第1話 進学先での素晴らしい出会い(1)
「ん〜〜っ、ん?痛っ、痛い!痛いって!
…あれ?どこだここ」
左頬から感じるジンとした痛みの中で、僕は目を覚ました。
僕はどうやら見知らぬベッドで寝ていたみたいだ。けれど、どうゆう経緯でここにいるのかが、イマイチ思い出せない。と言うか、頭がぼーっとする。
「おや、目が覚めたかい。良かった良かった」
「えっと、おばさん誰ですか?」
仕切りのカーテンの向こうからやってきたのは、50過ぎぐらいのおばさんだった。
まだわからないけど、多分ここは病院かどこかなのだと思う。この人は看護婦さん?にしては歳が…
「おばっ…いや、なんだって構いはしないけどね。いいかい、ここはあんたが今日の入学式のために向かっていた三刻高校の保健室。
あんたは道端に転がってたところを別の生徒に発見され、それを知った学校側にここまで運ばれたってわけさね。どう、何か思い出したかい」
道端に転がって?
僕は確か登校中に女の子を見つけて…
それで神風が吹いて……
スカートの中のパンツが………
「はっ!黒のレースか!!」
「はい?」
「いえ、気にしないでください。
それより思い出しました。そう、確かあの時僕は足を滑らせてしまい、それで気を失ってしまったんです。はい、もう間違いなく」
ふう、危ないなぁ。変態と間違えられちゃうところだった。
ちなみに一応言っておけば、気を失ったのは黒レースの子の右ストレートがいい具合に入ったのが本当の原因だった。
しかし、男としてなんだか恥ずかしかったので、咄嗟に嘘をついたのだ。
「ああそうかい。それじゃあそろそろ、みんなと合流して貰おうかね。ほら、ついてきな」
僕は保健の先生の後についていった。
三刻高校、この高校は入学決定の後に調べて知った事なんだけど、かなり大きいというか、広いらしい。
校舎自体は少し経てば慣れる程度の大きさだけど、グラウンドやら寮やらその他の施設やらで敷地面積がかなりあるみたい。
僕みたいな新入生は案内なしでは何が何だかわからないだろう。それから歩いてしばらくすると、一つの教室の前にたどり着いた。
「はいよ、ここがあんたのクラスだ。入学式はもう終わってるからね、今はクラス毎に分かれて教科書やらなんやらを配ったりとしてるはずだよ」
「そうなんですか。ここまでありがとうございました」
先生は一つ頷き、保健室へと帰っていった。
(さて、あとは入るだけなんだけどな…)
そう、ここで大きな問題がある。この教室の中、そこには知り合いが誰一人としていないのだ。
その誰も知り合いがいないアウェイの空間に、またもや誰にも知られていない僕が入るって、あまりにも気まず過ぎると思わないか?
(落ち着け僕、こう言うのは多分ファーストコンタクトが何より大事だ。みんながお友達になろうと思えるような、そんな挨拶を…)
そして覚悟を決め、僕は教室の扉を開いた。
「いっけな〜い。遅刻遅刻〜。もぉ、目覚まし時計が壊れちゃって大変大変」
(どうだ!?)
僕なりの渾身のギャグ、これでクラスはドカンと笑いの渦に包まれるはずだった。
しーん…
誰もが戸惑いの目を僕に向けるだけ。教師らしき人までもえっ、えっ、とオロオロしている。
正確には約一名、バカみたいに笑っている奴がいたけれど。彼とは絶対に仲良くしようと思う。
「えっ、えっと、陽本君…でいいのよね?今のは…何かな?」
「はい、陽本です。よくわかりましたね。
あの、今のとは?一体何のことでしょうか」
「あ、無かったことにするんだ…
そっ…それじゃあ陽本君、あそこの席に座ってくれる…かな」
「はい先生」
今のは無かったことにする方が良いよね?
僕は先生の言う通りに五列目、後ろから二つ目の席へと向かった。そしてそこで、早くも運命の再会を果たすことになる。
僕の席の一つ後ろ、五列目最後尾、そこに座っていたのは、
座ってらっしゃったお方は、そう、誰でもない、年頃の高校一年生である僕に見事なまでのチラリズムを披露し、渾身の右ストレートまでも食らわせてきた…
「朝はごめん!つい興奮しちゃって」
あの女の子だった。
僕はすぐに朝の出来事を誠心誠意謝罪した。なのに、彼女の対応はあまりにも塩対応だった。
「………」
「えっと、あの」
「………」
「あっ、はい。すいませんでした」
無視も無視。ガン無視だった。
僕は心が深く傷つき、諦めて席におとなしく座ることにした。周りの反応がさっきのご挨拶より多少ざわついてた事は、今はあまり気にしない。
「は…はいみんな、注目!それじゃあ話を続けますよ。改めて、私の名前は八田恵。このクラスの担任を務めます。担当教科は理科、よろしくね。
それで、配布はもう終わったし、あと話していない事は…えっと、そうだ!自己紹介しよっか!名前と趣味だけの軽いのでいいからやってみよう、はい、秋山さんからお願いします」
(自己紹介か。趣味、僕の趣味はなんだろう。漫画を読んだりアニメを見たりするのは好きだけど、そんなのでいいのかな?)
あまり趣味と言えるものを持っていない僕は、ここで何を言えばいいかを考える。
すると、僕の渾身のギャグを唯一笑ってくれた人の番になったので、参考のために聴いてみることにした。
「江口悠里っす。趣味は女の子と遊ぶこと。よろしく〜」
…どうしよう。なんだかお近づきになるべきではないように思えてしまった。しかし、彼は唯一笑ってくれた…くっ。
それはともかくとして、その後も挨拶は続いた。みんながいろんな趣味を言っているけれど、やはり漫画を読むのが好きなんてのは言える感じじゃない。
そして、僕の番がきた。
「…。趣味は編み物です」
「はい、ありがとう。次は…陽本君だね」
「はい。陽本勇です。趣味は読書です。休日は図書館へよく本を読みに行ったりもします。よろしくお願いします」
よし、乗り切れた。
これならなんだかまともな趣味っぽくて良さげに聞こえただろう。
あれ?そういえば、最後に図書館に行ったのはいつだろう。幼稚園ぐらいかな?まあいいや。気にしない。
「はい、ありがとう。次は、氷室さん」
「…氷室憐。趣味は…っ、読書です」
(ありゃ、趣味が一緒。かぶっちゃったな)
趣味が僕とかぶってしまったため(僕のは多少の嘘がはいってる)、一体どんな顔をしているのか、僕は彼女の様子を伺うためにちらっと振り返ってみた。
舌打ちらしきものが混じっていたようにも聞こえたけど、そんなのは気のせいだと信じて。
「………」
目が合った。けれどそこに、ドキドキなど生まれない。代わりに動悸が起こった。
殺意のこもったような目が、そこにあったからだ。
……怖い
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