第5話 男友達、女友達(3)
1話1話の文字数を多くできるように頑張っています。
読み応えのある話が書きたいです。
「ふう、危なかった」
竜崎を連れて部屋に避難した僕は、ひとまず安堵のため息を吐いた。
悠里はちゃんと対処できているだろうか。良くナンパをしてるだろうし、口が上手い奴だとは思うけど。
「竜崎さ、もう少しこそこそ動かないと。見た目だけなら男子だけど、声とか仕草は女の子なんだから」
「…」
「竜崎?」
どうしたんだろう。竜崎の様子が。
「……名前」
「名前?」
「悠里って、江口の事なんだよね」
「ああ、名前ってその事?そうだけど…」
震えてる?
バッと彼女がこちらを振り向く。その頬はぷくっと膨らんでいた。変顔には見えない。
「僕を仲間はずれにしてさ、酷いよね」
「仲間はずれって?」
「僕が女だからなの?」
「ちょっと待って竜崎、何か怒ってる?」
「怒ってないよ」
「本当に?」
「喰らえぃ!」
「嘘じゃん!」
突然のパンチを咄嗟に受け止める。昨日の右ストレートは頭の機能が低下していたためにもろで受けてしまったけど、今回はちゃんと反応できた。
「なんだいなんだい、僕が女だからってさ。僕もちゃんと混ぜてよ。仲間はずれにしないでよ。僕はバカみたいな事を言いながら遅刻してきた君を見て、わぁ、この人と友達になりたいなって思ったんだよ?
そりゃ僕は女だけどさ、服は男物が好きだし、可愛いものよりかっこいいのが好きだし。なのに、なのになんでダメなのさ!」
「いやいや竜崎?確かに竜崎が女子だって事を聞いたときは驚いたけどさ、別にお前を仲間はずれにしようとか、そんな事は…」
ぽろり
一筋、彼女の目から涙がこぼれ落ちた。それを見た僕は、なんだかとてつも無く居た堪れない気持ちになった。
なんとかして慰めないと。僕にはなにができる。僕が竜崎にできる事、ああでも無くて、こうでも無くて…
「竜崎…ごめん!」
「ひゃっ!」
ぎゅうっと、僕は彼女を強く抱きしめた。目の前で泣いているのは男じゃ無くて女子なのだ。
過去に何かがあったのはよくわかった。けど今は、そんなのどうでもいいから彼女に泣き止んで欲しい。そう思えた。
「むぅ!?むー、むむー!ぷはっ!な…なにすんのさ!」
あっ、泣き止んでくれた。泣いたせいか、顔は真っ赤になってたけど。
「いや、竜崎が泣いたのを見て、なんとなく」
「はぁ!泣いてなんてないよ!どさくさに紛れてハグなんかして…あっ、けどなんか、そういうのって友達っぽいかも。
…ねぇ、急に抱きついてきたのは許してあげる。その代わりさ、もっかいぎゅっとしよ?」
「え?」
あれ、泣き止んでくれたのは良かったけど、おかしな要求をしてきたぞ?更に怒らせてしまったのか?
確かにどさくさにって感じだったのは認める。でも、だからこそ、このシラフでの状態で異性に抱きつくというのはなんとも恥ずかしいものが…
(まあ、でも機嫌を直して貰うためには、多少の恥は捨て置くべきか)
そして僕は自身の恥の上塗りをしている事に気付かぬまま、もう一度抱擁を、
「おーい、とりあえず誤魔化しといたぜ〜。俺は自分よりイケメンな奴は嫌いなんだから二人っきりにするなよな、マジで」
とはならなかった。
「あり、なんで二人共突っ立ってんだよ」
「ん?なんでも。ささ、僕らも着替えないと。竜崎は外に…じゃダメか。どうしよ」
「向こう向いてもらっときゃあいいじゃねぇか。それじゃ俺も着替えてくるから」
隣の部屋に去っていく悠里。さあ、僕も着替えよう。
「じゃあ竜崎、向こうの方を見ててもらっていいかな。あっ、ハグするんだったっけ」
「…ううん、やっぱ止めとく」
上目遣いで僕を見ていた竜崎は、そう言って壁の方を向いてしまった。
僕は安堵と落胆?の感情の中、パジャマを脱ぐ。
「じぃーっ」
「……あの、なぜゆえこちらを見ているのでしょうか」
「服を参考までに…」
「僕は今パンイチなんだけど」
「そっ、それもそうだね」
なんだ?やっぱりまだ怒ってて、嫌がらせで僕の裸体を見てたのか。
「なあ、やっぱりハグを…」
「それはもういいの!早く着替えちゃって!」
うーむ、謎。
◇
「さて竜崎、今日はどこに遊びに行こうとしているんだ?」
僕は今回の発案者である彼女に、さっきの事は気にするなとばかりにそう聞いてみる。
まだ何かを怒っているかもしれないけど、僕も恥ずかしい思いをしたし、お互いに忘れようぜという気遣いだ。
ちなみに僕の着替えは完了したが、悠里の外出準備がまだ終わらないらしい。髪のセットが大事なんだと。
「ねえ、陽本は僕を仲間はずれにする気はないって言ってたよね」
…そうか、まだ僕が急に抱きついた事を許せないか。まあそりゃそうだよな。見る人が見れば僕は性犯罪者だ。
「証拠、見せてよ」
「証拠?仲間の証拠と言われても…やっぱりハグ?」
「しつこいなぁ!名前だよ、名前!僕も名前で呼んで」
「下の?」
「うん、下の。女々って」
「女々」
ぐはぁ!自分でさらっと言っといてすごい恥ずかしいぞ。
けれど、竜崎はきっと中学の時に友達がいなかったんだ。さっきから妙にそんな発言が目立つ。
なら僕が彼女の心の穴を埋めてあげないといけない。
「…あれ、おかしいな。アニメじゃ普通に呼び合ってたのに…あれ?」
「どうしたの?女々って、ほら、女々」
「ちょっとストップ!黙ってて!」
何故怒られる。平静を保ってるけど、女子を下の名前で呼ぶってかなり恥ずかしいんだぞ。思春期をなめるな。
「…やっぱり、竜崎でいいや」
「そうか。いや、僕もその方が助かるかも。精神的に」
「もうこの話は終わり!勇…もちゃんと僕の事を名前で呼んでくれたし、僕も満足した。これからもよろしくね!
それよりどう?この服かっこいいかな。僕的には結構良いと思うんだけど」
「うん、よろしく。よく似合ってるよ、その服」
最終的には、僕の事だけを下の名前で呼ぶ事で満足したらしい。昨日僕に喋りかけてきてくれた竜崎に戻っていた。
「待たせたな!セット完了だぜ!」
僕らは竜崎ができるだけ人目に映らないように寮を離れ、出口の一つへと向かった。
寮の敷地からの出口には、学校へ繋がるものと、外へ繋がるものの二つがある。この内、私服で通って良いのは外へ繋がる門だ。
逆に、学校側の門は制服でなければ通ってはいけない、と言う規則がある。
「あっ!すっかり忘れてた!」
と、突然竜崎が何かを思い出したようにそう言った。
「どうしたの?」
「愛花ちゃんの事!一緒に遊ぶから外で待たせてるの!先行ってるね」
そして、駆け足で門へと走って行った。
「愛花ちゃん?女子寮の人を誰か誘ったのかな。どう思う悠里…」
振り返ると、彼の姿はそこには無く、背後から声がした。
「よぉし、よくやった竜崎!可愛い子だろうなー!」
「へ……?」
唖然とするしか無かった。何そのこうなる事を期待していたぜ感。
置いて行かれた僕は一人、しばしの膠着のあと、門へと向かう…
「ごめんね愛花ちゃん、ちょっと時間がかかっちゃって」
「うぅ〜、ひどいです竜崎さん…私一人置いてけぼりにして。もう戻って来ないんじゃないかって、私、わだじ……ああ、不幸です!私の不幸のせいで周りの人も不幸になるんです!」
「もう、ちゃんと戻ってきたでしょ。泣かないでよ〜」
なんだなんだ?えらく悲観的な事を言っている子がいるぞ。
顔を両手で押さえているからどんな子かはわからないけど、服はちゃんと女物だ。背は多分余裕で竜崎より高い。
髪も、竜崎は肩の少し上までの男にも女にもある髪型なのに対して、彼女は腰のあたりまで伸びた綺麗なストレートヘアをしている。
「よーしよし、落ち着いた?」
「ぐすっ、はい…もう大丈夫です」
「そうさ、君みたいな女性に涙は似合わないんだぜ」
「ひっ!チャラそうな人怖い!」
「ちょっと江口!しっ!しっ!向こう行って」
手をどけた彼女の顔は、なかなかの美人だった。が、クサイ台詞を言った悠里を見て、また殻の中に入ってしまった。
「おい、見たか勇よ。あれは間違いなく上物だぜ。ちと胸に問題があるが、あれは将来性のある胸だ」
「ゲスいことを言うなよな。昨日ナンパしてた子を忘れたか」
「それはそれ、これはこれ」
「このクズめ!」
「おいおい、俺の実力はまだまだこんなもんじゃねぇぞ」
やいのやいのと二人で言い合ってると、あの子がなんとか再び顔を上げた。
「ほら、紹介するね。この二人が昨日話した陽本と江口だよ。
二人とも、この子が僕らと同じクラスで、相部屋の姫野愛花ちゃん」
「は…初めまして、姫野愛花です。えっと…本日は竜崎さんにお誘いいただきまして、えっと…その…」
「同じクラスなんだ、昨日は気づかなかったな。僕は陽本勇。よろしく」
「君のような人が同じ空間にいたなんて…俺は江口悠里、是非仲良くなりたいな」
「ひぅ!竜崎さ〜ん」
姫野さんは、悠里に対してかなりの拒絶反応を見せてくれるな。竜崎の彼への対応も少し冷たい気がするし。
まあ女の敵みたいな奴だし、おかしくはないと思う。
「えっとね、愛花ちゃん、小中の頃に悪い男に何回も騙されたことがあるんだって。それで江口みたいな奴が苦手らしいんだよ」
「なるほど。うん、確かに幸薄そうな顔をしてる」
「酷いです」
「ああ、ごめんね」
なんと例えよう、騙されやすそうと言うのか、不幸な人の面をしていると言えばいいのか。幸せが訪れない顔…が近いかな。
「陽本君は…昨日遅れて来て変なことを言ってた人…ですよね…?」
「んー?変なことを言った覚えはないかな。遅れたのは本当だけど」
「あれ?聞き…間違い?」
やはりあれは変なこと扱いか。酷い扱いだぜ!まったくよ!
「どうしてそこで嘘をつくのさ…まあいいや。
それじゃあ早速出発しよっか」
「結局どこに行くんだ?」
「ふふん、目指すは大型アミューズメント施設!
…僕、一度も行った事ないんだよね」
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