ep2「オーダー」
一話あたり二千文字前後って短いかな……?
「さて、早速ではありますが、時間もありませんので本題に入らせていただきます」
先ほどのまでの柔らかな笑みからは一変し、オーグの雰囲気が引き締まったものへと豹変した。
「まず、私はあなたに未来の選択肢を託すために、この場所へご招待させていただきました。全ての用事が済み次第街へお送りしますのでご安心を」
「未来の……選択肢?」
聞き返すように聞くと、オーグは静かにうないた。
「あくまで選択肢です。選択の有無による甚大な影響はありませんのでご安心を」
それからオーグは二人の間に突き立てられている剣の柄に触れた。
「この剣を、探し出してください」
「……探すって、これじゃないんですか?」
「この場所は、この剣のある場所を再現した偽りの空間にすぎません。なのでこの剣も幻なのです」
あたりを見回しながら言った後、彼女はその視線を再び目前の剣へと集中させた。
「これの名は【ユーダスビット】。ラク様にはこれの回収をお願いいたします」
「回収……だけでいいんですか?」
「はい。そのあとはこの剣を使っていただいて構いません。きっと力になってくれると思います」
「……わかりました。頑張って探してみます」
「よろしくお願いします」
まっすぐな眼差しでラクを見手安堵を浮かべたオーグは、最後に深々と頭を下げた。
それと同時に、ラクの前に一つのウィンドウが現れる。
【オーダー《氷塊操剣ユーダスビット》を受理しました。これに関する情報はメニューの「オーダー」よりいつでも確認できます】
――オーダー? なんかよくわからないけど、あとで陽菜に訊いてみるかな。
ほどなくしてひとりでにそれが消滅すると、オーグはラクの手をやさしく取った。
「一人では難しいときもあると思います。その時はどうか、周りの方を頼ってみるとよいでしょう。今の世はそれができるほど、皆さまお強くなられましたから」
「まわりに……。そう、ですよね。 わかりました。やってみます」
ラクはしっかりとオーグの顔を見て言った。
「それではこれをお受け取りください。私からあなたへ、せめてもの手向けです」
オーグは杖の先で床を軽く突いて音を鳴らした。するとラクの身体を包み込むように、一枚のローブが出現した。今ラクが身に着けている服よりも上質な生地で作られており、フード込みで、彼女の頭頂部から足首までを覆い隠せるサイズになっていた。ただし、純白であるせいで非常に目立ち、隠密には不向きではあると言える。
しかしそんなことを気にすることなく、ラクはローブを揺らしながら全身を見回した。
「わぁ、ありがとうございます」
「何かのお役に立てば幸いです」
それからオーグはもう一度杖の先で地面を軽く突いて音を鳴らした。
直後、彼女の後ろに歯車の装飾が施された木製の扉が出現した。
「この扉を潜れば街に出ます。――それでは、あなたの旅路に幸あらんことを。私はあなたを、いつまでも見守っております」
微笑むオーグの声が、次第にエコーがかけられて小さくなっていく。同時に彼女の身体はゆっくりと薄らいでいき、やがてその場から彼女の姿が消え失せた。
一人取り残されたラク。
彼女は改めて黄金の細剣を観察した後、その扉を潜って街に移動した。
【白氷の回廊からニルンへ移動します】
〇
白氷の回廊の最奥でオーグと出会ったラクは、彼女の残していった扉をくぐって内陸の巨大都市【ニルン】へとやってきた。というより、扉を潜った彼女は、周りが緑にあふれた噴水広場の前に、気が付いたら立っていた。植木や花壇、芝生のカーペットのある自然豊かな場所。ニルンの中心に位置する【緑地公園エリア】だ。
「これ、本当にゲームの中だよね」
白氷の回廊でも感じていた精密な世界の出来に感動するラクはあたりを見回した。
どこを見ても人であふれている。
だが格好はまちまち。私服のような人もいれば、全身フルプレートや黒ローブとハットの魔法使いチックな恰好、服の一部に鎧をつけた侍姿など様々な人がいた。当然、ラクの着る初心者用の服をつけたプレイヤーも存在した。
「もっとTHEファンタジーって感じの格好をしてる人ばかりだと思ってたけど、意外と現代的な人もいるんだね……」
そう言いながら、彼女はたまたま視界にとらえたビジネススーツやセーターを着る人たちを見た。中には着ぐるみや被り物をつけている人もいた。
それらの物珍し光景にあたりを何度も見回すラク。
「……ん?」
偶然、一直線に彼女へと向かってくる、白いバトルドレス姿の白銀の髪の少女の姿がラクの視界に入った。
「あれは……?」
「おねーちゃーんはっけーん!」
髪と衣装ををなびかせながらラクに抱き着いた少女が、その勢いでラクを押し倒した。
――はぁ、ちょ、いきなり何!? ってか誰!?
「やっと見つけたよぉ。もう、お姉ちゃんがログインしたの確認してから来たのに全然見つからないんだから焦ったよぉ」
「ん?」
最初こそ驚いたが、ラクは少女の声と言葉に、それが誰かをすぐに察して起き上がた。
それにあわせるように、少女も態勢を変えてラクの足の上に座った。
「もしかして陽……じゃなくて、アキレア?」
「うん! ようこそ! クレマチス・オンラインへ! 歓迎するよお姉ちゃん!!」
アキレアはラクから離れると両手を広げ、笑いながら言った。