「ばあさん電話じゃ電話! 早う電話じゃ!」

 

 声も出ないほど驚き涙ぐむおばあちゃんの背を叩きながら、おじいちゃんは鼻息も荒く何度も電話電話と繰り返す。

 慌てておばあちゃんはポケットからスマホを取り出すと、震える手で『息子』と登録された番号を押した。

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