26.問.日ノ上アイルの揺らぐ気持ちとは?
家に帰り、自室に入る。
カバンを床に放り投げ、ベッドにダイブすると枕に顔を埋めた。
あーもう神様。
限界。無理だよ。
私を身を呈して守ってくれた星くん。
あんなの見せられたら、さすがに決意だって揺らいじゃうよ。
思わず抱きついちゃったんだもん。
す……、好きって言っちゃいそうになっちゃったし。
でも頑張って耐えた。伝えることのできないもどかしさに泣いちゃったけど……。
さすがに私が好きだって事、気づかれてないよね。もっとくっついて体温を感じていたかったけど、すぐに離したし。大丈夫だ。きっと。
☆
私が星くんに抱きついて離れた後、すぐに赤ちゃんがやって来た。
どうしてあんな事が起きたのか、私は包み隠さずにすべて話した。
『そうか。それは怖かっただろ。大丈夫か?』
『はい……』
『先生、これ、録画してた動画です』
星くんは大切に守っていたスマホをポケットから取り出すと動画を赤ちゃんに見せた。
『これは、完全なる証拠だな。でも、お前はなんでこんなの撮ってたんだ』
『いや、まあその、たまたま。たまたまですよ』
そう言ってバツが悪そうに後ろ頭を掻いた星くん。
どうせきっと彼は私の弱みでも握ろうと思って動画でも撮っていたのだろう。
でもそのお陰で助かった訳だし、助けてもくれた。
『たまたまだよね』
『あ、ああ。うん。そだよ』
私に言われて、動転して驚く星くん。
きっと怒られると思ってたんだろうな。そんなとこも少しかわいい。
『後でこの動画、私に送ってくれ。職員会議に提出しとく』
『神楽坂はどんな処分になりそうですか?』
『多分、停学は行くだろうな』
『そ、それだけですか』
星くんは不服装そうに顔を顰めた。
確かに私としても彼のしたことは許せない。初めてのキスを奪おうとしただけでなく、星くんを傷つけたからだ。
『んーそれ以上は難しいと思う。退学ってのはそいつの人生事態を奪うことになってしまうからな。学校としても安易にその判断はくだせないだろう。まあ謹慎みたいな軽い処分にならないよう、私も言っておくつもりだ』
『くっ……。わかりました。でも先生。あいつが復学してもアイルに近寄らないように配慮してくださいよ』
『無論そのつもりだ』
私をこんなにも心配してくれる星くん。
あぁ、やっぱり本当に大好きだな。
彼は昔から人見知りのコミュ障で普段頼りないけど、ここぞという時には必ず私を助けてくれた。
そんな彼と幼馴染にしてくれた神様に私は感謝している。
初恋で、今でもずっと好きで、かけがえのない幼馴染。
幼いとき木から降りれなくなった私を助けてくれた。
近所の大きな犬に怯えていた私の手をそっと引いてくれた。
飼っていた猫が亡くなった時には一生に泣いてくれたりもした。
単純に一緒に過ごしてきただけじゃない。そこには私が好きになっていった、たくさんのエピソードがある。
どんなにカッコよくても、どんなにいい人でも私の好きという気持ちに星くん以外の人が入ることはないだろう。
☆
夕食の時間になり、リビングに向かうとお姉ちゃんが雑誌を見ていた。
私が所属するアイドルグループの専門誌だ。
「今週末の人気投票って武道館でやるんだよね。私とお母さん見に行くからチケット頂戴♪」
「はいはい。別にテレビでやるし、来なくていいのに」
「妹が活躍する姿は生で見なきゃ。あっ、スペシャルゲストも誘うから合計3枚でよろしくねぇ」
「3枚? スペシャルゲストって誰?」
「それは当日までのお楽しみに。それにしても今回卒業控えてる子もいてセンター取るの大変そうだね。去年5位のアイルより1つ歳上の子も人気上がってきてるし」
「マリるんのこと? 確かに今年に入って次期エース候補に上がってきたけど、私だって候補に上がってきたんだから」
確かにお姉ちゃんの言った通り、卒業を控えた先輩が1位になる確率は高い。
投票を後押しする強力なアドバンテージになりうるから。
だけど新旧交代の波も強く、私を始めとする新世代にもチャンスは大いにある。
18歳以下の新世代でトップ候補として上がっているのは私、日ノ上アイルと同期で高校3年生の南砂鞠。
「確かにアイルも有力候補に名前載ってるね。新世代だとアイルと鞠ちゃんってとこか。前遊びに来てたうさぎちゃんはどうなの?」
「あの子は今年研修生卒業したばっかりだし、100位以内に入れたらいいほうじゃないかな?」
「そうなんだ。うさぎちゃんドジっ子キャラでかわいいのにね」
うさぎちゃん。私の後輩で、高校1年生のアイドル。
本名は竹橋うさぎ。
ダンス中にコケたり、歌詞を間違ったりと天然のドジっ子だ。
何かと世話は焼かされるが、一番可愛がっている後輩で、たまに遊んだりもする。
「うん、まあ可愛いけど、ドジ過ぎるというかなんというか……」
「あはは、確かにそうかもね。まあ期待してるから頑張ってよ」
「うん!」
私は明るくお姉ちゃんに返事をした。
それにしても明日からいつも通りに星くんと接することができるだろうか。
きっと顔みたらいつものツンツンじゃなく、ツンくらい、いやツンにデレが入ってしまうかもしれない。
そんなことを考えながら自室に戻ると私は今日も日記を見て、星太にゃんと会話をする。
「星太にゃん。今回ちょっとくらい星くんに恩返ししてもいいよね?」
「うーんそうだにゃ〜。今回は特別だにゃ」
「にひひ。じゃあ早速お姉ちゃんに教えてもらお」
私はお姉ちゃんを呼び出すと台所へと向かった。




