橘根、抹茶ラテ作る
後閑は冷蔵庫にある、あの苦い、有機の抹茶の缶を見た。
「何時まであるかなぁ……」
橘根もたぶん飲まない。苦いの苦手だから。
後閑は気づいた、珍しく牛乳があることに。
成分無調整でない、まっさらな牛乳。
ただし、スーパーの超安いの。
油断するとパッケージがバキッといって大変なことになるもの。
「橘根、なんで牛乳?」
ちょうど帰ってきた橘根を後閑は見た。
「抹茶ミルク作ります」
「抹茶ミルク?」
「抹茶ラテでもいいです」
たぶん、同じ。
ミルクだと英語、ラテだとイタリア語だったかなと後閑はおぼろげに考える。
「えー、おしゃれカフェで飲めるような?」
「ちょっと泡はないけど……同じというより……ヘルシーから砂糖みっちり迄調整可能」
後閑は挙手する。
「飲みたい! 作って、作って! あたしのために作りなさい!」
最初は可愛らしくおねだりだったが、最後は命令だった。
橘根は苦笑しつつ、用意する。
牛乳、抹茶、マグカップ二人分、計量カップ、スプーンに秤と言った顔ぶれ。
「二人分だからうまく行かないかな」
「一人ずつ作ろう」
「面倒」
「だよね」
橘根は何か思案しているようだ。
そして、方針が決まったのか動き始める。
橘根の手元を後閑は見続ける。
まず、橘根はマグカップの一つに抹茶を計って入れる。その抹茶を、空いているマグカップに入れる。
もう一回測って終了した。
秤は元の位置に。
「どのくらい入れたの?」
「それぞれ、大体四グラムくらい。五グラム近いかもしれないけど……それはそれで」
適当、計っても適当。
計量カップで牛乳を計って鍋に入れる。
おおよそ百六十以上百八十グラム以下。
この辺りも適当だが、蒸発する部分もあるし、と適当に考える橘根。
ピピッという音がして、炎が上がる。
しかし、一気に小さくなる。
橘根がつけたと同時に、火の大きさを小さくしていた。昔のガスより楽だよなぁと思ったりする。
「次にそれぞれ抹茶を立てる。まとめてでもいいかもしれないけど、点て、または練り切れない可能性があるからね……」
「うまく行かないとどうなるの?」
「玉ができる上、牛乳と混ざらない溶け残りが起こる」
橘根は慣れた手つきで点てていく。
いつもより丁寧なようだ。
点てた抹茶を火にかけられている牛乳に入れる。
スプーンで混ぜて、鍋の様子を見ている。
この隙に、橘根は茶筅の手入れをする。
湯を点てるように、抹茶を落とすこと三度。
鍋を覗き込み、スプーンで混ぜる。
「砂糖、どうする? これでもわたしは十分おいしいけど」
「後から入れるもあり?」
「溶けるからあり」
ならそのままとなる。
橘根は茶筅を持ってどこかへ急ぐ。
「火、大丈夫? 牛乳ってぶわーーってなるよね」
そわそわしつつ後閑は待つ。
もっと言うなら、火をかけっぱなしで離れてはいけない。
今回は後閑がいるから良しとしよう。
茶筅をどこかに置いてきたらしく一分もしないで戻ってくる。
「そろそろ、いいかな」
橘根は鍋に顔を近づける。
「湯気は上がっているよ?」
後閑が一応「見ていた」アピールをする。
「うん、じゃ」
火を止めてそれぞれよそいだ。
「あれ、そういえば使った抹茶、あれだよねっ!?」
「うん、砂糖入れたほうがいいかもしれない」
「えええっ!?」
有機かつ苦い抹茶。後閑は作ってもらったことを後悔している。
抹茶の消費はされるだろうが、苦いなら飲みたくない。好みの人もいるだろうが、後閑にとってはまずい代物。
先に橘根は口に付けて、納得したようにうなずく。
「まあ、飲んでみて、たぶん行けると思う」
橘根に言われて、後閑は恐る恐る飲む。
「あれ? 飲める? 甘いけど苦い」
目をぱちぱちする。
「牛乳は沸騰したらダメ、抹茶も沸騰は匂いや成分上よくないらしいから、じわじわと温めたの。そうすることで、牛乳の甘味を引き出し、抹茶の風味も残るわけ」
「もし、普通に飲んでおいしい抹茶は?」
「いいけど、美味しいけど、物足りなくなる」
「え?」
「後閑言ったでしょ、甘いけど苦い。その苦いがないとただのミルク抹茶風味かなって味で、微妙。ちょっと苦いほうが、砂糖も入れて調整して結構おいしく飲めるよ」
橘根は「抹茶によるけど」と付け足す。
「それと好み」
「うん、それいうとコメントとして終わっちゃうけど、その通りなんだよね」
後閑は橘根の何とも言えない顔を見て、はっとする。
「ちょ、唇、変」
「抹茶普通に飲んでも、色着くよね……抹茶通常の倍は入れた結果、何が起こるかわかるかな?」
後閑は飲み干した後、鏡を見た。
唇は深緑、牛乳ひげがほんのり緑。
「うわああ」
「ティッシュで拭くだと残るから、洗ったほうが早いかもよ?」
橘根の指摘に洗面所に後閑は走って洗面所に行った。
「まあ、飲み干したってことは好評ってことで」
橘根は作ったかいがあったと微笑んだ。




