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問題2―輝夜

 すべての作業を終えて、輝夜(かぐや)は、冷たい手を擦りあわせた。

 タオルでいっぱいになった物()しを眺め、ふぅう、と女子中学生とは思えない年季ねんきの入ったため息を吐く。


 どうしてマネージャーになんかなってしまったのだろう?


 小学校から地元の少年団で続けてきたバレーボール。中学から念願の部活動に入ったが、強豪校の練習のストイックさに嫌気いやけがさし、みずからマネージャーになることを申し出た。

 同学年に区内で有名なセッター選手が入ってきたのも理由だった。背の低い自分は、アタッカーにトスをつなぐセッターこそ生きる道なのに……彼女がいる限りレギュラーは勝ちれそうにない。


 マネージャーに“降格こうかく”しても、輝夜は下っぱだった。

 元々いた二人の先輩マネージャーにこき使われてばかりいる。寒い冬に洗濯当番ばかりまかされるのは偶然とはいわせまい。


「疲れたよ、もう」


 練習着のユニフォームやスポーツタオル。

 他の運動部もランドリールームを使うので、洗濯物の量はハンパじゃない。室内の物干しだけでは足りず、隣の備品室もこっそり利用している。

 広くて明るいランドリールームと比べ、洗剤などが保管されているだけの備品室は、日当たりが悪く、空気がじめっとしている。特にここ数日は気温が低いせいで乾きが悪く、常に何かが干してある状況だった。


 ふいに――。

 輝夜はおかしな気配を覚えた。


 首だけ振り向くが、背後には木製の引き戸しかない。横木目の扉はおしゃれでモダンだが、今はやたらと大きく重苦しく感じる。


 シンプルベルが鳴った。輝夜のスマホの着信音だ。

 先輩マネからの連絡かと思いきや、〈かごめ〉からだった。怪談めいた文章にクイズが添えられており、回答の制限時間までもうけられていて……


 ざわり、と鳥肌が立ち、ジャージの袖をまくった腕をさする。


 早く戻ろう。

 ここに来てから結構な時間が経過している。あまりモタモタしていると、サボっていると思われかねない。

 すっかり冷えてかじかんだ手に、はあっと息をふきかける。

 洗濯カゴを抱え、引き戸を開けようとしたところで、彼女は困惑した。


 戸が(、、)開かない(、、、、)……?


 いや、力いっぱい両手で引けばわずかに動く。枠につっかえているような感じだ。今日入るときもそうだった。振り返れば、数日前から調子が悪かった気がする。以前はそんなことはなかったのに。


『制限時間まであと10秒』


 やだ――。

 まるで彼女を「行かせまい」ととどめているようではないか。

 かじかむ指で必死に隙間を広げる。ようやくカゴが通るだけの間ができ、横向きになって半身をすべりこませた。少し手間取る。

 もっとダイエットしておくんだった……。後悔してもあとの祭りである。


『うしろの正面、だあれだ?』


 スマホが新たな着信を知らせる。

 気をとられて、わずかに脱出が遅れた。


 備品室に残したままの左半身と、廊下側の右半身。ひとつの身体なのに、感じる空気が別世界のように違うのはなぜ? 輝夜は心の底から震えあがった。

 


『問:彼女を閉じ込めたのは、なにか?』

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