ep3「オーダー②」
「それにしてもどこに行ってたのさー」
アキレアと並んで公園の中を歩いて行く中で、ふと思い出したかのように彼女が聞いた。
「白氷の回廊ってところ。そこでオーグっていう人に会ってたの」
「そーいえば最初はそんな感じだったような……。あ、じゃあオーダー聞いてきたわけか!」
「オーダー?」
あまり聞きなれていないその言葉に、一瞬何のことだったかわからなかったラクだが、すぐのそれが何かを把握した。
――オーグさんから受けたあれのことか。そういえばウィンドウにオーダーを受けましたとかなんとか書いてあったけ。でも……
「そのオーダーっていったい何なの?」
「オーダーっていうのはゲームモードのことだよ。このゲームが始まった時からあるのが【トラベルモード】。最近追加されたのが【オーダーモード】なんだよ。で、お姉ちゃんは二つ目のやつにしたんだ。おじさんバニラ二つー!」
「あいよ!」
アキレアは通り沿いにあったソフトクリーム屋に立ち寄り、そこにいる小太りした優顔のおじさんに注文をした。
「夜食べると太るよ、って、関係ないか」
「そういうこと~。罪悪感なく食べれるのって最高!」
ほどなくしてソフトクリーム屋のおじさんからコーン付きのソフトクリームを受け取ると、うち一つをラクに渡した。
「いいの?」
「うん。私のおごりだよ」
「ありがと」
ラクがソフトクリームを一口。
味覚や食感も完全に再現されているので、口に含んだ時の感覚は現実と全く同じ。
故に含んだ時に口に広がるバニラの香りや溶けるクリームに、ラクは目を見開いてアキレアを見た。
「え、うそ、食感まであるの?」
「おいしいでしょ?」
「確かにおいしい。これで太らないんだから、アキレアの気持ちわかる気がする」
少しの会話の間にも二人はソフトクリームを口に運ぶ。
そんな二人の知らないところで、二人の姿は宣伝になっていたらしく店には少しづつ客が集まり始めた。おじさんは大忙し。せわしなく、しかし丁寧に一人一人にソフトクリームを渡していく。
客をさばききるのとラク達が食べ終えるのはほぼ同時だった。
「お嬢ちゃんたちのおかげで今日は大儲けだ。ありがとな」
そう言って出てきたおじさんの手にはまたもソフトクリーム。ただしその色は白ではなく、ライトブラウンとダークブラウンの二色が混ざり合っていた。
「よかったらこれ食べて見てくれ。うちの新作なんだ」
「え、いいの!?」
勢い良く立ち上がったアキレアが、おじさんに詰め寄って顔を見上げた。
「ああ。お嬢ちゃんたちがうまそうに食ってくれたお礼さ。味は保障するぜ」
「ありがとう! ほらお姉ちゃんも」
「え、ああ、えっと。ありがとうございます」
「いいってことよ。それじゃあ俺は戻るぜ」
それからおじさんの新作アイスを食べる二人はまたも宣伝効果があったらしく、彼は客の第二派をさばき始めた。
「これも、ミルクとビターの絶妙なバランスがいい!」
「だね。――それにしてもほんと、区別つかないなぁ」
もらったダブルチョコレートのふぉすとクリームに舌鼓をうちながら、ラクは店に並ぶ人を眺めた。
「なにが?」
「プレイヤーとNPCの違い。あのおじさんだってどっちかわからないし」
「あのおじさんはプレイヤーだよ?」
「そうなの?」
「うん。見分け方も知ってればすぐにわかるしね。例えば――」
アキレアはソフトクリーム屋に並ぶ人々を見ながら、先頭から追って説明し始めた。
「一番前の二人はプレイヤー。その次もプレイヤー。その次とさらに次はNPC。で、その次は……」
「ま、待って待って。見分け方教えてよ」
「あ、そうだった。まぁ簡単だよ。武器を持ってないのがNPC。武器を持ってるのがプレイヤーだよ」
――言われてみれば、アキレアの言ったNPCってみんな武器らしきもの持ってないなぁ。
見分け方が分かったラクがあたりを見まわすと、先ほどまでは一切区別がつかなかった人の内、4割ほどがNPCだった。
「確かに見分け方さえわかれば簡単ね」
「あとは例外的に、警備兵のNPCだけは街中では帯剣してるよ」
アキレアの視線を追ってラクがその方向を見ると、鈍い銀色のフルプレートを身に着けた青年の二人組が公園を歩いている姿があった。その腰からさ無骨な片手剣が下げられている。
「あれが警備兵?」
「そ。街中でむやみに武器とかスキル使っちゃだめだからね? 見つかったら罰金か、バットステータス貰うことになるから。具体的にはスキル封印と全ステータスが一時的に十分の一になるっていう」
「き、気を付ける」
想像以上に厳しいバッドステータスに、思わずラクは息をのんでいった。
ゲームの中の街と言えど秩序を守るためのルールや監視役はしっかりといる。
こうなると現実世界とただ雰囲気が違うだけの世界。そう言ってもいいほど現実味のある場所であると、ラクは感じていた。
「あ、ねぇアキレア、オーダーモードの説明の続きしてよ」
「そういえば途中だったね。じゃあ手短にするよ」
ソフトクリームを食べ終えたアキレアは、まだ食べている最中のラクに向けてそれらの説明をし始めた。
「【トラベルモード】と【オーダーモード】の違いは三つ。一つは最終目標の有無。お姉ちゃんもさっきまでいた場所で頼まれたんじゃない?」
その問いに静かにうなづくラク。
「えっと、剣を探せって言われた」
「剣かぁ。また大変そうだね。――けど、それをクリアすれば豪華な報酬がもらえるらしいから、頑張ってみるといいよ。ま、それはあくまで噂だけどね」
「そうなの?」
「だって、だーれも達成したことない上、初心者向けじゃないしねぇ」
その言葉に思わずラクは眉をひそめた。
「ちょっと待って、ならなんで私のはオーダーモードにしたの?」
「だってお姉ちゃん。こっちに来て好き勝手に楽しんでー! って言われるより、これをしてって言われるほうがやりやすいでしょ?」
「うっ、確かに目標あるほうがやる気出るけどさぁ」
「そういうこと。でも、基本は好きなようにすればいいんだけどね」
「それって、具体的にはどんなことができるの?」
問われたアキレアは「そうだなぁ~」と言ってしばらく考えた。
「私の知り合いの話だと、お店開いたり、ギルド作って難しいダンジョンに挑んだり、農業とか漁業とかでのんびり暮らしてたり……。あとはあれかな。何かについての研究とか鍛冶に没頭していたりするプレイヤーもいるね」
――つまり、結局は何でもできるってことね。
「あ、気長にやりたいこと探すといいよ」
「そうする。それでモードの違い。あと二つは?」
脱線しかけた話に戻し、アキレアが説明を再開する。すると彼女は、ラクの羽織っている白いローブを指した。
「二つ目はそれ。オーダーモードを選んだプレイヤーは、首部分の装備として脱着不可のローブを身に着けるんだよ」
投稿ペース、どうしようかな……
はっきりとは決めてないから決めないと。