合法殺人方法
どうにもこうにも私の欲という奴は収まらないようだ。
しかし、今日もまた、いいカモが現れた。
痴漢をしているサラリーマン、私はそいつの手首を捻り、頭皮の黒髪を掴み、次の駅へと降りるなり無理矢理引っ張り出す。
「な、なんだ!駅員にでも通報するかと思えば、こんなところに!」
こんなところーーそう、ここは男子トイレ。私は壁へと叩き付け、足でそいつの身体を抑える。
「あぁ、それはこれから君を嬲なぶり殺すからな。変な声上げないようにお口にハンカチをプレゼントをしてあげようじゃないか」
私はハンカチを無理矢理痴漢した男の口に突っ込むと、1、2発……6、7、8……数えることをヤメるまで顔面を殴り、白目となり泡を吹く。声も挙げられず、無残に生き絶える
ーートイレ去ると思うと、しっかりと指紋を拭き取り、私は突然声を上げるのだった。
「あぁっ、誰かぁ!人が!人がぁぁあああ!」
被害者面を演じた。ここに証拠などない。ふふふ、今日も合法的に人を殺すことが出来た。
私の名前は山崎トオル、28歳のサラリーマン。独身で1人暮らし。
今日も今日とて、営業に頭を下げ、会社の売り上げを伸ばすために足を動かす。
どんなに辛くても関係ない。ストレスは合法的に殴ればいいのさ。私の見た目はただのサラリーマン、筋肉も言うほどある訳じゃない。持久力はある。営業で毎日歩いているからね。汗もそれほどかかない。つまり世間的にバレなければいいーー昨日の痴漢のようにね。
「あっ!あの人だっ!」
横断歩道で赤信号を待っていると、後ろから女子高生が私の指を指してきた。よく見ると昨日痴漢の被害にあった女子高生のようだ。
「オジサンだよね?昨日私を助けたのは」
ちっ面倒だな。人に干渉されるのは嫌いだった。誰かと関わると殴るチャンスを失うからな。
こんな腐った時代に、綺麗な瞳を持つ彼女に作られた仮面で話をした。
「お嬢さん、人違い、て奴だよほんと。私みたいなサラリーマンは沢山いるだろ?」
「腕時計、銀のシャネルでしょ?営業用にしては随分派手なの付けてる……そんな人、昨日出会ったアナタ以外に居ないわ!」
こ、こいつ……!
随分と観察していたようだな。いや、寧ろ昨日の痴漢の捕まえ方が悪かったのかも知れない。手首を捻りあげるーー彼女の目線に時計が目立つ位置にあったんだ。迂闊、このままではいけないと、私は信号が緑になると、女子高生を呼び出す。
「ちょっと、いいかな?」
「あ、お礼だけ言いたかったの!ごめん、学校あるから!ありがとねぇ!」
なっーー!断られてしまった。
このままじゃ、彼女の記憶に私がいるじゃないか。いけない、ストレスが溜まる。
これから毎日の通勤、いつまた出会うかも分からないし、彼女を生かしておく訳にはいかない。
直ぐにでも始末しないといけない。そのためにはまず、ふふ、まずは彼女に敵を作らせないといけないね。
簡単にまず、私は営業をしながらさっき見た制服をスマホで調べる。
通勤がほぼ一緒の駅ならば、近くの高校を調べれば直ぐに出るはずだった。
「磐記高校……これが彼女の高校か」
まずは現地へと向かう。そして、メガネと風邪ようのマスクをする。季節は春、花粉症を理由にまずは、学校へとアポを取る。
「もしもし、講演会の件でお話をしたいのですが。わたくし、デザイン専門の教師でしてね?そちらの高校、美術部がないみたいでしたので、これを機会に絵の興味などをお待ちになられてはと思いまして、お電話させて頂きました」
『講演会?はぁ、すいませんが今校長は席を外していまして』
「教頭先生でも構いません。春先で学園生活に夢をまだ持たない人もいるでしょうから。そんな生徒に私は、講演会をしたいのです。もちろん、無償でやらせてもらいますよ」
『……少々お待ちください』
無償、人はタダという言葉に弱いだろうならな。それにこの急かした喋り、相手の気持ちを焦らすには丁度いいのさ。
数分後、電話の主が変わる。
『もしもし、お話は伺いました。どうでしょう、午後から可能なら来て頂けますか?こちらも行事が詰まっているもんですからね。今日の午後なら、全校集会もありますし、その時にでも』
「ありがとうございます!では、午後からそちらに向かいます!」
さてと、講演会なんてどうでもいいのさ。これも営業で得た知恵であり、私の商売でもあるならね。キャンパスや筆などはいくらでも用意出来るし、私は商品のデザインも描いている人間だ。専門用語も分かる。私に隙はない。ふふふ、早くあの女を殺したいもんだな。
☆
そして私は学校へと合法的に入り、まずは玄関で女教師が出迎えた。殺しがいのありそうな、長いロングヘアーが綺麗で、化粧もそんなに濃くもないナチュラルな顔キャンパスを赤く染めてみたいものだった。
「どうも初めまして山崎さん。私は如月と申します」
「こちらこそ、今日は講演会の許可、ありがとうございます。生徒さんが喜んでくれればいいですが」
「そう、ですねはい」
彼女の表情が少し硬い気がした。何故そうなのか、直ぐにわかってしまう。
「だからよぉ!なっ、その時言ってやったのよ!」
「あぁ、わかるわかる!」
なるほど、学校が綺麗でも中の治安はそれほど良いものじゃないようだ。ダルダルの制服、髪の毛は茶色と金髪の2人、今すぐ染め直してやりたいほどムカつく男子だった。
「ちょっと、まだ集会中じゃないの!」
「うるせーよババア!」
「そこ退けろし!消えろだし!」
如月は金髪の男子生徒に吹き飛ばされた。
くっ、こんな綺麗な身体に傷が付いたらどうするつもりだ。その人は私の獲物だぞ。
「いたっ……」
転んだ時に手を捻挫させてしまったのか、赤く手首が腫れ上がっていた。
「(私の獲物を……よくも!)」
男子生徒2人の顔は覚えた。後でたっぷりと後悔させてやる。そして如月さん、あなたは早く手首を直して、私に殺されてくれ。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫、ですから。体育館へ案内します」
「氷、貰いに行っていいですよ。体育館くらいの場所なら分かりますから。高校ってやつは、変わり映えしないものですからね」
「でも……」
「悪化しても大変ですからね。それじゃあ」
というか、さっき学校前にある地図を見たから分からないはずもないのだけどね。
さて、講演会を早く終わらせないとな。そしてまずは、あの2人を殺してから、女を殺すとしようじゃないか。如月さん、あんたもね。
講演会が始まる前、ざわざわと生徒が騒いでいる。誰だって聞きたくもない絵の話なんか聞きたくないだろうけど、こちらも仕事なのでね。
営業と殺人の両手持ち、ふふふ、私も大変な稼業に付いてしまったようだな。
「それでは今日は専門の先生による絵の演説会を行います」
「(講演会だ!何も演じないぞバカが!)」
心の中で怒りを抑えながら、私は教台の前にして、マイクの位置を直す。
演説が始まる。絵について、夢について、無いこと有ること、興味を湧くように話を進める。そして、この人の塊の中にいる彼女を探すと、意外にも列の前にいた。
それを確認出来れば十分な私は、30分ほどで講演会を終えた。他愛のない質問なども受けては適当に返して、あとは彼女1人になるのをタイミングを待つだけだ。
いや、その前にーーお仕置きをしないとなぁ。
★
掃除の時間と思われる時間、ゴミ捨て場の焼却炉近く、あの2人が隠れてタバコを吸っている。
校則違反、いや法律的違反であった。
その姿を見つけることが出来てたのが幸いだった。殺すのにも、手は掛からなそうだからな。
「あっ、なんだテメェ?さっきからジロジロとーー!」
なんせ近くには殺しとなる道具が沢山落ちている。まず私が行ったのは現場を写真に収めることだった。
未成年がタバコを吸っているーーそれを見た二人は立ち上がり、こちらへと向かってくる。
おおよその想像は着く、スマホを奪うか私を殴って奪うか、高校生が考えるのはその程度の思考回路だろうからな。
「あぁこいつ、よく見ればさっき如月と一緒にいた演説に来たやつだ」
「うっざ。俺らに夢でも語りに来たのか?不良だから夢を漬け込みやすいとか思ってるんじゃねぇか?」
夢だとーーそんなもの私が持っているはずもない。
「夢とは、睡眠中に見るものだ。お前らがガキが口にしているのは妄言だろ?私はね、君たちが思っているほどーー」
近づいていた金髪の一人のタバコを人差し指と親指で摘み取り、もう片方の腕で金髪の首を抑え込み、そのままタバコを目に押し込んだ。
「大人じゃないんだよぉ?」
突然の行動に避ける余裕などあるはずがない。私がこんな事をする人間と認識するのは、事が起きてからに決まっている。
「嗚呼!!!あぁぁあああああああああ!!!!」
男のうめき声ほど萎えるものはない。それにそんな声を出されると人が来てしまうじゃないか。
まずはそのまま抑えている腕に力を入れ、そのまま首の骨をへし折った。これで声も出せないし、息もするはないだろう。
泡を吹きながら茶髪の方を見る金髪、首の角度の可笑しさに気付いたのか、震え始めた身体を抑えながら逃げようとしていた。
私は腰に隠してある鉈を取り出し、そのままブーメランのように茶髪の足を狙って投げ飛ばした。
鉈は少し重いが、男子高生の首をへし折るのも容易いほどの筋力は持ち合わせている。
つまりは、鉈を丁度いいスピードのまま、足を正確に狙うのも簡単だった。
「ッ!!!」
「そうそう、そのまま寝ていればいいのだよ」
足に鉈が刺さっていた。垂れ流す血、刺さっている事に気づく茶髪、顔が青くなるのが分かった。
とてもいい表情だった。男とはいえ、そんな表情に私は心が躍ってしまうばかりだった。思わず一曲歌でも歌いたいほどにね。
「抜いてあげようじゃないか。でもその前にまず、その五月蠅い口に、君の好きなものを詰めてあげようじゃないか」
「はぁっ!?……お、お前……本当に演説に来た専門の先生なのかよ……」
「これから死ぬのに、そんな質問をして意味あるのかな?それより見てくれよ、これが何か分かるかな?」
「な、なんだよそれ……」
「さっき首を折るついでに出てしまったみたいだ。人によっては出やすいらしいからね」
「だから、なんだよそれ!」
「じゃあ食べさせてから教えてあげるよ。ほら、く・ち・を・あ・け・ろ・く・そ・が・きぃ!」
顔面を殴り歯を折る。そしてその折れた隙間に捻じり込むように押し込んだ。
実は意外に固くもないんだよな、これ。私もたまにコロコロ舌の上で舐めたりするんだよな。特に女性のをね。
まるで飴玉にような、マシュマロのような、下でガジガジと噛むのも通ってやつなのかもな。
「君らの友情ってやつが試されるな。正解はーー目玉だよ」
「お、オヴェぇぇ!!!」
答えを聞いた茶髪は嘔吐物と共に金髪の目玉を吐き出した。何ということだろうか。私は茶髪の髪を引っ張り、身体を宙に浮かせた。
「貴様、友達を吐いた、な?」
「何言っているんだよ……ひどい……こんなこと……」
「ひどいのはお前だ!友達をゲロまみれにしやがって!……ふぅ、君らの友情はその程度だって分かったからさ、もういいよ。生ゴミにでもしようじゃないか」
「た、助けて……助けて如月先生!」
「おっとぉ?都合がいいなぁ随分と。困った時だけ先生の名前を呼ぶのか。最低のクズ人間ってのはお前らのことだなぁ!!!」
私は持ち上がったままの茶髪の腹を強く叩き、唾液だけがダラダラと口に中から噴き出した。
髪を放し、そのまま地面へと倒れると、意識を失ってしまった。
「まぁどのみち、こんな遠くては助けすら来ないがな。鉈でバラバラにして、焼却炉にでも入れるとするか」
☆
15分後に再び学校へと戻ると、そこには如月が校舎前で待っていた。
「山崎さん!もう帰ったのかと」
「すいません。生徒に呼び止められてまして。それで、どうしました?」
「校長がお礼をしたと」
お礼か。無償と言った以上、一円もくれないだろうに。そんなもの、金を貰ってもいらない価値の愚行だな。
「あぁ、結構と言っておいて下さい。今回は私が無理に来たようなものですし。それよりも、あなたとお話がしたい。生徒についてね」
「え、えぇ!?」
女子高生は明日の通勤で待ち伏せするとして、私の欲望の標的は今、如月先生、あなたしかない。
その可愛らしい顔と舌を早く切り落としたいーーそんな事が私の脳裏に浮かぶばかりだった。
「そう、ですね。では時間も時間なので、この後、軽くご飯にでも」
見た目以上に積極的だな。でもそんなアナタも嫌いじゃないよ。
その赤らめて下向く姿、他の男が見ればドキドキするだろうなーーまっ、私は何も感じないがな。
「いいですよ。それじゃあ、7時ごろ、校舎前で待っていて下さい。一度、本部へ戻るのでね」
「分かりました!お待ちしてますね!」
口実なんて何でもいいのだ。ただ私は人を殺したいだけのだから。
それ以上でもそれ以下でもない。女性の悲鳴を聞きたいのだ。
いつだって女性は私をいつも馬鹿にする。
高校時代、私はただ真面目で生きているだけで奴らは勉強の邪魔をし、ガリ勉だとか陰湿だと罵声を浴びせてくる。
そして挙句には、服を脱がせて馬鹿にして来た。3人だった。3人が私を貶し続けているのだ。
向こうに理由はなかった。ただ面白いからだと言うばかりだった。
それを片親育ちの私は母親に相談をしたーーそしたらこう返ってきた。
『言い返さないのが悪いんじゃないの?あんた、うじうじしているから』
他人事、そして解決策にもならない言葉だった。
自分のセガレが苦しんでいるのに。それを他人事で済ませてしまうというのか。
私は泣いた。そしてその日の夜、怒りは殺意となり、布団で眠っている母親の部屋へとやって来た。
包丁片手に、ぐっすりと眠る母親の心臓に向かって、思い切り振り下ろし、刃は真っ直ぐ肉体を貫いた。
母親は悲鳴を漏らしそうになっていたため、私は口を押えながら、包丁を引き抜き、もう一度同じ傷口に包丁を刺した。
それを3回ほど行い、私は震えながらに人を殺したことに喜びを感じていた。
私は血まみれの母親をそのまま布団に包ませ、畳の下へと隠し、翌日にあえて警察に行方不明であることを伝えた。
私は警察が近所や遠くを捜索している間、母親の死体を少し離れた廃棄物処理所へと生ゴミの黒い袋に遺体をバラバラにし、自らの手で火の中へ入れ込んだ。
軽くお金を払い、周りの従業員も何の疑いもなく、そのまま事なきを得た。
そして警察は何物をひたすらに探し、2年後、死亡という扱いで事件は終わった。
ここまで綺麗にばれなかったのは奇跡かもしれない。だけど私はこうも思ったーーバレなきゃ、人は殺してもいいのだと。
卒業式の日、私をいじめた女子高生3人を、合法的に処理することにした。
ある日の休日、彼女たち3人仲良く親のお金で買ってもらったであろう軽自動車を追跡、買い物のために降りたスーパーの駐車場、そして裏ネットで買った小さい遠隔操作可能の爆弾。
車の窓が小さく開いているーー初心者にやりがちのことだった。その隙間に爆弾を投げ込んだ。
爆弾はほんの小さいもの、たが車を壊すには丁度いい。当然、乗った本人も肉体諸共消し飛ぶことだろう。
そして買い物から戻り、数メートル進んだところでボタンを押した。
『!!!』
ドッガーンッ!!!!
車は大きく音を立てて炎と煙を纏いながら炎上する。装甲部分は剥がれ落ち、中に乗っていた3人は中から出ることなく車はどんどん残酷となる。
その様子を消防車が火を消し、救急車で真っ黒い遺体が運ばれるのを見届け、私はその場を去った。
その後のニュースでは『新発売の〇〇社の不正部品混入』という形で終わっていた。
車の会社の汚名、そんな訳はないが、ラッキーは続いている。天は完全に私の味方になっていた。
そんな私の復讐劇は滞りなく、老若男女関係なく、殺しに殺してきた。
そして今夜、如月という女を殺す。作戦は決まっている。その乙女心を利用する意外に他ならないのだ。
約束の時間となった。ふふふ、ディナーを楽しもうじゃないか。
★
校舎前、私の車に乗せ、人気のあるオシャレの飲食店を選んだ。
喫茶店兼バーとなっている飲食店。ここは夜の時間になるとお酒が飲めるのだ。
つまり、もうこれを読んでいる皆様には察しが付いているだろうから、野暮な答えは出さずに私の殺しを見て頂こうと思う。
席は小さいテーブル席、緊張しているのかソワソワとする如月、メニューを開きながら質問をする。
「先生は、お酒は飲まれますか?」
「え、えっと……どうしようかな。私、あまり得意じゃなくて」
「ははっ、ここのは3パーセントほどのアルコール度数のもありますから、緊張を解すのに、一口だけ飲まれては?」
「3パーセント……ビールより無いのなら、かなり飲みやすいですよね。じゃあ、一口だけなら」
彼女の性格すれば、たぶんこの店の味を知れば一口で収まるはずはなかった。
なんせジュースみたいに飲みやすいのだから。それに3パーセントは嘘だった。本当はしっかり5パーセントある。
ただこの嘘が通ってしまうほど飲みやすい、ということだ。
「すいません。注文します」
私は手を挙げてウェイターを呼び止めた。そしてお酒の注文と彼女が食べてやすそうなチーズを御つまみとして選んだ。
彼女も言われるがまま、小さく頷いていた。これなら簡単に堕とせそうだと確信した。
生徒からもいじめられ、教師からもきっと何か嫌味を言われてしまう、そんなタイプの人間だろう。
先にお酒が届き、グラスをお互いに上げて、乾杯のポーズをとった。
マナー的な話だが、グラスは本来ぶつけてはならない、そのまま軽く上に上げる。それだけで乾杯の合図だった。
「い、いただきます」
「お口に合うといいですがね」
ぐいっ、と小さく飲み込む如月、驚くような表情で私の見るなり少し大きく声を出す。
「おいしい!」
「それはよかった。それでは、本題の話でもしましょうか」
「はい。あの、私から話してもいいですか?」
「どうぞ。同じ教師同士、辛いことは共有し合いましょうよ」
それから話した内容は案の定、生徒から受けているイジメや教師から言われる嫌味、教師に向いていないタイプの人間が話す内容だった。
夢や希望を与えるつもりで教師になったとか、皆が勉強に興味を持つようになってほしいとか、ふふふ、猿が人の言葉を話せるようにしたいと言っているようなものだった。
そんな話を空返事や相槌で受け答えしていると、気が付けば彼女はお酒に手を伸ばしていた。
「(計画通り……飲んだか)」
30分後、如月の顔は赤く染まり、気が付けば照れながら違う話題に移っていた。
更にはお酒をお代わりしていた。これは想像以上の結果、時間は22時、そろそろいい時間だった。
「如月さん、今日はそろそろ帰りましょうか。明日、お互い仕事でしょうし」
「ふぇ~?いいじゃん、もう少しだけ~」
かなり酔っぱらっていた。相当お酒が弱いのだろうな。
ふらふらの彼女を見兼ねてタクシーへと電話をした。そしてウェイターにお会計を同時に済ませた。
お金は当然私が全額負担したが、これからの楽しみを思えば安い金額だった。
「ほら如月さん、肩貸しますから」
「う~ん」
20分後、お店の前にタクシーが到着する。
如月はボソボソと自宅の住所を言うと、そのままタクシーはその場所へと向かった。
そう、もうここまで順序が進めばお察しだろう。問題なのはそう、誰もいないところへ行くというこだった。
見たところ私と同じ独身、見た目だけはとても美しく可愛いのに、その気弱さで周りに馴染めない愚かな女であった。
5分後、割と近い距離で車は止まり、お金を払い、彼女のポケットから鍵を取り出して、肩を貸しながら自宅の中へと入る。
アパートの1階、1Kほどの広さと玄関近くに風呂場が見えた。
「ほら如月さん、コーヒー淹れますからきちんと入って目覚まして下さい」
「あぁ、家?うーん、あれ?山崎さん?」
酔いが徐々に覚めてきたようだ。別にそこは問題じゃなかった。
もう手段は決まっているため、シナリオ通りにヤカンに火をかけ、お風呂場にお湯を溜める。
「ブラック飲めば、多少は落ち着くでしょ?」
「ごめんなさーい。つい、飲んじゃいました」
「疲れていたのでしょうね。ささっ、熱すぎても飲めないでしょうから、白湯程度の温度ですが、飲んでください」
「ありがとうございますホント」
何の疑いもなく飲み干す如月さん、私が何の毒も入れずにコーヒーを淹れる訳がない。
その中に入っているのは時間差で効果を出す麻酔薬、お風呂に入った途端、あなたの死は確定する。
最悪、お酒で眠っているところを殺してやろうか考えたが、それじゃあ面白くもない。
やるならそう、嫌いに身体を残す殺し方が一番だった。なんたって、彼女は美人だからね。
「お風呂、入りますが、の、覗かないで下さいね!」
「ははっ、そんなことしませんよ」
「……山崎さんなら、まぁいいんですけどね」
「ん?」
「い、いえ!それでは!」
今彼女が何を言ったかなんてどうでもいいんだ。大事なのはこの後、そう、薬が効力を出してからだ。
その楽しみが目の前に来て、私はどうにも震えが止まらなかった。
今、殺して下さいと言わんばかりの隙だらけ。無防備。そんな彼女を誰の目にも止まらないところで殺せるのだから。
カップメンの完成を持つように3分後、彼女が上がってこないのが分かった。
恐らく私の想像が間違いじゃなければ、彼女は浴槽で動けない状況になっているだろう。
風呂場へと向かい、静かに扉を開ける。すると、浴槽を方を見ると、彼女の姿がなかった。
「いない……はっ!」
素っ裸のまま、熱湯をかけられた。今何が起きているのか分からず、私は熱湯を掛けられた上着を脱いだ。
「死ね!殺人鬼!」
「……ま、まさか!そ、そうか、貴様、不良生徒らの処理を見ていたな!」
それ以外に彼女のこの行動は考えられない。しかし、麻酔の効果が出ないのは何故だろうか。
それだけの量を一気に飲み干したのなら、多少なり効果が出ても可笑しくはなかったはずなのに。
「貴様、何故身体が動く!?」
「……そういうことね。私、昔から体質で麻酔とか酔いとか感じないの。やっぱ、コーヒーに盛ったのね」
「それが貴様の本性か。ほんと残念だよ」
「それはこちらのセリフよ。私の、私の生徒を殺したなんて……!」
泣いていた。可笑しいやつだ。
あれだけイジメられていたのに何故そこまで悲壮的になれるのだろうか。
人は死んだ時に限って綺麗な姿を思い浮かべるのだな、都合がいいやつだ。
「私はあなたを殺す!そして、私も自主して死んでやる!」
どこから持ってきたのか、包丁を両手で持ち、こちらへとジリジリと近づいてくる。
「君は普段から風呂場に包丁置くのか。もっと早く、気付くべきだったな」
「たまたま砥石で研いだのが置いてあったのよ!黙って殺されなさいよ!」
「はぁ、うるさい声を出すんじゃないよ。ご近所さんに迷惑だろ?それに私は君を気付けないで止めて見せるよ。その綺麗な身体、頬擦りしてみたいね」
「この変態が!」
彼女が行き酔いよくこちらに向かって来た。
両手で押し込むように走り抜ける包丁、身体で受け止めるのは難しいし、鉈を出せば彼女が気付いてしまうかもしれない。
だから私のとって行動はーー
「きゃっ!?」
床マットを足で思い切り引き、彼女は体制を大きく崩し、その場で尻を着いて。その隙を付いて私は包丁を持つ手を思い切り蹴り飛ばした。
包丁は吹き飛び、倒れた彼女の髪の毛を思い切り掴み、身体を持ち上げる。
「人間てのは、髪を掴まれると力が抜けるんだ。そしてこのまま君には死んでもらうよ」
「や、やめて!このーー」
「うるさいな。耳障りな女は嫌いだよ」
近くのある蓋が緩くなっていた洗剤をその口に入れると、彼女はジタバタと悶えた。苦しそうに両手を動かすも、抵抗する力が出なかった。
そのままの状態のまま、お湯が入っている浴槽へと顔を沈めさせた。
「さぁ、ここなら叫んでもいいぞ。もっとも、何を言っているか分からないがね」
「ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!」
バシャバシャとお湯を飛び散らすも、暴れれば暴れるほど苦しくなるだけだった。
パニック状態のまま彼女のとった行動は、お湯を抜こうと浴槽の栓を抜いた。
だがこの咄嗟の行動も虚しい結果になろうとしていた。それは、彼女の髪の毛が長かったが故に、お湯が抜けなくなり詰まってしまう。
「ふぅむ、しかしこれでは死に顔を拝めないな。一回上げようか」
水をたくさん飲ませた彼女を浴槽から出すと、まだ微かに意識だあった。
そして飲み込んだ水を思い切り吐き出し、ゆっくり深く呼吸をしていた。
あれだけ長く溺れていた人間は直ぐに立ち上がることは出来ないことは私も分かっていた。
だから生かしておいた。
玄関近くに見かけた大きい金魚鉢、そこにいる金魚と中の水を捨て、浴槽の残り湯をたっぷりと入れ、再びそこに顔を押し込んだ。
「ギリギリ入ったね。そして入れることは容易じゃなかったが、自力じゃ抜けないんじゃないのかな?」
「!!!!????」
「おぉいいね!その顔、透明で鮮明に見ることが出来るじゃないか!」
身体だけは押さえ、小さい水槽でブクブクと溺れる彼女、その姿を微笑ましく眺めていた。
私は思わず笑いが抑えられなかった。
「はっはっはっはっ!いいぞ、その顔。とても美しいよ。先生、今あんた、教師よりも輝いているよ」
「!?!?!?!?!?………・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
白目を抜き、気絶してしまった。いや、溺死していた。
心臓の鼓動が小さく小さくなっている。お腹はたぷたぷのまま、裸体のまま、風呂場で倒れた。
「さてと、最後の仕上げといこうか」
部屋にある机から手紙やら日誌やらを見つけ、執筆後の漢字やひらがなを観察した。
書く癖や形を覚えた私は、その字に似た必筆で偽物の遺書を書いた。
「溺死の自殺。あとは、部屋の指紋を綺麗にふき取って帰るとするか」
如月は死んでしまった。
それを悲しむ人間はいるのだろうか。きっといないだろう。
私はその部屋を後にし、明日はあの痴漢にあった女子高生を殺すだけだった。
翌日、彼女を駅で見かけた。
そのタイミングに合わせて電車へと乗り込み、近くへと歩み寄る。
電車は満員、いつも通り、一般のサラリーマンとなり、彼女が駅を降りるタイミングを見計らっていた。
「(恐らくあと1駅で彼女は降りるだろう……あとは、適当な場所にでも誘って殺すだけだな)」
私の計画は完璧だった。しかし、ここでまさかの出来事が起こった。
キキィーーーッ!!!
突然の電車の急ブレーキが起きた。
どうやらこの時、線路の上に自殺を図ろうと飛び降りた女性がいたみたいだ。
その女性が如月だったことはこの時の私は知る由はない。
そしてその勢いのまま、私は咄嗟に彼女の腹部に手が伸びてしまった。
それに気付いた彼女、ブレーキの勢いが収まると、私を見るなり大きく声を上げた。
「キャッーーー!!!痴漢ですぅ!!!」
「なっ!?ち、違う!誤解だ!忘れたか、私は昨日お前を助けたーー!」
ざわざわと車内が騒ぎ出す。誤解を招く空気、完全にアウェイの状態となってしまった。
「ちょっと君、いいかな?」
言い訳も空しく、ガタイのいい男が私の腕を掴んだ。
予想もしない出来事に焦りはしたが、腰には鉈があることを思い出し、もう片方の腕で腰を手を伸びすーーしかし、さっきの急ブレーキのせいで鉈が地面に落ちているのに気付いた。
「う、嘘だっ!こんなことーー!!!」
こんな虚しい結末が他にあるだろうか。
この後、私は抵抗することも出来ずに警察署へと運ばれた。そして母親の一件から全ての殺人のこともバレてしまい、終身刑を言い渡されてしまう。
合法的にこれまで殺しをして来たというのに、まさか痴漢で逮捕され、身ぐるみを剥がされる結末を向かうことになるとはーー自分でもなんて愚かな結末だろうと、愕然としてしまった。
そして最後に痴漢の被害だった彼女は逮捕される私にこう呟いた。
「銀のシャネル……やっぱりアンタだったか。オバさん、仇は取ったよ」