第6話 姉と言う者(1)
「見て見て!あれってスケート場だよね!うははっ、なんでもあるんだ。
…っと、いや〜、久しぶりだなー、ここに来るの」
全国にその名を馳せている超有名な娯楽施設、その名もラ◯ン◯◯ン。
学校から少し歩いた駅から電車で数駅先の所にあるその施設は、確かに遊ぶにはもってこいの場所だった。
僕が最後に来たのは、妙にパリピ男子パリピ女子が多かった中学最後のクラスで、
「卒業記念に全員で遊びに行こうぜ!」
と言ったパリピ軍リーダーの指令によっての強制参加がそうだったな。
お金がないからとの理由で断った一部の陰気なクラスメイトも、パリピ一味の金持ち担当、金持君の援助によって参加を余儀なくされ、担任の先生はとても団結力のあるクラスを持てて幸せだったと涙を流していた。
「おい勇!屋上でバスケしに行こうぜ!絶対に女子がいるはずだしよ!」
「屋上に行くのは構わないけど…変に絡んでいったら他人のふりをするからな」
僕らは二手に分かれ、二人で屋上へ向かった。それから数分後、僕は他人となった悠里を置いて二人の元に戻った。
それで聞こえてきたのが竜崎の声だった。前半部分はよく聞き取れなかったけど、久しぶりに来たって言うのは聞こえた。
「へえー、てっきりこういう所によく遊びに来るタイプだと思ってたんだけどな。姫野さんは初めてなんだよね?」
「は…はい。お母さんに、あんたみたいなのが行ったら死ぬ、と言われて生きてきたので…。
今日は、竜崎さんに誘ってもらったのが嬉しくて、高校生になったし大丈夫かな…と」
「死ぬんだ…」
姫野さんはかなりの箱入り娘なのかもしれない。そう考えていると、竜崎がこう聞いてきた。
「ねえ勇、あいつはどこ行ったの?」
「あいつって?」
「江口」
「江口?誰それ?他人じゃないかな」
「ふーん、知らないならいいや。じゃあ一緒に回ろっか」
僕らは時間いっぱい楽しんだ。江口という人が途中から仲間に加わったが、姫野さんにちょっかいをかけるたびに竜崎が追い出していた。周りが見れば男二人、もしくは三人に対して女子一人が遊んでいるように見えただろう。
実際はほぼ男一人に女子二人だったけど、周りからそう見えるように、竜崎はほぼ男だし。
唯一の女子枠だった姫野さんもキツイ性格ではなかったから、僕が肩荷の狭い思いをする事は無かった。ある意味キツくはあったけど。
出会ったばかりの人とでもこんなに楽しめるもんなんだなって、本当にしみじみ思ったよ。
「二人とも、そろそろ時間だけど」
「えっ!もうおしまいって早くない!?」
「時間が過ぎるのがすごく早いんですね…とても楽しかったからでしょうか」
「悠里の奴はどこにいるんだ?」
彼は現れては消える存在となっていたので、今現在、こちらからはどこにいるかわからない。
僕はバッグから特に意識せずにスマホを取り出そうとして、気がつく。
「そういえば、悠里の連絡先なんて知らないや」
高校入学祝いとして買い与えられたスマホには、連絡先に姉しか登録されていなかった。悲しいとかは思わない。今日まではただのゲーム機として扱っていたんだし。
「ちょっと探してくるからさ、先に出て待っててくれる?それじゃ」
「待って!」
多分屋上だろうし、さっさと迎えに行こうとすると、竜崎に呼び止められた。
「連絡先!交換しとこうよ。ほっ…ほら、今しておけば後ですぐに合流できるしさ」
「まあ…それもそうか。それじゃ番号を伝えるからさ、そっちから掛けてきてくれる。06…」
「あっ、待って待って」
番号を伝えると、竜崎の番号からの電話が掛かってきた。これは後で登録しておこう。
「じゃあ、後で」
「うんっ」
さあ、屋上へ急ぐか。
◇
「ねえねえ愛花ちゃん、登録ってどうすればいいのかな?」
「ええっ、知らないんですか竜崎さん…」
「うん。スマホ以前に、携帯電話自体手に入れたばかりなんだよね」
「えっとですね…あれ、竜崎さん、何をそんなに笑ってるんですか…?」
「ほぇ!?何にもないよ?あっ、後で愛花ちゃんの連絡先も教えてね」
「私のですか!…良いのでしょうか!?」
「もちろんだよ。僕の二人目の友達なんだから」
「ああ…こんなに良いことがあるなんて…何か悪いことが起こる気がします」
◇
一人、エレベーターで最上階までやってきた。人がごった返している。悠里は一体どこにいるかな?
「それでですね、手は添えるだけで力は抜いて」
「えー、分かんない」
「仕方ないですね、ほら、リラックスして」
「あっ……」
「あっ…じゃねぇぇぇ!!」
「ぐはっ!」
悠里はバスケットコートで発見した。僕は彼のナンパする風景を見つけた途端、迷わずに飛び蹴りを喰らわした。
ナンパ中の悠里、に、密接してバスケットボールのシュートの仕方を指導されていた女性に。
「おい!何やってんだよ勇!」
「ふん!」
「痛っ!」
こいつにはなんとなくビンタを。
「いった〜い。何すんのー」
「どうして!今!ここにいるんだよ!鳴姉!」
僕は唯一の肉親、ただ一人の姉である陽本鳴にこう言い放った。
「鳴音!?嘘だろ、お前の彼女だったのか!お前…年上好きだったのかよ」
「違うから!陽本鳴、僕の姉!」
と言うか、本当に何故ここにいる。仕事は?
鳴姉はこっちに越してきてから何か仕事を見つけたとは言っていた。なんの仕事かは教えてくれなかったけど、今日は一応平日だよ?
「その通り、勇ちゃんのお姉ちゃんでーす」
「お姉ちゃん…えっと、なんか、それはそれですまん、勇」
「知り合いが身内をナンパする状況ほどキツイものはないと思え。まったく。で、どうしてここにいるのさ?」
陽本鳴、24歳、高校時代柔道のインターハイ出場経験有り。しかし、ある事情で棄権。これは準決勝を控えた時の事だった。
その他にも様々な格闘技の経験がある彼女は、実は飛び蹴りを受けようともほぼダメージを食らってなかったりする。
「えー、そりゃ大事な弟が寮から出かけて電車になんか乗り出したらー、姉としてはほっとけないに決まってるじゃん」
「鳴姉、まずどうして僕の行動は把握されてるのかな」
「どうしてだろうねー。うーん、GPS的な物じゃないかなー?」
GPS的な物は限りなくGPSだよ!このスマホにそんな機能が付けられていたのか!
いやまだスマホにと決まったわけじゃないけどさ、逆にスマホじゃなければ怖いんだけど。体内に仕掛けられてましたなんて恐怖しかない。
「それじゃあそれで僕のとこについてきたとして、どうして悠里にナンパされてたの?」
「んー?さすがに私も、勇ちゃんが女の子二人を連れてデートしてたとは思わなかったからさー、たまに側に現れてたこの子で遊ぼうかなーって。勇ちゃんのお友達なんだよね?今が食べ頃じゃない」
「ああもう!この変態が!」
「俺があわよくば頂こうと思っていたのが、逆に頂かれかけていたと言うのか…」
鳴姉の普通じゃあない発言を聞いて、悠里は若干引いていた。
「そうだ悠里、鳴姉の性的趣向は常に僕の年の男なんだ。中学の頃は僕を含めた男子中学生をそういう目で見ていた。おそらく小学生の時も…」
「もー、別に犯罪を犯そうなんて事は考えてないんだからさー。せいぜい愛でたいだけ。まあ、もう勇ちゃんも高校生だしー?そこんとこの保証はできないけど」
「だから僕は貞操の危機を感じて寮暮らしにしたんだ!」
寮暮らしが楽しそう、と言う理由以外に、実はこのような理由も寮に決定する一つの足がかりとなっていた。
「なるほど、そして俺が蹂躙されてしまうのを助けるためにここへ来てくれたのか。だけどな、俺は相手から攻められるっていうのも悪くないと…」
「時間だから来たんだ!もう二人とも出て待ってるんだぞ」
「時間?おお、それじゃあ早く出ねぇとな」
「えー、勇ちゃんもう行っちゃうの〜」
「休日には帰るから大人しくしてて!後仕事をサボってまで来なくていいから!」
「おっけ〜。約束だよー」
「勇の姉ちゃんさようなら〜。また会いましょう」
アクシデントにより退出時間ギリッギリになってしまったが、なんとか時間内に出ることができる。
鳴姉は性格に難はあるけど、色々世話にはなっているので、別に嫌いではない。性格はおかしいけど。
どちらかといえば好きでもある。面倒見は良いし。僕の所持金は親戚からのお年玉と鳴姉からのお小遣いで占められている。
「なあなあ勇、姉ちゃんすげぇ美人だったな」
「美人でも中身がダメじゃアウトでしょ」
「うんにゃ、ドンピシャ好みだわ。顔良し、胸良し、そんで中身もエロいんだろ。寄ってくる男も少なくねぇんじゃねえの?」
「多いよ。いや、多かったと言えば良いのかな」
「過去形?」
「ほら、さっさと出るぞ。竜崎達には面倒だし鳴姉の事は黙っとけよ」
「へいよ。また嫉妬されたら面倒だしな」
「は?」
「いいや何でも。それで、どこいんの?」
「ああ、ちょっと待って、さっき連絡先を交換したから」
会計を済ませた後、悠里の問いに対して僕はスマホを取り出す。
よく考えれば、出てすぐの所で待ってて、とでも言っておけば、最初から楽に合流できて良かったかな。
『は…はい!こちらは竜崎だよ!』
「あっ、竜崎?今どこにいる?」
こちらはって、お客様ご相談センターじゃ無いんだから…
『うわ〜声近っ…って、違う違う。大変なんだよ、愛花ちゃんがね』
「姫野さんが?どうかしたの」
『うん、愛花ちゃんが…』
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