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嫉妬

作者: ハイボールと唐揚げ

 あの人みたいに歌いたい。

 中学三年生の私はネット上に上げられた動画を見てそんな欲望を抱いていた。

 あの人の綺麗な声を真似して歌ってみるが、私の喉からは(かす)れた声しかでない。

 あの人の発音はあんなに綺麗なのに、私の口からはぐちゃぐちゃな発音しか発することができない。

 もどかしい。この喉が、自分自身が。

 そんな私の心の叫びが聞こえたかのようにアイツは現れた。

 綺麗に整えられた黒の長髪に、何も映ることのない漆黒の瞳。シワ一つないスーツをまとったそいつは自らをEligos(エリゴス)と名乗り、整った顔立ちで私を見下ろした。

 私はエリゴスに何の用かと聞くとエリゴスはスマホに映ったあの人を指さし、驚くほど無感情な声で私に言った。私はお前の望みが叶えられると。

 何を言っているんだ、こいつは。と私は思いながら冗談で、なら私の喉とこの人の喉をすり替えて。とエリゴスに言ってみた。するとエリゴスは無言で頷き私の首を掴む。

 苦しい…!!

 私はエリゴスの手から離れようともがいていると、エリゴスはスマホの画面に手を突っ込む。まるで画面が水面の様にエリゴスの手を受け入れ画面の中へと入っていき、画面の向こうであの人の首を掴んだ。

 そしてエリゴスは何かをぶつぶつと唱え出す。聞いた感じ日本語では無かった。

 直後、体内から殴られたような感触が私を襲う。首を掴んでいた手を離され、私は自室の床に転がり痛みに悶えた。

 私ではない誰かの呻く声が聞こえる。誰が呻いているのかと私は見回すが、部屋には倒れている私とそれを見下ろしているエリゴスしかいない。

 私は声になっていない声を上げながら立ち上がろうとして――気づいた。私はエリゴスに掴まれていた首を触る。試しにあーあーと声を出すと私の声とは違う声が部屋に響いた。

 私は驚きエリゴスを見る。エリゴスは変わらず無表情でこちらを見ていた。その顔からは感情が一切感じられず、まるで死人のようだった。

 私は喜んだ。あの人の声を得ることができた。あの人のように歌うことができる、と。

 私はその日、あの人の声で声が枯れるまで歌った。エリゴスはいつの間にかいなくなっていた。

 次の日、私が学校へ行くと皆から声のことを言われた。私は声が枯れてしまったと言っておいた。恐らく皆は私の声帯の変化に気づいたいたのだろうが私はエリゴスのことを言わなかった。私はこの喉を盗られるのが怖かったからだ。

 学校から帰りスマホを弄っている時、私はあの人が引退することを知った。しかし私は気にも止めなかった。私はあの人の声を持っているのだから。

 さっそく今日も歌い始めた。しかし歌ってみると、昨日は気づかなかったがどこか違和感がある。あの人とは違う感じがする。

 原因はすぐわかった。歌い方だった。私は歌い方があの人とは根本的に違ったのだ。

 私は苦しんだ。歌いたい。あの人のように、二度と聞けないあの人の歌を私が…

 すると目の前に、一つの黒い影が現れた。

 エリゴスだった。エリゴスは机に置いていた私のスマホを無言で手に取り、もう片方の手で私の頭を掴んだ。

 すると、視界が歪んだ。自分がいま立っているのかも寝ているのかもわからなくなり、私は思わず手で顔を覆う。

 しばらくすると、視界が元に戻った。私は倒れていた体を起こし、かぶりを振る。

 その日は酷い吐き気が続き、ずっとベッドで横になっていた。

 翌日、まだ少しボーッとする頭で登校すると三時間目が音楽だった。二時間目が体育だったので憂鬱な気分のまま合唱をした。

 なんだかいつもとは違う感覚で歌えた。いつもより上手く歌えた気がする。

 私は家に帰りなんとなくぼそぼそと歌っていると、違う感覚の正体がわかった。こう歌いたいという意思が自然と思い付く。そしてそれで歌うとまるでプロのように歌うことができた。

 私は嬉しくて、録音をした。録音したのを何回も再生して、私は悦に浸った。

 私は満足していた。満足したはずだった。しかし、

 あれが欲しい、これも欲しい。あれも、それもこれもどれも…

 私は欲しいものが思い付くとエリゴスが現れ、欲しいもの全部与えてくれた。

 画力、知能、金、尊敬、仲間…

 やがて私はこう思うようになっていた。

 エリゴスになりたい、と。

 そう思った瞬間、エリゴスが現れ無表情だった顔をぐんにゃりと歪めた。その顔は嘲笑(わら)っているように見えた。

 エリゴスは私の首を強く掴み持ち上げた。エリゴスの指が首に深く食い込み、私は抵抗するが外れることはなかった。意識が朦朧(もうろう)とし、口からは唾液が垂れ、目はぼんやりとした景色しか映らない。

 そして私は、意識を手放した。

 次に目を開けたとき、私は“私”を見下ろしていた。そして私の目にはエリゴスの姿が映っていた。

 顔を醜く歪めた私は私に向けてこう言った。

「頑張れよ、“Eligos(エリゴス)”」

 私がそう言った途端、私の体が光を照らされた影のように消えていく。とどまろうとすると空気の元素一つ一つが私の体を削っていくような痛みに襲われる。

 やがて私は影に溶け、実体と同時に意識を失った。

 部屋では、私の姿をしたエリゴスが私の声で笑っていた。

 はい、どうも。ハイボールと唐揚げです。

 SS二作目です。いかがでしたか?自分的には満足してかけたかなー、と思っています。

 さて、作中に出てくるエリゴスという謎の男、あれは悪魔を元にしてイメージしたキャラクターになっております。設定とかもそんな感じ。何故エリゴスを選んだのかは聞かないでください。適当に選んだだけなので。

 私の方は…誰でしょうね。私、ハイボールと唐揚げが思う人間とでも申しましょうか…それとも私自身なのでしょうか…

 人間って大体強欲じゃないですか。もちろん私も含めて。それに加えて隣の芝生は青く見えるもんですから、そりゃあ人のもの欲しくなりますよね。ちなみに私は今一番欲しいのは画力です。

 …あ、ちょっと待って。新しいノートパソコンも欲しい…

 そんな感じです。

 前作の「背中」や、不定期連載中の「ゲームの世界で俺が銀髪ロリ美少女になって武器を作ります」も良ければ見ていってください。

 それでは。

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