第4話 男友達、女友達(2)
昼食を食べ終わった後、僕は荷物の整理を始めた。
けれど、服を出し、今日教室で受け取った予定表やら教科書やらを机に並べ、雑貨を出したらそれで終了。
さあどうするかと悩んでいると、同じく暇を持て余した江口、改め悠里が部屋へ乱入、僕に一階に行くぞと言い出した。
彼に部屋から連れ出され、一緒に一階に行くと、ああそうか、と納得できた。友達は多いに限るからね。
僕たちは同級生達に混ざって、共に親睦を深める事にした。
話を聞いてみると、ほとんどの生徒が男女比3対7の事実を知っており、人数が少ない分、僕らは孤立を避けるためという目的のもと、主に同じクラスの人を中心に友達作りに励んだ。
そして夕食を食べ、大浴場に入り、寮全体のテンションがなんとなく高いまま、そろそろ消灯、という時間になった。
僕自身もなんだか旅行気分のような気持ちでベッドに入り、目を瞑り、そしてなんとなく僕は、今日の事を振り返った。
ーーーーー
今日はいろんな事があったな。
友達も何人かできた。まあ、下の名前で呼び合うのは悠里とだけだし、竜崎は女子だったけど。
竜崎が女子だったとは、驚きだよ本当に。
けれど、最初に喋りかけてきてくれたのは竜崎だし、彼女が僕に普通に接してきてくれる以上、僕も女子だったって事は気にせずに付き合っていけたらいいな。
あれ?女子と言えばもう一人。
そうだ、氷室憐だ。
僕、あの人のパンツ見たんだよな。しかも、振り返って僕を見つけた彼女に、なんて言ったっけ。
…思い出した。
あの、そのパンツ、レースの黒で合ってる?すげぇエロかったんだけど。…だ。
「うわぁ…」
最低じゃん!
て言うか、気持ち悪!
えっ、よくあんな事を言ったね僕!
「きもい、きもいきもい」
絶対に嫌われてる。間違いない。
あぁもう僕、なんであんな事を言ったんだよ!恥ずかしい!
「死ぬ!恥ずか死ぬ!」
言って良い事と言わないほうが良い事の違いもわからないのか僕は!
「しかも何だよあの謝り方!興奮しちゃって…ってバカなんじゃないの!あー恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!」
ーーーーー
「うるせぇよ!」
(はっ!何が起きた!?)
僕が頭の中で今日やらかした事を振り返っていると、何故かいきなり悠里が部屋の中に入ってきた。
「え?どうした悠里」
「どうしたって、お前の声が隣まで聞こえてきてんだよ」
ちなみに、今はまだ消灯時間では無いため、廊下の明かりはついていて、それによって彼だと認識できた。
さすがに、今日聞いたばかりの声だけで判断するのは難しい。
「あっ、僕、声出てた?」
「出てたというよりは、叫んでたって感じだけどな」
「まあ、今日は特にやらかしちゃったからなぁ。あー恥ずかしい」
「なんだよ?何かあったのか?」
「何があったかはちょっと黒歴史過ぎて言いたくないんだけどさ。
ほら、たまに無い?自分で言っといて後から恥ずかしいがやってくる事。それで、それに悶絶して恥ずか死にたくなる事」
「まあ…わからないでも無いな」
「それで、失敗のレベルが高くなるとさ、思わず心の声が漏れちゃうんだよ。昔から。なんか、ごめん」
「…なるほどねぇ。まあいいや、ともかく声量には気をつけろよ。俺が止めなきゃよ、他の部屋まで届く程の大声になってたところだぜ」
「ああ、あんがと」
「じゃな」
そうして彼は部屋へ帰っていった。
(…それにしても、随分と久しぶりだなぁ、やっぱり、高校生になったのが原因の一つなのかな。最近は抑えれてたはずなんだけど)
思い出すのは中学校時代、その頃の僕がやらかした出来事。
けれど、あの事件の数々を知っている奴は、もうここにはいない。そう思うと、少し安心できた。
「…はぁ、無心で寝るか」
そして僕は何も考えないように寝るように努めた。具体的には、頭の中に一枚の白い紙をずっとイメージするように。
まあ、何度か黒い生地がチラチラと脳裏に現れたのは、仕方がない事だったと思う。
◇
翌朝、
この日は休みだった。入学式から一日挟んで始業式があり、その日から授業が始まる。
僕は予定が入っていたため、目覚まし時計を使って9時きっちしに起床した。
え?目覚まし時計は壊れてるんじゃないかって?おいおい、誰がそんな嘘を言ったんだい。
朝食はパンを食べた。ピザトーストだ。食パンの上にチーズとかハムとかが乗ってあるやつ。
ちなみに、食堂には購買的なエリアも隣接してあるので、菓子パンも買える。ただなんとなく、パンは食パン派の僕なのだ。
そうこうしてると、悠里が部屋からやってきた。彼は朝が弱いらしい。
「おはよう」
「おう…おはよ…」
「ちょっと、そんなので遊びに行けるのか?」
「だいじょーぶだ…じきに頭が回りだす」
今日の予定。それは僕と悠里と竜崎で昨日決めた、遊びに行くというものだった。
ここで一つ問題が。
「待ち合わせ場所、決めたっけ?」
「あー、うまっ。あん?何が?」
食べ物を摂取した彼の脳はようやく活動を開始したようだ。
「今日の遊びの話」
「ああ、それなら問題ねーよ。昨日お前がトイレに行ってた間に決めたから」
そういや、先輩方を待っているまでの間に一度、トイレに行った。
「外で待ち合わせとか?」
「俺はそう言ったんだけどな。あいつ…」
「やあ、おはよう!お二人さん」
僕らの所にうどんをお盆に乗せながらやってきたのは、昨日できた友人の一人、爽やかイケメン、高身長、そしてチャームポイントの坊主頭。
「ちょっ、朝からそれ食べるの?」
「げっ!でたなイケ坊主」
西賢太郎、通称にしけん。悠里が妙に目の敵にする男。
彼は一組なので、基本的に余り関わらない奴なんだけど、人類みな友達スタイルである彼はなんとなくクラスで固まっていた僕らにもグイグイ喋りかけてきた。
あれだね。こういう人が将来人の上に立つんだよ。
「陽本君に、江口君だったね。今日は何か予定があったりするのかな?他のみんなは部屋でゴロゴロしてたりするみたいだけど」
「うん、悠里と、もう一人と。発案者はそのもう一人の奴からで」
「へえ、それで、その人は?まだ寝てるのか?」
あれ、西君は竜崎の事を男だと思っているのか?一応訂正しておいたほうがいいかな。
「あっ、そのもう一人って言うのはさ…そう言えば悠里、結局どこで待ち合わせるの?」
「ん〜、もう来るんじゃねぇか」
「来るって…こっちには入ってこれないだろう」
境界線を破れば退学も免れないみたいな事を近藤先輩が言っていた。
それは男が、主に悠里みたいな奴が女子エリアに入らないためって言うのが理由になっているのだろう。
けど、女子が男子エリアに入るのが問題無いって訳じゃない。それもまた処分対象だ。
「バレて退学なんかになったらどうするんだよ」
「バレないよ、ほら」
「わ〜本当だ〜………って、竜崎ぃいっ!?」
いつの間に隣に座ったんだ。おかげで椅子からひっくり返ってしまったじゃないか。
「ははは、驚いた?」
倒れた状態から竜崎を見上げる。男物の服を着て帽子を被った彼女は、まあ、女という真実を知らない人が見れば、男で通せる容姿だった。
「あれ?君は、この寮の人じゃあ無いよね?」
「あっ、やば」
と思っていたら、西君の目は誤魔化せなかった。昨日一日で全ての人の顔と名前でも覚えたのかな彼は?
「あははははは、よく来たね。ささっ、僕の部屋に行こう!
悠里っ、ごまかし…じゃなくて説明は頼んだ!」
「はあ!?おいっ」
退散退散、彼がなんとか良いフォローをしてくれる事を祈ろう。
◇
「…えっと、江口君?」
「あぁん?くそ、いけすかねぇ顔しやがって。
あれは…あれだ……先輩。そう、今日は二年の先輩と遊びに行くんだよ。ちょっとした縁でな」
「なるほど、あの人は先輩だったのか。
……可愛い人だったな」
「は?」
「いや…なんでも無い」
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