44.問.パラソル下での出来事とは
青春には太陽と水は付き物だ。
これでもかと晴れ渡った青空に絶え間なく熱を伝える太陽。それらを乱反射させる美しい海面。
これらに若人を加えることで、なんてことない風景が一瞬にして壮大な青春の一ページを連想させる。
これは俺の個人的な憶測だか、生物が水から産まれた過去から紐解いていくと、水と太陽は生命の躍動というものを感じさせるからそう感じるのかもしれない。
ああ、青春……。
「ほれ、ワーカーメ攻撃♪」
「ぶえっ! ヌルヌルするからやめろ!」
「全く、ずっとそこにいるつもりなの?」
「いや、暑いし。大体海来て何して遊ぶんだよ」
「水掛けとかビーチバレーとかワカメ取りとか」
「アイドルが楽しそうにワカメ取ってたらファンの奴らもドン引きだな」
「うっさいな。もう」
カラフルなパラソルの下、畳一畳もないブルーシートで俺の横にやって来たアイルは桜子さんに手を振りながら、俺を横目に見て話しかけてきた。
俺はつい先程、野原と原木に提案をした。
もっともそれは原木自身が中山と仲直りしたいと思っていることを前提に置いた提案だ。
正直な所原木と中山がどうなろうが俺には関係ないし、手を貸す義理もない。
俺が一番気になっているのは野原の事だ。
彼の友達を気にかける一生懸命さは関心するばかりだが、何故そこまでして原木を助けたいのか? そこが俺の中にずっと引っかかっていた。
もし俺の提案が上手くいって原木と中山が仲直りすれば野原の考えが少しは分かるかもしれない。そう考えて俺は手を貸そうと思ったのだ。もちろんだが上手い行く保証はないが……。
「そういえばさ、小さい時も海来たよね」
「小3くらいの時か? あの時も確かワカメばっか取ってたよな」
「だ、だって浮いてたら気になるじゃん。触りたくなるじゃん」
「ならねーよ。そんなことより野原から肝試しの事は聞いたか?」
「さっき聞いたよ? りっちゃんをお化け役じゃなくて参加する側に変更するんだよね? それって意味あるの?」
小首を傾げて聞くアイルに俺はその意図を説明した。
それにしても日焼け止めクリームの柑橘系のいい香りが鼻をつく。
「へぇー。そうゆう意図があったんだ。てかそれ考えたの星くんだったんだね」
「俺が提案しても説得力がないだろ。だから野原ってことにしてもらって進めることにした」
「なんだかんだ言って星くんって頼りになるよね〜」
「だからヌルヌルつけるなって!」
アイルは再びワカメを手に取るとそう言って俺の頬に擦り付けてきた。
美容にはなんか良さそうたが、そんなものに興味のない俺にとってはやめてほしい限りだ。
アイルは満足したのか俺を暫くイジると友達の元へと戻っていった。
「星斗くんは泳いだりしないの?」
そう言って入れ替わりにやってきたのは水ノ下と委員長だ。
二人とも同じ日焼け止めクリームを使っているのかフローラルの香りがしてくる。
「ほら、俺暑いの苦手だし」
とあたかも水ノ下が知っているかのように言ったが、俺は彼女にそんなことを伝えたことはない。
アイルになら普通に気を使うこともなく「友達いないから何すればいいかわからん」とか言えるんだがな。
きっと好きな人には自分をよく見せたいというささやかなプライドが邪魔をしているのだろう。
「そっか、せっかくだから泳ぎ方とか教えてもらおうかと思ってたんだけどな」
「お、泳ぎ方ね。でも俺泳げないよ?」
「そうなの? 前にクロールと平泳ぎはできるって……?」
そういえばそんなことを言ってしまった覚えがある。
これもささやかなプライドが呼び起こした過ちだろう。実際は犬かきしかできない。
とりあえず上手く回避しなくては……。
「ああ、そうそう。クロールと平泳ぎはできるけど、海ってなんていうかプールと要領が違うんだよね。それに俺、今日はサーフパンツだから競泳水着じゃないとしっかりできないというかなんというか」
外気温とは正反対に体は焦りを覚えて冷たくなっていく。
でもまああやふやな回答だったが、これで問題はないだろう。
「そっか。じゃあ仕方ないね。いつかプール行った時に教えてもらおうかな」
「そうだな。いつかプール行った時に任せろ」
「うん。じゃあ私達また遊んでくるね」
そう言って水ノ下と委員長は砂浜を駆けていった。
ポツリと取り残された俺はタオルで汗を拭うとカバンから水筒を取り出した。
また期待させるような余計な事を言ってしまったが、水ノ下とプールに行かなければいいだけだ。問題は無いはず。
ゴクゴクとキンキンに冷えたお茶を飲んでいると次の来訪者が訪れた。
紫色の派手なビキニを着ている桜子さんだ。
太陽の光で自慢の金髪が余計に眩しく輝いている。
「ずっとそこにいるの?」
「特にやりたいことないから」
「ふーん。前から思ってたんだけどさ、空っちアイルの事好きなの?」
「はぁ?」
逆だっての。まったくとんだ勘違いをされたものである。
てかまともに喋るのこれが初めてなのにいきなりぶっ込んでくるな。さすが桜子さん。
しかも空っちってあだ名かよ。ちょっとかわいいから許可するけど。
「アイルの事良く見てるじゃん? それに幼馴染だって言うし」
「べ、別に見てないけど。幼馴染は幼馴染だけどただの幼馴染だし」
「ふーん。でも幼馴染がアイドルってどんな気分なん?」
「そりゃライブみたら凄いなって思ったけど、俺にとったらアイルはアイルで昔から変わらない存在かな」
「なんかお似合いじゃん」
「はぁ?」
今の言葉から何故そうなるのかまったくわらん。
大体活発なアイルと根暗な俺とでは光と闇、太陽と月みたいなもので似合うわけないだろ。
「アイルがアイドルを意識せずに接することができるのって空っちだけっしょ? 自分が自分でいられる存在みたいな?」
「そうなのか? でも確かに本性はツンツンでみんなに猫被ってた時はあったかもな」
首を傾げた俺を見て桜子さんは何故かいきなり手を叩いて笑い始めた。
「へぇー、まあさ、あたしは空っちとアイルがいつかくっついてくれたらいいなって思ってるよ。幼馴染ってやっぱり特別なものだしさ」
桜子さんはそう言うと感慨深そうに海に視線を移した。
その先にいるのは野原と木場をはじめとする男子グループだった。
「後でアイル達とビーチバレーするから空っちも来たら?」
「え、遠慮しとくよ」
俺の返答に桜子さんは小さく笑うとアイル達の元に走っていった。
こうして俺はこの日一日をビーチパラソルの下に捧げると休憩にやってくる班の連中とちょっとだけ会話をしながら過ごしたのだった。
☆
宿舎施設に着くとすぐに晩飯の時間となった。
ちなみに部屋割は男女別に班事に別れており、野原、木場、猪瀬と一緒だ。
晩飯を終え、風呂の時間となるとテンションモンスターである木場がその真価を発揮する。
「女子風呂覗きに行こうぜっ!」
「ひと狩り行こうぜ!」みたいにサラッと凄いことを言い出す奴だ。
「行くわけないだろ。大人しくしてろ」
「そんなこと言って野原くんも本当は見たいんじゃないのぉ?」
そりゃ野原だって見たいはずだ。同じ童貞なのだから。
「バカ! リスクありすぎるだろ? バレたら停学もしくは退学になるかもしれないんだ」
「バレたらだろ? バレなきゃ問題ナッシングマッチよ」
「俺は行かないからな」
「えーっ、アイルちゃんや美織ちゃんの麗しく、神秘的な部分が見れるかもしれないだよ? これを逃したら一生見れないかもしれないんだよ?」
「お、俺は行かないって言ってるだろ」
「仕方ない。じゃあ俺は行ってくるわ」
木場がそう言って部屋を出ようとした瞬間。野原は機敏な動作で立ち上がり、入り口の戸を塞いで木場の前に立ちはだかったのだった。




