抹茶菓子、わんさか
抹茶党の橘根は抹茶の菓子容認派に属し、あらゆる抹茶菓子を食べようと試みていた。
が、近年、その数は増殖の一途をたどり、ついにあきらめた。
それでもスーパーに行って、洋菓子店に行って、ついつい眺め、カフェで抹茶なんとかを頼んでしまう。
まあそれはそれ。気になるんだから仕方がない。
ほら、抹茶だと健康にいい気がするし。
そんなこんなで四月もやってきたある日、珍しく後閑が橘根にくっついて外出する。
それは予告なく唐突な出来事。
「あんたが行くお茶屋に連れて行きなさい!」
「わたしの予定は全部無視なのかな?」
一応、予定が入っていない日である。だから対応は可能。後閑はそれを理解してまたは直感して言っている節はある。
命令形でも一応は忖度してはいるのだろう。いや、忖度するのは橘根で、後閑は良き王のごとく家臣を理解し命令をしているのである。後者の方がしっくりくる。
「食べるお金は払う、橘根の分も」
「お付き合いさせていただきます」
やはり主と家臣の雰囲気も漂う。
そして、デパートに入っている店に二人は行く。
平日の開店直後とあって客はいない。店に入るとどこでもお好きなところに座れと言われ、橘根は店員から見えるが外から見えにくい席を選んだ。
後閑はきょろきょろと内装を見る。ここは落ち着いた雰囲気であり、照明も間接というよりスポットライトに近いのがある程度。全体は明るくはなく、テーブルで書き物ができる明るさは確保してある。
薄暗い上、和を意識しているため、焼いた感じの木材の柱、漆喰の壁がまた落ち着いた色合いである。
「本当、ここ人来るの。ガラガラじゃない」
後閑がずけずけと言う。
「……平日のこんな時間にいるわたしたちの言う言葉ではないです」
「平日休みの職業の人もいる」
「その通りだね」
後閑の言っていることは一理あり、ここの店員だって土日祝日は忙しいから平日休むに違いないと想像する。
二人は店員が水の入ったグラスとともにおいていったメニューを眺める。グラスの中の水は氷の入っているいたって普通の水。時々、レモンの味がついている店もあるが、本当にただの水。
店員が去った直後、メニューを手に持ちながら後閑がむすっとした顔をグラスに向けていた。
「えー、お茶屋さんなので茶が出てこない!」
「その件は何とも言えないよ、わたし」
橘根は苦笑する。
茶屋が運営するカフェでサービスで水か茶か別れる。橘根が行ったことがあるところは限られているが、水が出てくる方が多い気がする。
「そうなの?」
「うん。あるお茶屋さんのカフェはほうじ茶が出る」
「そっちいい」
「ほうじ茶あまり飲まないけど、季節物のほうじ茶を思わず買ってしまったことあるの」
後閑は思い出す、橘根がほうじ茶を一時期飲んでいたのを。出すほうが、売れるんだからいいんじゃないかと後閑は思わなくはない。
「うちね、そんなに急須大きくないし、減らなんだよね、ほうじ茶だと」
「……そういうこともある?」
「ある。ほうじ茶、袋大きいよ?」
ほうじ茶は緑茶に比べて値段も若干安いことが多い。もちろん、ピンキリである。緑茶も蒸したり、炒ったりそれぞれにやり方があるし、産地によって、店によって味も価格も違う。
「水か茶を出すかはスタンスかな……物販があるかないかは私が行ったところはたいていある。ただ、茶を出すほうは種類が多い、店にある茶が」
「ふーん」
「客の状況を見ていると……というか、メニューに『茶のセット』って記載あるでしょ?」
メニューを指さす。
「ほうじ茶が出るほうはあまり茶のセットを前面に押し出していなんだよ」
「え? でも、そこでもさ、お茶飲めるんでしょ? ほうじ茶以外で」
「飲めるよ。抹茶に季節の菓子がついてとか」
「パフェと茶とかは」
「ない」
「ええ?」
「こっちだとつい頼む……こともある」
ランチタイムだと割引も入った物がある。若干であるが、橘根は頼んだことがある。
あとチェーン店であるが、独自のセットメニューがあり、長いしたいときついついお茶ついたセットを頼んでもいた。
「お茶セットがあるほうがのんびりしそう」
「とはいえ、パフェだけで2時間いたことあるけど……」
「なんでっ!?」
「まあ、ガラガラだったのもあって、いろいろ話を聞いていたらそうなったの」
橘根は結構客の状況を気にするたちだった。並んでいたら、早く食べて出ないとと落ち着かない。
基本的にカフェでぼんやりできないたち。
「ちなみにね、ほうじ茶を供してくれるお店はパフェが先割れスプーンである」
「え? つながりがないけど……良くないところってことでいいのか」
「そういうこと」
「先割れスプーンだと何か問題ある?」
「パフェを食べるとき、アイスは溶ける、そこには抹茶のたれが!」
橘根の言葉に後閑は「あー」と声が出た。
「つまり、最後まで食べきれない……ほんの一口とはいえ、おいしそうなところを残さないといけないのよ」
橘根は思い出しただけでも腹を立てている。
「飲む」
後閑がグラスを持ち上げるようなしぐさをした。
「一回やろうとしたけど……恥ずかしい。器がさ、マグカップ程度ならいいけど、細長い……大きいのだよ?」
「うわー、確かに、品ないわ」
後閑は溜息ついた。解決策はないのだ、店側が洗う手間を値段に転嫁してスプーンとフォークにしない限り。それは客の懐を直撃する。
後閑は納得したと、水を眺めた後、メニューに視線を戻した。
「うわ、ここの抹茶スイーツ、あんこセットなんだ」
嫌そうな声が上がる。
「あれ、抹茶スイーツは抹茶オンリー派?」
「とまで行かないけどねぇ」
後閑はブツブツ言いながらメニューをめくる。
「ん? 抹茶スイーツの抹茶オンリー派?」
後閑は顔をあげて橘根を見る。変な言葉を言ったともったらしいが、意味は通じたために後閑はこれ以上ツッコミを入れなかった。
「うーん、どっちともいえない」
橘根はそこのツッコミに気づかず、普通に好みを答えた。
「えー」
後閑は口を尖らせた。
「いや、抹茶やほうじ茶オンリーでずーと冷たいとね、味が分からなくなるから、何か別なものが入っているっていうのは結構いいと思うよ」
「なるほどね。あんこは?」
「あんこ自体は好きだけど、抹茶に勝っちゃって気づくと『和風パフェだよね』ってなっちゃうんだよね」
「あーそうそう!」
後閑が同調してくる。
「スーパーとかである抹茶プリンも結構悩むときあるんだよ」
「あれ、カルメラの代わりにあんこだよね」
「大体ね」
「あれやめてほしい」
後閑が怒りのこぶしを握り、橘根はうなずく。
「でもね、美味しいのはおいしいから、バランスうまくて」
「あー、それに出会えるかはわからないわけで!」
「そうなんだよね」
後閑と橘根はどれにするか決める。
「どっかのメーカーがね、抹茶プリンオンリーで出したのよ」
橘根がふと思い出した
「勇者!」
「うん、でも、気づいたらなくなってた」
「期間限定だったか、受け入れられなかったか……残念だ、それは」
後閑と橘根は首を振る。
店員が来たため注文する。
「えっと、わたしは抹茶ぜんざい、単品で」
「単品? お茶セットでもいいよ」
「……いいの?」
「うん」
「じゃ、お言葉に甘えて、お茶セットで……抹茶ラテ、ホットで」
後閑が噴き出す。
「甘いのに甘いの?」
「うん」
冒険家橘根。
「あたしは、濃茶パフェとお茶は、うー、黒豆茶っておいしい?」
後閑は店員に尋ねず、橘根に問う。
店員は困ったようだが、客二人を見比べ、とりあえず待つことを選択したようだ。
「好み」
「それいわれるとすごく困るけど!」
「わたしは好きだよ? まあ、ちょっと濃く出ると濃厚だけど、お湯いただけるから。ダメならわたしが飲む」
「いやいや……あんたが飲めるなら飲める。じゃ、黒豆茶ホットね」
店員に後閑が淡々と告げた。
「飲み物は後にしますか?」
橘根は店員の問いかけ、後閑を見る。
「このメニューで先もない気がするけど、先」
「では先でお願いします」
後閑の一声で決定する。店員は丁寧にお辞儀をして立ち去った。
「で、抹茶プリンの問題に戻るんだけど」
「え? 戻るんだ!?」
後閑が驚く。
「語り足りない」
「……あんこはいらない」
「難しい問題」
「えー結局、好みなんだよね」
苦笑するが結果その通りだ。
「抹茶プリンだけだとなんというか、抹茶だなぁで終わってパンチが足りないというと言いすぎなんだけどそんな感じ」
橘根の言葉に後閑がむっとなる。大したことがない話だ。
「でも、あんではなくて黒蜜風……か黒蜜のカルメラもあったのよ」
「えっ?」
「それは結構おいしかった……普通のプリンも食べてみたいくらいに」
後閑が首を傾げた後、ポンと手をたたく。
「プレーンというかプリンもあったんだ」
「あった。卵のプリンで黒蜜のたれで悩んで、抹茶にした」
「橘根……抹茶党だから抹茶に飛んだわけではないの?」
「まー、それもなくはないけど、その店のプリンは食べてみたかったのよ」
橘根は水を少し口に含んだ。ヒヤッとした感覚が口の中を潤す。
「ここのパフェ、見てて思ったけど、いろいろ載ってるよね。正直悩んだ」
後閑がため息を漏らした。
「あんこが途中で勝ったらむかつくし、バナナがさああ、まあさパフェっていえば何でも載ってるし。とはいえ抹茶だよ! 大丈夫なのっって気はする」
「好みだから」
「だよねー」
後閑が頭を抱えた。
「というか、あんたはなんで抹茶ぜんざい! 逃げた、逃げた?」
「いや、メニュー見て決めたんだから……文句言わないでほしい」
「あーーーーーー」
後閑がテーブルに突っ伏した。
「ちなみにここの店でフレンチトースト頼んだとき、遅くてさ……」
「でも時間かかるってあるよ?」
「うん、別の人も頼んでいて、そっち来ているからまとめて作っているに違いないって思っていたら……厨房から『忘れている』じゃないけど、そんな声聞こえた……まあ、その直後来たからいいけどね」
「橘根……時々あるよねそういうの……まあ、すぐ来てよかったね」
店で語ることでもなかったが、つい思い出してしゃべってしまった。
店員には聞かれていまいと信じて。
抹茶ラテと黒豆茶が運ばれてくる。
「こちらは二煎目以降のお湯になります」
「じゃあ今はお湯じゃないの」
「後閑いいいい」
店員の揚げ足をとった後閑に橘根がうめく。
店員はきょとんとしてどうすれば良いのかと橘根を見る。
「説明を続けて良いです、良いです。すみません」
橘根が思わず頭を下げる。
後閑の気まぐれが作用して不機嫌にスイッチが入ったのかもしれない。どこがいけないんだろうと橘根は考えるが、思い当たるのはあるようなないような。
「茶こしを置いて出してください」
説明が終わって店員が去る。
「匂いはいいわね」
後閑、店員の揚げ足をとったことを忘れたように、お茶の匂いを嗅いでいる。一煎目は運ぶ前に淹れてあるので温度は飲めるほどだろう。
「じゃ、いただきます」
「はい、いただきます」
後閑と橘根は手を合わせてから、飲み始める。後閑は一杯飲んでもまだあるが、橘根は終わりなため、一口で終える。
「あー、なんか独特? 結構濃いかな……甘いのかな? 苦くはないね……」
「ここのは黒豆の量が多いから結構しっかり出るよ」
「ふーん」
「ちなみに、とあるメーカーのティーバッグだとマメが少ないから物足りないけど気軽に飲める。別のメーカーのは煮出しがメーンなのか結構ぎっちり」
「へえ」
後閑は橘根の説明を聞きながらお茶を飲み干した。二煎目を入れる為、急須にお湯を注ぐ。
「おお、黒豆だ」
開けたとき覗いて笑う。湯を入れると閉じてしばし待つ。
茶こしを湯呑の口に橋のようにかけて急須から茶を注ぐ。
「この急須っていうか、ミニやかんだよね」
砕いた黒豆が二粒ほどこぼれた。
「おお」
黒豆茶は嫌いではないらしい。
ここでメーンディッシュがやってきた。
お茶の佃煮になります――と店員が言ったため後閑の口がうずうずしていたので橘根がハラハラしていた。
「佃煮ね!」
「うん、なかなか面白いよ。味は佃煮だから面白くはないけど」
「材料がね! 橘根、作れる?」
「作れなくはないのかもしれないけど、作る気はないよ」
下手に作ると苦みだけでそうだと橘根は考える。味が相当濃くなるなぁとも。それがこんもりある図を想像すれば、おのずと作ってみようという気は失せる。この店で売っていたはずだから買った方が安い。
「ここの店は箸休めというかスプーン休めというかで茶の佃煮が出る。甘味には」
「ふーん。では、パフェを食べよう」
後閑はフォークでバナナをつつくか悩んでいる様子。
「やっぱりここは、お茶部分を食べないと……あ、このたれかけるんだっけ。ああ、その前にそのままの味を」
後閑は食べ方を悩んでいた。結局、少しだけ抹茶部分を食べてみる。
「うん、普通。じゃ」
どばっとたれをかける。ソースと言えばかっこいい気もするが、結局「たれ」な気もする。
「……バナナ食べると味がバナナになる……」
「そのフカフカ好きなんだよね」
「ウエハースというか、なんというか」
ウエハースとはちょっと違うが、軽い甘さのサクッとしてふわっとした扇形のお菓子が載っている。それにアイスをつけて後閑は食べる。
「うーん。それにしても結構あんこが……あと果物も……パフェというには間違いはないね、やっぱり」
後閑は何とも言えない顔になる。
まずいわけではない、美味しいのだ。
茶の味を存分に楽しむには果物やウエハースなどはいらない。
載っていいのは茶のゼリーや白玉団子のような邪魔にならないものだろうか。
「抹茶パフェってネーミングもフルーツパフェと同義と捕らえると、これは正しいのよ! 茶を存分にとなると……あああ」
結論、好みとなる。
「難しいこと言わないで、食べよう、美味しいなら」
「そうだね」
後閑は静かに食べ始めた。茶の佃煮を時々口に放り込み、しょっぱさを味わっていた。
橘根は抹茶ぜんざいだ。
白玉か餅という違いは店舗によってあってもおおよそあんこに抹茶が掛けてある形だ。
「それ、作れるよね」
後閑が橘根に問う。
「まーねー」
実際、橘根は自分で抹茶ぜんざいを作って食べていたこともある。白玉団子に凝っていたころに。
もともと餅や求肥が好きで、求肥も作れると知ったけれども、そんなに量要らないしと白玉団子に流れた。
白玉団子は粉に水入れて湯で煮る、それだでおいしい。
ココア買って、飲み切れず、抹茶買って、飲み切れず、白玉団子にして食べたこともある。その際はある程度砂糖が必要だ。
それに、抹茶ぜんざいの失敗例もある。
「家で作るときは、缶詰がいい」
「え?」
「小豆炊くのはいいけど、うちのは基本砂糖大幅減。だから、普通に食べるにはいいけど、抹茶ぜんざいはだめ」
汁少な目でぜんざい作ったときにやったのだ、橘根は。
抹茶も多めだけど味がしっかりすればいいと残っていたのを点てた。そして、かけた。
「苦いところに、微量な糖分が苦みをアピールに回るんだよね……」
「あー」
「苦かった」
「砂糖足せば?」
「途中で足しておいしいのかわからないから、そのまま食べるの続行したの。缶詰のあんこでやるほうがいいなって強く思った」
後閑は納得したが、何か引っかかる。
「砂糖、普通に入れて小豆で餡を作ればいい話じゃないの!」
その通りである。
「うん、かな?」
二人は目の前のものを平らげ会計に進む。
デパートで食品売り場を覗き後閑の目が輝く。
「うわー、春だね! 抹茶味菓子が多い!」
「……うん」
「どうしたの、橘根。一個くらい買ってあげるわよ」
「いや、そういわけじゃないの……わたしね、ちょっと気付いちゃって」
「何」
橘根はいうか悩むが、後閑が聞く体勢になり、黙ると怒るなぁという雰囲気に変わっていく。
「新茶のシーズンって?」
「五月」
「……今は?」
「……」
後閑は気づいた。
「まあ、いいんだけどね。買うけどね」
橘根はすたすたとお目当てのものが売っているコーナーに足を動かした。
「……そっか、去年のものか……在庫一斉セール的な!」
「言っちゃった!?」
橘根があえて濁した部分。
「でも、美味しいし、食べきれるなら食べたほうがいいからいいの。買うのよ? ちょっと思っちゃっただけだから」
橘根は笑う。
「だよねー。あー、そういえばあの商店の豆菓子買いたい。抹茶味の奴!」
後閑が橘根の腕をとると、ずんずん進んでいった。
「きつねとこうもり」はまた時期が来たら何かのネタで行くと思います……です。
ご縁があれば、今度お会いしましょう。




