第3話 男友達、女友達(1)
確かに、竜崎女々は見れば見るほど可愛らしい容姿をしていた。
制服が男物だったせいで、僕は気づかなかったわけだけど。
何故男の制服を着ていたのか、どうして学校側も許可してるのか。何か重要な理由があるのかもしれない。過去にトラウマが…みたいな。
けど竜崎は極めて明るい性格をしていた。まあ、どこか変なところが無かったってわけじゃあないけれど、闇がありそうには見えないし。
「うーむ、謎」
「何が?」
「ああ、悩みは解決したの?」
「おう、放課後にデートとか、休日に出掛けりゃあいくらでも時間はあるしな、退学なんてリスクを負うのはゴメンだね」
「あっ、そう。なあ江口、知ってる?竜崎は実は女なんだ」
「それがどうしたんだ?おいおい陽本、お前、この俺が男と女を見間違えるとでも思ってたのか」
感心すべきか、呆れるべきか。彼の女を見る目はかなり優れていた。僕が見分けられなかっただけかもしれないけど。
「顔はレベルが高いが、ありゃあ恋愛に関すりゃあ対象外だ。友達として付き合う方がいい」
「そりゃどうして?」
「どうしてって…胸がねぇからに決まってんじゃねぇか」
「胸か」
確かに、竜崎が巨乳だったなら僕も気づいていたかもしれない。
彼女の胸元からは膨らみの欠片すらも感じられなかった。男の胸元にはそもそも興味が無いけど、膨らみがあれば、あれ?と目が行ってたはず。
「そうだね、胸は重要だ」
「おうよ、お前にもわかるか。胸ってのはでかいほど良い。別に貧乳を悪く言うつもりはねぇよ。顔が良けりゃあ俺は多少のサイズには目を瞑るしな。ただ俺の中ではやっぱし巨乳のほうがな〜」
「ナンパしてた子もたしか胸がでかかったよね」
「おお、見てたのか。あれは良い胸だ。顔も良い、俺は諦めないぜ」
随分と自分の欲に忠実な奴。悪い奴じゃ無さそうだけど、女関係でいつか身を滅ぼしそうな。
「はいっ注目!ここがオメェらの暮らすつづら荘だ!部屋番号は各自わかってんな!それじゃ届けられてる荷物の荷解きを今日中に終わらせろ!終わったら自由行動!飯は9時までならいつでも食える!消灯は11時!以上、解散!」
たどり着いた寮は、立派なプチホテルのような大きさと見た目を兼ね備えていた。
今考えてみると、僕はいったい何故この学校に呼ばれたのだろう。しかも、特待生みたいな待遇で。
この寮に入るのもかなり金が掛かりそうだし。なにかおかしくないか?
今更かな。
「陽本、お前何号室だ?俺は502だ」
「どこだったかな、ちょっと待って。……えっと、501か。という事は、隣の部屋になるかな」
「まじかよ、偶然だな。じゃあ行くか、陽本」
「番号からして5階ってことでいいのかな?」
それにしても、隣の部屋が江口だったとは、偶然もあるものだ。
「一階は食堂とか風呂場とか、だったっけ」
中には随分ときっちりしたロビーのような空間があった。数人がそこにある椅子に座って雑談をしている。
そこから階段で五階まで上がる。
これから毎日この階段を上り下りするのかと考えると、少し億劫な気分になった。エレベーターが欲しい。
僕の部屋は角部屋だ。ドアは開きっぱなしだった。中に着替えやらの荷物が届けられていて、後はベッドに机、冷暖房、冷蔵庫と洗濯機などがあり、一人で暮らすには十分な広さが確保されていた。それから僕らはまず、食堂へと向かった。
食堂に行くと、配布されている学生証を機械に読み取らせ、食券機のメニューから食べたいものを選ぶ。
この学生証は名札やら寮のルール等が記載された説明書やらが家に届けられた時に一緒に入っていたやつだ。
一日三回、一回の使用で二食まで頼める優れもの。お代は学校持ち。
僕を呼んだ訳は深まるばかり。しかしここで、驚くべき事が起こった。
「じじゃーん、見ろよ陽本。俺の学生証は特別製でな、これがあれば毎食タダで済ませられるんだぜ。どうだ、すげぇだろ」
「……えっと」
これは…
「なんだよ、反応が薄いぞ?」
「もしかして江口ってさ、入学金とか授業料とか払わず、受験も無しに入ってきた感じ?」
「ああ、確かにそうだけどよ、よくわかったな」
「ほら、これ見て」
江口に僕の学生証を見せる。彼は最初は驚いていた。そして、やがて笑いながらこう言った。
「おいおい陽本、という事はあれか?お前もあの誘い文句に乗ったってわけか?」
「誘い文句って何のこと?何か書いてたっけ」
「たくっ、見かけによらずお前も女好きだったってわけか」
「いやいや、自己完結をするな。まあ確かに好きではあるが、お前よりは節度のあるはずだ。ちゃんと話せ」
曰く、届けられた手紙には、
【我が校の7割は女子生徒で占められています】
という一文が、僕の手紙の内容に足された状態で記載されていたらしい。
「えっ、この学校、3割しか男生徒がいないってこと?」
「まじで知らなかったのかよ。俺はそれに釣られてここに来たってのによ」
よ〜く思い出してみると、確かにクラスで男より女の方が目に付いたような気がしないでもない。
僕の目が積極的にそっちに目を向けてたんじゃなくて、そんな理由があったわけか。
僕と江口を呼んだ人達は、僕にはそれが必要ないとして普通の手紙を出し。
江口には必要と判断した上、追加文を加えた手紙を出したってことなのかな。
けどまあ、僕の決め手は校内の男女比率じゃなくて学費不要の件だった訳だし。
「僕はラッキーだなって感じかな。金がかからないに越したことは無いし。それでさ、同じ境遇だった江口に聞きたいんだけど、どうして僕らはわざわざ、この高校へ呼ばれたんだと思う?」
「さあな、俺はハーレム目的で来ただけだから、詳しいことなんかはまったく。
それよりもよ、たまたま知り合った俺らにここまでの繋がりがあったのも何かの縁だとは思わねぇか?」
「ん?まあ、そうだね。部屋が隣で同じ境遇で。多いようで少なくも感じるけど」
確かに、高校生活初の男友達と二つの繋がりがあったってのも、珍しい事だ。
「そこでだ。今日知った仲の奴とじゃあ、少し早いのかもしんねぇが、こうなったらお互い下の名前で呼び合わねぇか。俺は性格上、そっちの方が接しやすいんだよ。無理にとは言わないけどな」
「ああ、いいんじゃないかな。じゃあ、今からは勇って呼んでよ。別に僕、そういうの気にしないし」
「俺は悠里、お前とは一文字違いだな、よろしく」
そうして、僕は二人目の友達、江口悠里と下の名で呼び合うこととなった。
「ああ、あいつが不機嫌になっちまうかな」
「あいつ?」
「気にすんな」
「?」
よくわからない事を言う。それより、この学校のご飯はすごく美味しいな。
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