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4.裏野ドリームランドを探しに出かける

 窓際の金木犀きんもくせいの幹でアブラゼミがやかましく鳴き出したせいで、小賦はしぶしぶ夢から醒めた。

 セミも必死こいて求愛にいそしんでいるのだ。

 ――あたしだって、誰かに告白されたいものだなあ。


 夜のあいだにクーラーのタイマーが切れたらしく、パジャマが汗でネッチョリ濡れていた。気持ち悪いったらない。

 窓を開け放つと、八月はじめにしては、さわやかな風が吹き抜けていった。

 レースのカーテンがオーロラのように揺らめき、ひだが波打った。


 時計を見た。

 やばすぎ。九時前だ。

 いささか遅くまでLINEに熱中しすぎたようだ。



 ご多分に漏れず、起きた瞬間から夢の内容が、洋菓子のクレープクッキーを食べるときみたいにポロポロと崩れていくのだが、アルバイトの千手観音から受け取ったチラシの文句だけはしっかり憶えていた。

 それにしても、『裏野ドリームランドへおいでよ!』とは、なんぞや。


 ましてや、『いっしょに渡ろう、憧れの彼岸ひがんへ!』などとは、いかがわしすぎる。

 チラシの裏面には、かんたんな地図まで書かれていたはずだ。

 たしか家から、そう遠くないと思った。

 待てよ――宮崎県立日南高等学校の裏山のあたりではなかったか。

 とすれば、あたしの母校じゃん、と小賦はハッとする思いにかられた。まさか、これはなにかのお告げなのか。


 とるものもとりあえず階下におりると、顔を洗い、歯を磨き、寝ぐせをととのえ、ブルーマウンテンでクロワッサンを流し込んだ。

 今日はいったい何日だっけ……。


 壁のカレンダーを見た。

 八月三日。まだ夏休みは始まったばかりだ。死にたくなるほどの退屈がてんこ盛りだ。

 自室にもどると、紺のデニムパンツに足をとおし、タンクトップに着替えた。右腕にテニス用のサポーターをつけるのを忘れない。これで火傷のあとを隠しとおすことができた。

 最近、また胸が張り出してきた気がする。高校一年にして遅咲きの小賦は、身長も急激に伸びていた。一六五センチあり、いまではクラスの女子のなかじゃ二番目に高い。


 父は近所へゴルフの打ちっぱなし、母も朝っぱらからヨガ教室へと出払っていた。昨日の夕飯どきに言っていたのだ。

 居候いそうろう状態の賢人は鬼のいぬ間に、リビングのテレビの前に陣取り、マリオを操作していた。声をかけたが、夢中になりすぎて返事もしなかった。


「そうですか。よそさまのあんたが留守番って、何さま」


 小賦は頬をふくらませた。

 ミニリュックにスマホと財布を入れ、そろそろ月のものが来る時期なので用心のために生理用品も備えた。

 リュックを背負うと、小賦は玄関のドアを開け、漂白したような白い外に出た。

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