半分異世界
朝、脚に違和感を感じて目を覚ますと下半身がなかった。
掛けていたタオルケットは腰から下のあたりのあるべき膨らみがなく、平坦だった。
ただ不思議なのは下半身がないにもかかわらず起き上がって胡座をかくことができるし、布団の上に存在しない脚や尻からはひんやり冷たく硬い、そしてざらっとした砂埃がある床に座っている感触があった。
ちょっと試しに右足で左足をつついてみるとちゃんと感触が有る。
しかし、両手で足のある辺りを触っても有るのは平らなタオルケットと敷布団である。
なんだこれ。
腹のあたりを見ると胴体の周りが幅1cmくらい蜃気楼のごとく揺らめいていた。
ほんと、なんだこれ。
左手を腹に当てたままスライドしてその揺らめきの中に付き入れてみると特に抵抗もなく入っていき、左手は腹から左太もも、膝、脛、そして右足の脛に移って膝、太もも、腹まで辿って戻ることができた。
ちなみに、太ももや脛を触っていた時左腕は肘の辺りまで消えていた。
ええと、要するに次元の裂け目的なものに下半身がハマったって事?
どうしてこうなった。
手を床について引っ張り上げるようにすれば抜け出せるかと思って試してみたが、揺らめきごと持ち上がってしまったし、そのまま手で歩いて移動できてしまった。
そして手を放しても揺らめきに落ち込むことはない。
移動先の近くにスマホが有ったので揺らめきに突っ込んで下半身側の様子を録画してみた。
マイ下半身の無事が確認できホッとしたのだが、周囲は薄暗い通路のような場所であった。
どこよ、ここ。
それはそれとして、下半身がひんやり肌寒い。
ちょっと試しにタオルケットを体に沿って揺らめきの中に入れてみると無事に向こう側に落ちた。
もぞもぞと動いて下半身をタオルケットで包んで人心地ついてふと気づいた。
さっきよりも揺らめきの位置が下がってる。
臍のあたりだったのが鼠径部辺りまで下がっていた。
ひょっとしてタオルケットの体積分移動した?
その推測を確かめるために今度は枕を向うに落とした。
どうやら当たりらしい、太ももの中ほどまで取り戻せた。
よし、この調子で脚の体積分何かを突っ込めば脱出できるだろう。
さて、何を突っ込むか。
捨ててしまっても惜しくないものがいい。
近くにレジ袋があったので風船のように膨らませて突っ込んでみた。
が、ほとんど変化がなかった。
中身がスカスカだとダメなのか?
じゃあビニール袋に水を入れればいけるんじゃないか。
と気づいて早速試そうと立ち上がってしまったのがいけなかった。
「痛ぇ」
向こう側の脚がバランスを崩して倒れてしまったようだ。
ちなみにこちら側は倒れず太ももの中ほどで浮いている。
わけがわからない。
脚での移動はできないので再び手を床について台所に移動し、水入りビニール袋を作っては落としてなんとか脱出ができた。
揺らめきも消えていた。
タオルケットは体に巻いていたので回収したが、枕は向うに置きっぱなしだ。グッバイマイ枕。
その後遅めの朝食を食べて枕を買いに行った。
そんな酷い目に有った数日後、目を覚ますと右目にはいつもの自室、左目には例の通路と水袋とマイ枕が見えていた。
今度は左半身があっちにハマったらしい。
どうしてこうなった…