表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/243

【091不思議】秋愁に想いを馳せて五・七・五

 寿命を終えた枯葉が、ひらりと舞い散った。

 今日のオカルト研究部は窓の外の些細な季節の描写に目がいく程、物静かな空気が漂っていた。

 勉学に励む博士、読書に勤しむ百舌、畳で呆ける花子。

 数えられるのはそれくらいで、いつもの騒がしい部員達の姿は見えない。

 雰囲気漂うその部屋は、秋の季節を感じられるようだ。

 この時間がいつまでも続けばいいのに。

 そんな誰かの願いを断ち切るように、部室の引き戸が勢いよく開かれる。

「あっちちち!」

 さっきまでの物静かな空気が一瞬にして絶たれ、博士は眼鏡の奥の目を曇らせる。

 多々羅を皮切りに、騒がしい部員達が続々と部室に傾れこんできた。

「やっぱ熱ぃなこれ!」

「だから軍手しなって言ったのに」

「バカ! 軍手したらなんか負けた気分になるだろ!」

「負けるって何に!?」

「これ俺一旦冷まさなきゃ食えないな……」

「はい花子ちゃん!」

「これなに?」

 音一つ無かった部室はどこへ消えたのか、部室が部員達の声で充満する。

 不機嫌を隠せない博士に斎藤が歩み寄って、手に持っているそれをそっと渡した。

「はい、ハカセ君」

「……焼き芋っすか?」

 斎藤に差し出された焼き芋を、火傷に気を付けながら受け取る。

「やっぱ秋っつったら焼き芋だろ!」

 熱々の焼き芋を素手で掴む多々羅が、博士へと声を高らかに飛ばしてきた。

「これどうしたんですか」

「作ってきた!」

「手作りかよ。どうやって作ったんですか」

 博士は話題自体に全く興味の無いようだったが、しょうがなく多々羅の話に付き合う事にする。

「まず種イモを体育館裏に植えるだろ? そっから」

「そこから手作り!?」

 真面目に紹介しようとする多々羅に、博士は堪らず声を上げた。

 多々羅がそれ以上話を続ける事は無く、我慢できなかったのか焼き芋を真っ二つに割った。

 中から白い湯気が湧き上がり、食欲をそそる鮮やかな金色が目に入る。

 多々羅はそれを贅沢にも大きな一口でガブリと齧り付いた。

 味に関しては説明するまでも無い。

「んぅぅぅうまい! やっぱこれだ! 秋って感じがするなぁ!」

 焼き芋の味に饒舌になる多々羅に、博士は自分の焼き芋へと目を落とす。

 試しに一口食べてみて、無言でコクリと頷いた。

 どうやら味には多々羅と同意のようだ。

 多々羅は焼き芋の味に自分の世界が広がっているようで、瞼は深く閉じていた。


「……焼き芋の 熱籠る味 美味しかな」


「は?」

 唐突に多々羅の口から生まれたリズムに乗った言葉に、博士は声を歪ませる。

 多々羅は特段変わった様子も無く、当然の様に説明を始める。

「川柳だよ。秋になると猛烈に今の心情を詠み上げたくなるだろ?」

「アンタそんな風情な心持ってないだろ」

 博士のバッサリ放った言葉も、達観した多々羅には届いていないようだ。

「はい! じゃあ次俺な!」

「張り合わなくいいんだよ」

 猫舌の為焼き芋を冷ましていた乃良が、ここぞとばかりに手を挙げてくる。

 乃良は真っ二つに割った焼き芋を見て、浮かんだ心情を詠み上げた。

「……焼き芋は まるで今宵の 満月(みつき)かな」

「おっ! やるなノラ!」

「こんぐらいの比喩表現は入れてなんぼでしょ!」

 勝手に盛り上がる二人に、博士は焼き芋とは正反対の冷たい視線を送っていた。

「……いやその、何だよ『かな』って」

「はぁ? 『かな』は『かな』だよ」

「いや分かるけど。お前こそ『かな』の意味知ってんのか? なんかムカつくんだよ、『かな』」

「何でだよ!」

 博士の横暴な苛立ちに、乃良が思わず声を上げる。

 すると博士の言葉に耳すら貸していなかった多々羅が、再び目を閉じる。

「整いました」

「それ謎かけだからな」

 博士の小言も届かず、多々羅は心に浮かんだ一句を詠った。

「……秋空に 泳いだ雲は 魚かな」

「かなかな五月蠅ぇよ!」

 明らかにぶっこんできた多々羅に、博士は抑えられない感情を爆発させた。

「さっきからかなかなかなかな五月蠅ぇんだよ! 何だよ『かな』って! もうお前ら『かな』禁止な!」

 かな禁止令が発効され、博士は呆れながら焼き芋を食し始めた。

 口を閉じてしまった多々羅と乃良は、鋭い目付きで博士をじっと睨んでいる。

「じゃあお前が詠んでみろよ」

「はぁ?」

 ゆっくり焼き芋を味わっていた博士の口が酷く歪む。

「あんだけ俺らの川柳をバカにされたんだ! じゃあお前が詠んでみろよ!」

「そうだそうだ! ハカセ先生の事だから、きっと素晴らしい川柳を詠んでくれるんでしょうよ!」

「何だそれ、めんどくせぇなぁ……」

 口ではそう言いながらも、博士は川柳を詠む為、物思いにふけた。

 秋の味を舌で感じながら、自分の想う秋を詠い上げていく。

「……山に咲く 紅き葉に目を 奪われる」

「おぉ、思ったより良い感じだな」

 博士の一句に、多々羅は素直にそう感想を口にした。

「暇があんなら 勉強しろよ」

「短歌!?」

「風情もクソもあったもんじゃねぇな! 年がら年中勉強じゃねぇか!」

 思いがけない続きのあった博士の一句に、二人はそう声を荒げる。

 しかし博士は特に気にしていない様子だった。

 三人が口を開き合う中、今までウズウズと体を震わせていた千尋がその中に入ってくる。

「はい! 私も詠んでいいですか!?」

「千尋!」

「ちひろん川柳詠めるの?」

「詠めるよ!」

「川柳って知ってるか?」

「知ってるよ! 舐めんじゃねぇぞ!」

 ことごとくバカにされる千尋は、見返す勢いで咳払いをする。

 乱れた心を落ち着かせ、浮かび上がる自分色の秋の情景を川柳で詠み上げた。

「紅葉狩り みんなと一緒 楽しいな」

「小学生か!」

 渾身の川柳は博士のツッコミによって一刀両断されてしまった。

「えぇ! どこが! 気品のある大人な川柳でしょうに!」

「どこがだよ! 小学生が学校の授業でコンクール用に書いた友達との思い出のようにしか思えねぇよ!」

「もうちょっと大人になろうぜ、千尋」

「俺はこのガキっぽい感じが逆に味あって好きだけどね!」

「五月蠅い! ガキって言うな!」

 自信を持って詠い上げたのに、千尋の心は音を立てて折れてしまい、目には涙すら滲んでいた。

「じゃあ次は私が詠もうかな」

 次に参戦してきたのは、畳スペースで優雅に焼き芋を頂いていた西園。

 正直挙動の解らない西園の川柳に、一同は心を一転させて構えた。

 どうやら良い句が思いついたのか、西園は満足のいった表情で滑々と詠み上げていく。

「蜻蛉飛ぶ あの夕空で 私も一緒に飛べたらいいのになぁ」

「字余り!?」

 やはり予想の斜め上を行く西園に、博士は何とか食らいついた。

「どんだけ字余りしてんすか! もうちょっと川柳のルール守りましょうよ! 五・七・十五くらいありましたよ今!」

「自由律ってやつだね。今の時代、川柳は五・七・五じゃなくてもいいんだよ」

 博士の感情荒ぶる叫びに対し、西園は冷静にそう説明した。

 西園の言葉に博士は何も言えなくなってしまう。

 上手く言いくるめる事に成功した西園は、視線を博士から別の人物へと移した。

「花子ちゃんも川柳詠む?」

「「「「「「!?」」」」」」

 とんでもない相手に話が振られ、部員達は一斉に肩を揺らした。

「川柳?」

「そう、川柳。花子ちゃんも詠んでみない?」

「ちょっ、ちょっと待ってください!」

 暴走じみた言動を続ける西園を、部員達が総出で止めようとする。

「西園先輩!?」

「お前正気か!? こいつはあの花子だぞ!?」

「流石に花子に川柳なんて詠めないと思いますよ!?」

「ちょっと皆、失礼なんじゃないの?」

 言い寄ってきた一同の花子を信じない表情に、西園は頬を膨らます。

 西園はこちらをぼーっと眺めている畳の花子にそっと近寄った。

「花子ちゃんは私達なんかよりもずっと長い時間を過ごしてるんだよ? そんな花子ちゃんなんだから、きっと素敵な川柳を詠ってくれるわよ」

「それは話が別だと思うんですが……」

「ほら花子ちゃん、何か詠んでみて?」

 西園の心洗われる様な微笑と声に、花子は畳で座ったままだった。

 この無表情の中に、何十年の経験を積んだ豊かな想像力が働いているのだろうか。

 花子はただ黙々と川柳について考え込む。

 花子が川柳を詠み出したきっかけは、手元に拙く握っていたそれだった。

「……焼き芋美味しい」

「やっぱ川柳詠めねぇじゃねぇか!」

 長い時間をかけて生み出された花子作の一句に、部員達の心情は大暴走だった。

「何だそれ! ただの焼き芋の感想じゃねぇか! やっぱこいつに川柳なんて詠める筈無いんですよ! そもそも川柳知らないですもんこいつ!」

「これも自由律だね。流石花子ちゃん」

「いくらなんでも自由すぎるだろ!」

「こんな川柳より俺の川柳の方が良いに決まってるだろ!」

「いや多々羅先輩の川柳よりは花子ちゃんの方が百倍良いです」

「何でだよ!」

「ハイハイ! じゃあ次俺行きます!」

「五月蠅ぇ! もう詠むな!」

 部員達に最早秋を愁いて歌を詠む落ち着いた心などどこにも無かった。

 数分前の物静かな部室も、今では影も形も見つからない。

 焼き芋を齧りながら、楽しそうに騒いでいる彼らの姿を見て、斎藤も心の中で一句詠み上げる。


 ――……春夏秋冬(ひととせ)も 移る事なき 部室かな


 季節がどれだけ移ろいでも変わらない、変わって欲しくないというその川柳は、誰の耳にも届かないまま胸に仕舞われた。

秋ですね。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


リアルもすっかり秋めいていますが、作中での時間軸は十一月。

実はとっくの昔に秋なんていう季節は迎えていた訳ですよww

このまま秋らしい事を一切しないのもあれなので、何か秋っぽい事をしようと考えた結果がこの回になりましたww


実は僕、小学校の記憶は曖昧ですが、中学、高校と詩や川柳で地元の文学コンクールで佳作を頂いたりしていました。

そんな僕が作った川柳達なのですが……、なんかおかしいですねww

ツッコミどころを作るという縛りみたいなのもありますが、これはもっと研究しなきゃですねww

こういう話はマガオカらしいと思っているのですが、会話劇だけだと文章のクオリティが拙すぎるのでこちらも研究です。


なんか逆説使いすぎじゃね?ww


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ