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【090不思議】トイレノハナコ七変化

 放課後のオカルト研究部は今日も今日とて騒がしかった。

 どこか幸せを隠し切れないような表情をした千尋が、畳スペースに座る博士に話しかける。

「ねぇハカセー」

「あ?」

 不機嫌を隠す気すらない博士にも、千尋の表情が崩れる事は無かった。

「今日の私、どこか違う気がしない?」

「うわ出た」

 どこかで聞いた事のある様な台詞に、博士は思いきり顔を歪めた。

「俺女が言うその言葉、『私、何歳に見える?』の次くらいに嫌いなんだよ。何でそんな事訊くんだ? 知るかよ。分かんねぇんだから訊いた癖に怒るな」

「怒んない! いいからどこか違うとこない!?」

 博士節の効いた文句も払い除けて、千尋がそう訊いてみた。

 明らかに嫌そうな顔をするも、博士は言われた通りに千尋の姿で間違い探しを始める。

 頭からつま先まで、一通り目を通していく。

「……お前、裾にご飯粒ついてるぞ」

「えっ? あっ、ほんとだ、ってそうじゃなくて!」

 カピカピになっていたご飯粒を取りながら、千尋はそう声を上げる。

 そうは言われても、千尋の姿に違和感なんて無かった。

 何とか答えを絞り出して、博士は答えを紡ぐ。

「……太った?」

「元からじゃ!」

「ぐふぁっ!」

 千尋の叫びと共に放たれた一撃を、博士は為す術無く右頬で受け止めた。

「怒ってんじゃねぇか!」

「それはハカセが要らない事言うからでしょ!?」

「んな事言ったって全然分かんねぇんだから仕方無ぇだろ!」

 もう解答の予想も付けられず、博士は諦めて降参する事にした。

 最初の幸せに満ち足りた表情から一転、頬を膨らませた千尋は、しょうがなく正解を発表する。

「正解は前髪三センチ切ったでした!」

「知るか!」

「少しは解りなさいよ!」

 博士と千尋が些細な事で言い争うのも、最早この部活の風物詩である。

 二人の間に今まで戦場を静観していた乃良も、ここぞとばかりに乱入してきた。

「ハカセハカセ! 俺もどこか違う気がしねぇか!?」

「はぁ!? お前も髪切ったのか!?」

「いや、俺は爪切った」

「知るか!」

「どうでもいいわ!」

 畳スペースからは、そんな一年生達の騒がしくも微笑ましい会話が聞こえてくる。

 少し離れたテーブルには、同じ一年の花子が三人をじっと見守っていた。

「花子ちゃんは髪伸びないね」

 そう話しかけたのは花子のすぐ傍らに座っていた西園である。

 花子は西園の方へ目を向けながらも、その言葉に返事をする素振りは無い。

 代わりに返したのは偶然聞いていた斎藤だった。

「まぁ、花子さんは幽霊だからね。死んだ時に髪も一緒に成長止まっちゃったんだね」

「残念、花子ちゃん絶対ロングも似合ったと思うのに」

 西園は花子の顔を見ながらそう呟く。

 こちらをぼーっと見つめる花子は、今日も絶好調で無表情だ。

 すると西園はそんな呆然な花子の表情に良い事でも閃いたのか、ポンと手を鳴らした。

「そうだ! 花子ちゃんのヘアセットをしよう!」

「「「えっ!?」」」

 西園の妙案に反応したのは、畳スペースで騒いでいた一年三人衆である。

 三人は先程までの喧騒を中断し、西園に向けて声を飛ばした。

「先輩、何言ってんすか!?」

「こいつ多分もう髪の毛伸びないんですよ?」

「下手に失敗でもして、もし取り返しのつかないような状態になったりでもしたら……」

「大丈夫」

 心配する一年達に西園がそう言うと、たくさんの物品が詰まった棚へと体を動かした。

 ごった返しになった棚に体を埋めながら、お探しの商品を何とかして見つける。

 段ボールに入っていた大量のそれを皆に見せながら、西園はその自信の根拠を口にした。

「ウィッグならここに色んな種類のがあるから、これで花子ちゃんに似合う髪型を選びましょう」

「成程!」

「いやなんでそんなもんまであるんだよこの部室!」

 部室の謎が一層深まる中、こうして花子のヘアメイクの旅が幕を上げた。


●○●○●○●


 部室は美容院仕様、大きな布を纏った花子を中心に部員達が囲んでいた。

 状況が呑み込めているのか否か、花子は無表情を貫いている。

 そんな花子を置いて、千尋と西園は数あるウィッグの中から花子に似合う髪型を選別する。

「んー、どうしましょうか?」

「まぁまずは無難にロングでいいんじゃないかな?」

 そう言って、西園はロングのウィッグを手に取った。

 花子の前までそれを持っていき、おかっぱから崩れる事の無かった頭に装着する。

 頭を散々弄られるも、花子に抵抗する様子は無かった。

 装着を完了すると、西園は出来栄えを確認する為三歩程下がった。

 真っ直ぐと肩を貫く程の長さのストレートのロングヘアは、子供らしい花子を大人の階段へと上らせていた。

「可愛い!」

「似合う! 花子ちゃん似合ってるよ!」

 二人のテンションは跳ね上がり、千尋はスマホのカメラのフラッシュを焚いた。

 目に悪い光を前に、花子の表情が揺れる事は無い。

 昂る感情のあまり、西園は斎藤に同意を求める。

「ねぇ、可愛いよね」

「うん、似合ってると思うよ」

 斎藤の言葉に嘘偽りは無く、いつもとは見違えるほど大人びた花子にそう微笑んだ。

 それは他の部員も同意で、パッと見花子とは気付けない。

「はい! 次私! 私行きます!」

 千尋はそう張り切って、段ボールの中のウィッグを漁り始める。

 お目当ての物が見つかったのか、千尋は「あったあった!」とそれを取り出した。

 張り切りながらロングヘアから髪型を変更させる。

 花子は千尋と同じ、後頭部で髪を束ねるポニーテールに様変わりしていた。

「はい! 私とお揃い!」

「うん、ポニーテールも似合ってるよ」

 ポニーテールの花子はまた雰囲気がガラリと変わり、どこか活発的な印象を与えている。

「じゃあ俺も考えようかな!」

 女子二人の楽しそうな空気が羨ましかったのか、ここで乃良も参戦してきた。

 乃良の立候補に、千尋はあからさまに顔を歪める。

「えー、乃良もやんの? あんま変なのにしないでよね」

「大丈夫だって! 花子に似合うのにするから!」

 乃良はそう言って段ボールを漁るも、千尋は未だ半信半疑で乃良を監視する。

「おっ、こんなの良いじゃん!」

 良いのが見つかったようで、乃良は早速それを花子に被せる事にした。

 鼻歌交じりでセットしていき、完了して花子から離れていく。

 花子は科学者が実験に失敗したかのような、ボンバーなアフロヘッドになっていた。

「ほい! アフロ!」

「意外と似合ってる!」

 明らかにネタ要員かと思われたカツラだったが、思った以上に花子の素顔にフィットしていた。

 何なら今までで一番の出来栄えかもしれない。

「うわっ、可愛い! 何これ! めちゃくちゃ可愛い!」

「へへっ、どんなもんだい!」

「アンタ天才かよ!」

 千尋のテンションはそれにより最高潮にまで到達したようで、カメラを連写する手が止まらない。

 乃良も自慢げに鼻を鳴らしていた。

「でもこれさ……」

 脇で眺めていた西園はそう言って、花子のもとへ歩いていく。

 手首に巻いてあった二つのヘアゴムを手に、触り心地の良さそうな偽の髪をセットしていく。

 一体何をしているのか、西園の影に隠れた花子に一同は首を傾げていた。

 西園が離れると、防災頭巾の様に頭を覆っていたアフロは、二つのヘアゴムでサイドに束ねられていた。

「こっちのが可愛くない?」

「テブラーシカ!」

 見覚えのあるキャラクターの様なヘアセットに、千尋の目はハートマークだった。

 再度カメラのシャッター音が連射し、アルバムに花子の姿が増えていく。

「……これいいのか?」

 正気に取り残された博士は、この狂った部室の中で異質な花子をただ冷ややかに眺めていた。


●○●○●○●


 それからも花子のウィッグショーは続いていった。

 歌舞伎町のホストの様な目に痛い金髪。

「可愛い!」

「これ本当に可愛いか?」


 時代劇に出てきそうな落ち武者。

「可愛い!」

「何でこんなカツラまであるんだよ」


 いかにもバイクに乗って登場しそうなヒーローの仮面。

「可愛い!」

「顔隠れてんじゃねぇか!」


●○●○●○●


 一通り花子のヘアメイクの旅は終了し、花子は最後に被せられた内巻きのセミロングになっていた。

 女子二人は満足したようで、その表情は愉悦に浸っている。

「いやー可愛かったー! たくさん写真撮っちゃいましたよ!」

「一日くらいウィッグ被って生活してもらいたいね」

「それ良いですよ! やりましょやりましょ!」

 女子達の間で話が勝手に進行する中、花子は渡された手鏡で自分の姿を見ていた。

 死んだ時から一ミリも変わらなかった自分の姿が、今劇的に変わっている。

 どんな感情が胸にいるのかは解らなかったが、その無表情は少し乙女を感じさせるものだった。

「私アフロが良いです! アフロ花子ちゃん!」

「私はストレートのロングがいいかなー」

 当の本人は外野に置き去りのまま、二人は一日ウィッグの選別に入っている。

 なかなか答えは見つからず、千尋は顔を博士に向ける。

「ハカセはどれがいいと思う!?」

「俺?」

 突如話を振られた博士に、気付けば花子は鏡の自分から博士に目を移していた。

 博士も花子に目を向け、その場で見つめ合う。

 頭の中では今日見てきた多種多様、現実離れしたような髪型の花子達が走馬灯の様に顔を出す。

 しかし博士はしばらく考えた後に溜息を吐いた。


「別に、(いつもの花子で慣れてるし、めんどくせぇから)いつもの花子が良いよ」


 特に深い意味も無く、そう言った。

 それでも言葉足らずなその台詞だと、違う意味にも感じ取れてしまう。

 勿論博士がそんな意味を含めて言っていない事くらい解っていたが、それでも部室一帯は静まり返る。

「……ちなみに今のは、『いつもの花子で慣れてるし、めんどくせぇから』っていう意味かと思われ」

「解ってるから言わないで」

 乃良の解りやすい説明講座も千尋によって遮られ、中止に終わる。

 花子は危うく手鏡を落としそうな程、博士に目を奪われていた。

 意味なんて解り切っていたが、そもそも解っているのか知らないが、恋する花子からしてみれば忘れられない台詞だろう。

 その言葉がきっかけに、一日ウィッグの案は廃止された。

髪は女の命……らしい。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


この話の原案は随分と前から考えていました。

ずっとおかっぱ頭の花子の髪形を、千尋と西園がめちゃくちゃにいじり倒す。

今回その話をようやく書いた感じです。

ずっと書きたかった話を書こうとすると何か違う感に陥り、今回もそんな感じになってしまいましたが。


とてつもなく個人的な話ですが、僕はショートカットが好きです。

だから花子はショートカットなのかと言われると、それはまた違います。

やっぱトイレの花子さんはおかっぱ頭だろうし、おかっぱ頭が好きかと言われるとそれは別なのでww


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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