【序章】
「頭領、大変でございます!」
鬼神の頭領、二代目睦月の元に、急ぎの報せが入った。無理やり妻として迎えられた鈴紅をそばに置き、頭領は気だるそうに眉をひそめる。
「何だ、騒々しい 」
「御屋敷のすぐ近くに、し、城が建っております!!!」
「は?」
訳の分からぬ情報に頭領は機嫌の悪そうな声を発し、報せを持ってきた家臣を睨みつけた。
「身に覚えのない城にございます! 気づいた時には、建っていて……うっ!」
頭領は家臣を押しのけ、ずかずかと大股で歩き出す。しかし、ピタリと止まると、鈴紅に視線を向けて鋭い声で呼んだ。
「お前も来い」
「はい……」
逆らったら何をされるか分からない。鈴紅はここしばらくの間、頭領に従順だ。命令されれば返事をしてすぐに行動に移すのだ。鈴紅を妻という立場でそばに縛り付け、便利な道具のように扱う頭領の思惑どうりとなった。
外に出た頭領夫婦は周囲に起きている異常事態に息を呑んだ。多くの妖たちが驚愕の表情を浮かべて、同じ方向を見つめている。
家臣が言った通り、白を基調とした大きな城が聳え立っているのだ。あんなの、昨日まで全く気が付かなかった。
「練清…!!」
頭領は顔を顰めて、憎き甥の名前を呼んだ。