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ep5「アマドコロ」

 石畳の道の左右には、色とりどりの木枠と粘土壁でできた西洋風の建物が。いたるところに花壇や植木、浅い水路があり、白氷の回廊にもあったものとほぼ同じ街灯が並ぶ華やかな街並み。そこを行きかうプレイヤーやNPCでにぎわう通りを歩きながら、ラクはアキレアから基礎的なことの説明を受け始めた。 

 今自分が受けているクエストやオーダークエストの内容を確認することができる【クエスト/オーダー】、【設定】でできる視界のウィンドウ配置や感覚の感度調整、アナウンスウィンドウの表示の是非。文字通り、現実世界に帰還するための【ログアウト】。

 しかしアキレアは最後の一つ、【スキル】だけは後回しにした。

「なんでスキルだけ教えてくれないの?」

「だってお姉ちゃんまだスキル持ってないし、こればっかしはスキルがないと理解しにくいことだからね」

「ふぅん。――ちなみにそのスキルっていうのはどうすれば使えるようになるの?」

「いろいろあるけど、そうだなぁ」

 歩みを進めながらも腕を組み、考え込んだアキレアはすぐにそれを解いて口を開いた。

「一番簡単なのは【スキルブック】を手に入れることだね。低レアリティのものなら店に売ってたりするし」

「そうなの?」

「ま、その辺も追々ね。アイテム系の専門の人がやってる店があるからさ。――ってなわけでその人の店に到着~」

 そう言ってアキレアは一軒の店の前で立ち止まった。

 建物の外観こそ周りとほぼ同じだが、アイテムショップ【アマドコロ】という看板が、出入口の木製の扉に掛けられていた。

「ここがそうなの?」

「うん。近くにNPCのやってる大型アイテムショップがあるからお客さんは少ないけど、結構いいものあるんだ。よかったらこれからお姉ちゃんも使ってね」

「そうね。アキレアが使ってるなら信頼性も高そうだしね」

「えへへ。はいろっか」

 アキレアがその扉を開けて中に入り、その後を追うようにラクも中へ入った。

 店内は平均的なサイズのコンビニエンスストアの半分ほどの床面積で、壁には棚、中央には展示ケースが置かれ、それぞれの中にはきれいに並べられたアイテムの数々があった。

 しかしアキレアはそれらに一切目もくれず、奥にある無人のカウンターへと一直線に向かっていった。

「セロいるー?」

 カウンターの向こう、建物の奥へと続く廊下に向かってアキレアが叫ぶ。

 すると小さいながらも、奥から「アキレアか? ちょっと待っててくれー」という女性の声が聞こえた。

 それから数分後、奥に通路に続く廊下の一角から、やや大きめの木箱を抱えた女性が姿を現した。

 長い金髪を、前髪を残しながら後ろで束ねあげており、まっすぐとしたやや釣り目の青い瞳を持つ170㎝ほどの女性。黒シャツと灰色の上下一体式作業着を身に着けているものの、その上半身部分は着ずにだらしなく垂れ下がっているため、結果として上は黒シャツ一枚という恰好。出るところは出て、しまるところはしっかりとしまっている、モデルのような体系の女性だ。

 その女性は持っていた木箱をカウンターに置くと、顔を上げてアキレアを見た。

「いらっしゃい。ずいぶん早かったじゃん。その子が?」

「うん。私のお姉ちゃん、名前はラクだよ」

「へぇ、ラクさんか。私はセロシア。アイテムショップ【アマドコロ】の店主をやってる。よろしくな」

 セロシアは歯を見せるように笑みを浮かべた。

「はい、これからよろしくお願いします」

「おう、それで、アキレアからどこまで説明受けた?」

「えっと、メニューの【スキル】以外は。あとこのローブとモードの違い……ですかね」

「そっか。ならアイテムとかスキルについての説明は私の担当ってことか?」

 確認するようにセロシアがアキレアを見ると、彼女は静かにうなづいた。

「よし、ならまずはアイテムからだね」

 そう言って彼女が取り出したのは信号機カラーの人差し指ほどの細いクリアースティックを一種類ずつ。同じく信号機カラーの液体が入った小瓶を一種類ずつ。計6つのアイテムだった。そのうち、セロシアはクリアースティックのほうを指した。

「アイテムには大きく分けて3種類がある。一つは消耗品。一つは耐久度付きアイテム、あと一つは素材アイテム。その中で、これは【ブースタークリスタル】っていう消耗品アイテム。つまり一度しか使えないアイテムさ」

「ブースター、クリスタル?」

「そう。使い方は、これを歯で噛み砕くだけ。すると赤は【攻】、青は【防】、緑は【駆】の補正を一時的に受けることができるんだ。戦闘必需品だからこまめに補充するようにしてね。でこっちはポーション」

 クリスタルを持つ手とは逆の手で、赤のい液体が入った小瓶を一つ持ち上げた。

「こっちの使い方は飲むだけ。空き瓶は自動的にアイテムボックスに入っていくから、空になったら遠慮なく投げていいよ」

「投げるって……」

「とにかく、空になったら放っておけばいいのさ。――で、効果だけど赤はHP回復。アオはAP回復。そして緑は状態異常の持続時間を短縮する効果があるんだ」

「HPとかAPとかって、もしかして視界の左上にあるやつのことですか?」

 ラクは自身の視界に映る赤と青のゲージを見ながら言った。

 そのほかにも彼女の視界には、右上に円形のミニマップと左下に現在時刻が表示されていた。

「そうそう。ってそのあたりの説明はしてないのか?」

 セロシアは意外そうな顔でアキレアを見た。そしてアキレアは軽く「ごっめーん。忘れてた♪」といって、セロシアの手刀を受けた。

「なにするのさ!」

「教えとけよ……大事なことなんだから」

「あはは、ソフトクリームがおいしくてすっかり忘れてたよ」

「ソフトクリームって……」

「公園のところにあるやつ。新作の試食させてくれたんだー」

「……何味だった?」

「ビターとミルクのダブルチョコ」

「うわ、絶対おいしやつじゃん。食べたかったなぁ」

「そのうちメニューに並ぶんじゃないかな」

「そしたら絶対食べる。はぁ、公園まで一緒に行けばよかったなぁ」

 これでもかというほど悔しそうにカウンターに八つ当たりをするセロシア。

 そんな彼女を見ながら、ラクもあの時のソフトクリームのことを思い出した。

 くちどけの良い、柔らかなチョコレートの甘みを……。


前々回と前回に「ep」つけるのうっかりすっかり忘れてた……w

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