強さ
「私、短剣にする」
そう言ってラクは短剣の刀身を見つめた。
「短剣にした理由、聞いてもいい?」
セロシアがそう尋ねると、ラクは他の武器のほうを見つめる。
「一番使い勝手が良かった、と言うのが一番の理由です。ほかのはちょっと大きすぎたり重すぎたりして扱いきれる自信がないんですよ」
「じゃあ最初に選んでた細剣は? あれなら比較的軽いほうだけど」
「正直、悩んだんですよね」
ラクはアキレアとの試用の中で最終候補を細剣と短剣の二種類に絞るところまでは順調に行った。しかし、そこからが、彼女の中での論争が激化したのだ。
「短剣は小ぶりで、反射神経生かして攻撃するなら向いてるかなって思ったんです。このぐらいの大きさならリレーのバトンと思えば長さの感覚はつかめますし」
ラクは寝かされている細剣を見る。
「細剣は動き回りながら的確に攻撃できるのはいいなって思ったんです。現実でのたとえが思いつかないんですけど、確実にダメージを与えれそうなのはやりがいがありそうだと。でも、やっぱりさ書から使うには、私には向いてないかなって思ったんです」
「え? お姉ちゃんならいけるんじゃない?」
すると今度は、ラクは静かに首を横に振った。
「アキレアも見たでしょ? 最初に細剣であなたの攻撃受け止めて折っちゃったの」
「見たけど……あれがどうかした?」
「武器がああもあっさり壊れるのは、戦う上でだいぶ致命的じゃない。お金のシステムとか価格と価値とかの話はいまいちまだわからないけど、でも毎度毎度剣折ってたら身が持たないんじゃない?」
それこそが、ラクが短剣を選んだ最大の理由だった。
細剣は確かに扱いこなせば最速のダメージレートとたたきだすことができるロマン武器の一種。一長一短が極まっている武器である。
「確かに、細剣はその性質上ほかの武器と比べても折れやすい。確かにラクさんの思っているような事態に陥って、武器種の変更をしたプレイヤーを私は見たことあるよ。でもそれはほんの一部。試行錯誤をする武器だからこそ、NPCの露店では短剣とほぼ同じ値段で買えるように設定されているんだ。だから資金問題に関しては早々直面することはないよ」
「そうなんですか?」
「ああ。武器性能を上げれば耐久性も上がるから折れにくくなる。まぁその点を考慮すると初心者向けに薦める武器ではないのは確かだな」
――と、ここでアキレアが閃いたかのように寝かしてある武器のところまで行くとそのうちの細剣を拾い上げてラクの元へと駆け寄ってきた。そして、その細剣をラクに差し出した。
「じゃあ両方使えばいいよ!」
「え? どういう、こと?」
「言葉の通りだよ。短剣と細剣を適宜使い分ければ早々折れることはないだろうし、同時に扱いなれることができる。うまくいけばオンリーワンのプレイヤーになれるかもよ!」
「いや、ねぇアキレア、私別にそんなオンリーワンとか目指してないんだけど……?」
「じゃあお姉ちゃんはこのゲームで何やるのか決めてるの?」
「それはあなたが気長に決めればいいって言ってたよね?」
「オンリーワンなスタイルほど有利なことはないよ、どんどん強くなれるし」
「いや、私は別に……」
「けど!」
やたらと強くなることを推してくるアキレアの様子に思わずセロシアのストップが入った。
「待て待て、アキレアどうしたんだ? なんでそんなにラクさんを急かすようなことを言うんだ?」
「セロにか関係ないよ」
「ほう。けど、あいにく私は武器の同時使用にな賛成しても、急いで強くなることに関しては反対だ」
「なんで!」
アキレアに迫られたセロシアはため息をついて、アキレアにデコピンをした。
「なにするのさ!」
あきれ顔のセロシアはため息をつくと、二人の様子をやや不安げな様子で見つめていたラクのほうを見た。
「アキレアが何を思ってラクさんを強化しようとしているのかはわからない。けど、今それをする必要はなんだ? 何のためにラクさんを、ステータスと技術が比例しない状態で同じ土俵に立たせようとしてるんだよ」
セロシアはかがんで片手剣を拾い上げると、自身のアイテムボックスから全く別のの片手剣を取り出した。その剣は【蛇牙の剣】という、蛇型のMOBの素材から作り出された代物だ。しかし……。
「この【蛇牙の剣】は【アサルトブレード】を素体にした改造品だ。武器攻撃力は同じ。だけど子の剣は、総合的なパラメーターで強力な武器上位に食い込んでいる。だが、しょせん元は【アサルトブレード】だ。耐久値は相当低く壊れやすい。――ラクさん、私の言いたいことわかる?」
「え? えっと……。すみません……」
「いいよ、きにしないで。ような私が一番言いたいのは、これはしょせん付け焼刃のものだってことだよ。プレイヤーも同じだ。いくら強い装備、武器をもって強力な敵に挑んでも、軸となる心身が強くなければ、プレイヤーも武器も最大限の力なんて発揮できない。せいぜい2割ってところかな。だから本当の意味で強くなるには、ゆっくり確実に技術を身に着けていくしかないんだ」
「でも私は……!」
「全員が全員、アキレアみたいなバトルマニアってわけじゃないからな? いやまぁあいつには負けるけど」
「あいつ? あー、うん。あれは別格かな。ってそうじゃなくて! お姉ちゃんはどう思うの?」
セロシアの説明はなかなかの的中率でアキレアを追い詰めていた。
故に、彼女は助け舟を求めるように、ラクの名を呼んだ。しかし呼ばれた本人はと言うと……。
「細剣と短剣の同時使用……いやでも武器スロットは一つしかないし……いやでも、アクセサリーと同じ感じならどうかな……」
すっかり細剣と短剣の同時使用の可能性について考え始めている状態だった。