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【009不思議】Dinner time

 日はいつの間にか西に隠れようとしており、オレンジ色が天然のスポットライトというように山を照らしていた。

 博士、花子を含めた班は、未だスタンプを求めて山を歩き回っていた。

 林間学校のレクリエーションとして開かれたスタンプラリー。

 全てのスタンプを集めてきた班には先着で夕飯のBBQ用の極上の牛肉が手に入るらしく、乃良の提案で始まったスタンプラリー競争も相まって、班員達は必死でスタンプを探していた。

 現在見つけたスタンプは五個、全スタンプ制覇まであと一個である。

「あと一個だー……、絶対見つけるぞー……」

『おー……』

 班員達も流石に疲労が出てきたようで、さっきまで活気のあったかけ声も力の抜けたものとなっていた。

 博士はというと疲労はピークに達しており、立っているのもやっとという足で何とか歩いていた。

 ――……何であいつら、……あんなボロボロになってまでやってんだよ。

 目の前を歩く班員達を眺める博士は、溜まった愚痴を心の中でばら撒き始めた。

 ――ったく、勝手に勝負にのりやがって。どの班が一番最初に全スタンプ集めるかだ? 何で俺がわざわざそんな事しなくちゃならいんだよ。

 続いて、愚痴の怒りの矛先は勝負を仕掛けた乃良と千尋に向く。

 ――あいつらもあいつらだ。自分が有利な時に勝手に勝負事なんか決めやがって。あぁ、また腹立ってきた。

「殴りてぇ……」

「おい! 箒屋が物騒な事言ってるぞ!」

「ひぃ!」

「疲れで頭がおかしくなっちまったのか!?」

「止めて! 殴るなら野郎共にして!」

「あぁ五月蠅ぇ!」

 博士の独り言に喚き慄く班員達に博士は大声で叫ぶも、叫んだ事により体力を無駄に消費してしまった。

 それに気付いて博士は後悔していると、足場の悪い道に躓いて倒れてしまう。

「!」

 しかし、倒れたのは博士では無かった。

「おい……、大丈夫かよ」

 博士は後ろでうつ伏せになっている花子を見て、そう呼びかけた。

「……うん、……大丈夫」

 花子はそう言うと、ゆっくりと体勢を戻そうとする。

 しかし、今度は後ろへと倒れそうになり、博士が慌てて花子の腕を掴んだ。

「大丈夫じゃねぇじゃねぇかよ」

 博士は花子を立たせると、花子の制服について枯葉などを叩いて払う。

 思えば花子は数週間前まではトイレに暮らしていた、要はニート。

 幽霊に疲れというのがあるかどうかは定かではないが、今まで大した運動もしていなかった女子が、急にこんな山を歩かされたら体力も簡単に尽きるだろう。

「……ごめん」

 ポツリと花子がそんな言葉を漏らした。

 博士は驚きのあまり固まってしまったが、すぐに自我を取り戻していつもの態度で言葉を返す。

「謝る事じゃねぇだろ。しんどかったら無理せずにちゃんと言わねぇと」

「……言ったら、……迷惑かけると思って」

「!」

 花子の言葉に博士は再び硬直してしまった。

 まさか花子の頭の中に、『迷惑をかけてはいけない』という人間らしい考えがあったなど思いもしなかったからだ。

 ――……もう嫌っていう程迷惑かけられてんだけど。

 いつもの博士ならそう口に出していただろうが、何とか引っ込めて花子に違う言葉を送る。

「……言わねぇ方が余計迷惑だ。今度からはすぐ言え」

「……解った」

 博士の言い方は未だ棘があったが、花子は素直に首を縦に振った。

「おい! あれって!」

 突然そんな声が飛んできて、博士達がそちらに目を向けると、そこにはどこか一点を見つめる班員達がいた。

 班員達の見つめる先には、ずっと追い求めてきたスタンプが置かれている。

「スタンプだぁぁぁ!」

 一人の班員の雄叫びと共に一行はスタンプへと群がり、歓喜の表情を見せた。

 そんな光景を見ながら、博士は腰を地面にバタリと下ろした。

「……やっと終わった」

 荒息交じりにそう言うと、一頻り騒ぎ終えた班長が意気揚々と声を上げる。

「よーし! 後は走ってあいつらに勝つだけだ!」

「……え?」

 班長の言葉に博士は耳を疑い、班長に現実を伝えようと口を開いた。

「いや、流石にもう勝てねぇと思うんだけど……」

「行くぞお前らー!」

「て聞けよ!」

 博士の声は悲しくも届かず、班員達はゴールを目指して一目散に駆けていってしまった。

 博士は顔を少し引きつらせると、呆れた様子でゆっくりと花子と共に歩き出した。


●○●○●○●


「B組5班、最下位!」

『えー!?』

「そりゃそうだろうが!」

 空はすでに紫色、終着地点に着いた博士達は学年主任から無惨な結果を伝えられた。

「最下位の君達にはスーパーの特売で買った安物の牛肉をプレゼントしよう」

「極上の牛肉がぁぁぁぁ!」

 班員達はそれぞれに感情豊かに悔しさを表現しており、言葉を吐き散らしていた。

 ――いや、どこにそんな自信があったんだよ。

 そんな騒ぐ班員達を博士と花子は少し遠いところで眺めている。

「ハッカセー!」

 その声に博士は苛立ちを覚えて、声のした方へ振り返ると、案の定そこには満面の笑みの乃良がいた。

「ラーメン、楽しみにしてるからな!」

 そう言った乃良の手には、まるで一つの岩の様な極上の肉塊があった。

 博士はあまりの怒りに言葉を返す事の無いまま、向き直って再び班員達を見る。

 班員達は相も変わらず嘆いており、その光景はどこかの絵画を切り取ったかのようだった。

 心の底から悔しそうな表情を見せる班員達に、博士は怒りを忘れて、呆れた様に少し口元を緩ませた。


●○●○●○●


 レクリエーションも怪我人無く無事終了し、生徒達は二回目となる野外炊事を始めていた。

 今回のメニューは予定通りのバーベキュー。

 一日目のカレーよりも調理は簡単で、する事といったら食材の下処理程度である。

「うぅ、俺の極上の牛肉が……」

「もういい加減諦めろよ」

 博士達の班も他の班に遅れを取りながら、やっと調理を開始した。

「箒屋―、もっと丁寧に切れよー」

「解ってるよ!」

「零野さん、人数分お皿取ってきてもらえる?」

「解った」

 博士と花子も班と大分打ち解けた様子で、二人を交えた会話は昨日よりも確実に増えていた。

 博士達の班はどんちゃら騒ぎながらも、着々とバーベキューの支度を進めていった。


●○●○●○●


「……あれ?」

 同班の女子に皿を取ってくるよう頼まれた花子は辺りをキョロキョロと見回していた。

 皿を持っている様子は無く、辺りも人の姿は愚か、明かりは月明かりしかない。


「ここ……、どこ?」


●○●○●○●


「零野さん、遅いねー」

 同じ班の女子がポツリとそんな言葉を漏らした。

 下処理は全て完了しており、後は花子が皿を持ってくるのを待つだけである。

 ――全く……。何してんだよ、あいつ。

 帰ってくる様子のない花子に博士が苛立っていると、同じ班の男子が急に博士に話を振った。

「そういやー、前から訊きたかったんだけどさ」

 博士が男子の質問を待っていると、その質問の内容は博士にとって度胆を抜くものであった。

「箒屋と零野さんってどういう関係なの?」

「!」

「あぁ! それ、私も訊きたかった!」

 博士の回答を待たず、班員達はその話題に盛り上がり始める。

「友達、にしちゃあ仲良すぎるよねー」

「なんか箒屋君の事『ハカセー』って呼んでるし」

「やっぱり、付き合ってるの!?」

「良いなー! 俺もあんな可愛い彼女欲しい!」

「お前には無理だよ」

「でも、零野さんって確か最近引っ越してきたんだよね?」

「そうだ、……あれ? じゃあ、いつ知り合ったんだ?」

「もしかして、昔離れ離れになった幼馴染と感動の再会的な!?」

「キャー!」

「おいどうなんだよ! 何か言えよ!」

 班員達が盛り上がる中、博士は固まってしまっていた。

 無論、自分は花子とそういう関係ではない。

 そう口にしてしまえば簡単なのだが、博士の頭の中に色んな考えが混じってそう口にするのを阻んでいた。

「なぁ箒屋! どうなんだよ!」

「……ぇよ」

「あ? 何て?」

 小さな声で放たれた言葉に班員達が必死に耳を傾ける。

「そんなんじゃねぇよ。……ていうか」

 博士は息を整えて、今日一日、花子自身を見て思った素直な感情をハッキリ口にした。

「俺はあいつの事が嫌いだ」

 その言葉に班員達は驚いているといった表情だった。

 そんな班員達の顔色などお構いなしといったように、博士は滑々と言葉を並べる。

「初対面の癖にいきなり告白してくるし、何かと俺に付きまとってくるし、空気も読めずに変な事ばっか言うし、自分勝手だし、我が儘だし、もううんざりだよ」

 それは全て博士の本心であり、出会った時からずっと思ってきている事だった。

「……でも」

 博士はそう言うと、話を続ける。

「あいつは今まであまり人と接する機会が無かったからあんな不器用になっただけで、本当は……ただ純粋で優しい奴なんだ。……多分。俺はあいつの事が嫌いだよ。それは変わらねぇ。……でも」


「ほっとけねぇんだよ」


 博士がそう言い切ると、班員達に一気に静寂が襲いかかってきた。

 班員達は博士に何かを話しかけようとはするが、何を話していいのか解らずに、結局断念する。

「……遅すぎるよな、俺探してくる」

「ちょっ」

 班の一人が博士を止めようとしたが、博士は聞こうともせず駆け出していった。

 嫌な空気となったその場を離れたかった、それもあるだろう。

 しかし、花子を探してくるという言葉に嘘は無かった。

 たった今固めた決心を花子に面と向かって伝える為に、博士は駆け出した。

しょげないでよLady!

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


どこかの『はじめてのなんちゃら』でも迷子になるっていうのは鉄板ですよね。

……いや、そうでもないか。

まぁしかし、今回は花子ちゃんが迷子になってしまいました。

僕も昔家族で水族館に行った時に迷子になってしまいまして、その時は優しいお姉さん二人が一緒に家族を探してくれました。

結局家族と逢えて、お姉さん達と探している途中で見つけたスポットを紹介したりしました。

迷子は迷子だったけど楽しかったなー。


そして、ハカセの素直な心の内の暴露です。

ハカセの固めた決意とは? ハカセと花子ちゃんはどうなっていくのか!

次回、林間学校編決着です!


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!


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