表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/243

【074不思議】オツカレ

 優しい夕焼け色が、まるで魔法の様に生徒会室を薄く染めていた。

 斎藤はこの三年間の間で初めてこの場所に足を踏み入れた筈なのに、そんな感覚がまるでしなかった。

 それは目の前の彼女に魅了され、そんな考えが頭に浮かばなかったせいだろうか。

「斎藤君……」

 こちらに目を向ける西園がそう声を漏らす。

 それでも斎藤がその声に反応する事は無かった。

「何でここにいるの?」

 西園がそう質問を口にする。

 その言葉が自分にかけられた言葉だとようやく気付いて、斎藤は我に返った。

「えっ?」

 開いたままだった口が、急にパクパク動き出す。

「いやっ、そのっ、実は西園さんの生徒会引退祝いにサプライズパーティーしようって準備してて、なかなか来ないから様子見に行けって言われたんだけど……、……あれ、これって言ってもいいのかな?」

 口にしてから気付いた斎藤は、咄嗟に口に手を当てた。

 そんな斎藤に思わず西園は微笑する。

「言っちゃダメなやつだね、それ」

「ごめん……」

 申し訳なさそうに頭を下げる斎藤を見て、更に西園は笑い声を零した。

「そっかぁ……、嬉しいなぁ」

 独り言のように西園がそう零す。

 その一言で、斎藤は考え事が吹き飛んだかのように西園に惹き込まれた気がした。

「でも私これから生徒会の打ち上げと歓迎会があるの。だからパーティーにはいけないかな」

「そっ、そうだよね……」

 どうやら博士の読みは的中していたようだ。

 斎藤もそうだろうとは思っていたので、大したリアクションも無く頷く。

 俯く斎藤に、思い出したように西園が口を開いた。

「あっ、そうだ」

 どうしたのだろうと斎藤が西園に目を向ける。

「さっき山崎君に告白されちゃった」

 その言葉に自分の体が固まっていくのを感じた。

「……うん、知ってる」

「なんだ、知ってたんだ」

 確かに知っていた。

 しかし西園本人からその事実を聞くと、その重みが数段違って聞こえる様な気がした。

 西園はまだ話が終わっていないというように、更に話を進める。

「それで、断っちゃった」

 おとぎ話でも話すような西園に、斎藤は笑顔を作る事が出来なかった。

「……それも知ってる」

 顔を上げられないまま零す斎藤に、西園は何とか斎藤の顔を覗こうとする。

「……もしかして、山崎君に会った?」

「……うん」

 こういう時、何と言ったらいいのだろうか。

 生まれてこの方体験した事の無い現状に、斎藤はただ混乱する。

「……そっか」

 これ以上の返答は返ってこないと悟った西園は、止まっていた足を動かし始めた。

「それじゃあ、折角だし打ち上げ行く前に部室に顔だけ出してこようかな。パーティーがどんな感じなのか見てみたいし」

 足音から西園が自分の横を通り過ぎたのが分かる。

 それでも目を向ける事は出来なかった。

「ほら、早く行こ?」

「西園さん!」

 気付いたらそう声を上げていた。

 叫びともとれるその大声に、西園も歩いていた足を止める。

「何?」

 扉を開けて出ようとしていた西園がそう尋ねる。

 自分の唇が震えるのを感じながら、それでも斎藤はしっかりと喉を振り絞った。

「……西園さんに、言いたい事があるんだ」

 その言葉に若干だが西園の目が揺れ動く。

 そんな些細な描写に、斎藤が気付く事など無かった。

「……僕、放課後になればいつでも西園さんに会えた。クラスが一緒になってからは、もっと一緒にいられる時間が増えた。そんな現状に、甘えてたんだと思う」

 西園は静かに、しかし耳に残るように聞き入る。

「でも、卒業してからはそういう訳にはいかない。どこの大学に行くかは知らないけど、それでもきっと、今みたいにいつでも会える訳じゃない」

 その頬が火照って見えたのは、窓から差し込む夕日のせいだろうか。

「……だから、今言わなくちゃいけないと思って」

 唇が、手が、足が、体が震える。

 心臓が口から飛び出そうというのは、こういう事なんだと実感できる。

 しかし逃げる気は無かった。

 ちゃんと西園に、想いを伝えたかった。

「西園さん!」

 「好きです」と続けようとして、斎藤は逸る鼓動を抑える様に顔を上げた。

 その時に映った目の前の西園を見て、斎藤の脳内に描かれていた次の展開は綺麗さっぱり無くなった。

 ――……あ……れ?

 別にいつもと何ら変わりない、普段の西園。

 変わっていたのは自分の心だった。

 ――僕は……、なんて言うつもりだったんだろう。

 無論、西園に告白するつもりだった。

 しかしそれは本当に自分の言葉なのだろうか。

 たった数分前の山崎の告白に感化されただけで、伝えようとした想い、言葉は自分のものじゃないんじゃないだろうか。

 ――……何やってんだろう、僕。

 そう思うと、無性に恥ずかしかった。

 山崎の告白に影響されて、舞い上がって勢い任せで告白する。

 そんな様に想いを伝えられる程、斎藤の想いは浅くなかった筈だ。

 ――今言うべき事は……、他にあるじゃんか!

 再び俯いてしまった斎藤を、西園が心配そうに見つめる。

 しかし西園の視線に気付ける程、斎藤の思考は回っていなかった。

 今言うべき事を頭の中で再確認して、彼女に伝える為に斎藤は顔を西園へ向ける。

 見ているだけで心が和らぐような、優しい笑顔で。


「……おつかれさま」


 銀色の髪の毛が夕焼けに染まって照り輝く。

 斎藤の柔らかな笑顔に、まるで夕日も力を貸しているようだ。

 そんな斎藤に流石の西園も動きを止める。

 いよいよ告白されるかと息を飲んだら、数秒のインターバルを置いてこんな言葉が顔を出した。

 それでも、この言葉が嬉しくない訳無かった。

「……ありがと」

 西園はそう微笑むと、踵の向きをくるりと回転させた。

「さてと、それじゃあ部室に行こっか。生徒会の皆も待たせてるだろうし」

「うん」

 先を歩く西園の後を追って、斎藤も廊下へと出て行く。

 二人の笑顔は気持ちが良いくらいに清々しかった。

「……あっ、そうだ」

 前を歩いていた西園はそう声を漏らすと、徐に立ち止まった。

 どうしたのかと斎藤もつられて足を止める。

「言ってなかったけど」

 西園はそう言葉を置いて、くるりと身を翻した。


「大学、斎藤君と同じとこだよ?」


 靡いた髪に隠れた西園の表情は、まるで小悪魔の様な笑顔だった。

「……え?」

 どういう意味かまだ把握しきれていない斎藤は、そこだけ時間が止まったかの様に硬直している。

 西園はというと、石化した斎藤を置いて歩き出してしまった。

「受かったら、その時はまたよろしくね」

 遠い先から聞こえる声が、そんな事を言っている気がする。

 その声が聞こえた頃に、ようやく斎藤は正常な思考回路を取り戻していた。

「えぇ!?」

 心の底から漏れたそんな声の次に、斎藤は走って西園の後を追いかけた。

「ちょっ、どういう事!? 初めて聞いたんだけど!?」

「だって言ってなかったんだもーん」

「何で!? 同じ大学って……、だったら最初っから言ってくれれば良かったじゃん!」

「廊下は走っちゃいけませーん」

 放課後の校舎から二人の声が漏れて聞こえてくる。

 友達以上に発展する事は無かったが、二人の間の距離はいつも以上に縮まっている様に思えた。


●○●○●○●


 ガラガラと部室の扉が開く音がした瞬間、一斉にパァン!と発砲音が飛び出した

 一同の手にはクラッカーが握られており、それが六重奏となって部室の中に響いたのだろう。

「西園先輩!」

「「「「「お疲れ様でしたぁ――!」」」」」

 きっと何も知らない筈の西園は仰天しているだろう。

 サプライズ大成功を予測して千尋が反応を覗くと、その反応は思った以上に薄かった。

「あれ!? 西園先輩そんなにビックリしてない!?」

 どういう訳か、千尋は目を真ん丸にして西園に尋ねかける。

「うん、だってさっき斎藤君に聞いたから」

「はぁ!?」

 思わぬ垂れ込みに、千尋は表情を歪めて斎藤へ睨みをきかせて問い詰めた。

「ちょっと斎藤先輩、どういう事ですか」

「いやぁごめん、ちょっと口が滑って……」

「私が三日三晩徹夜で考えたサプライズパーティーが台無しじゃないですか!」

「その割にはありきたりなサプライズだな」

 いつもなら博士の小言に噛みつくところだが、今の千尋にそんな気力は無かった。

 サプライズ失敗という現実が重く圧し掛かっているのだろう。

「嬉しいけどごめんね。私今日はこれから生徒会の皆でご飯行く事になってるの」

「えぇー!」

「でしょうね」

 早々な主役のご退場に、千尋は更に肩の力を落とす。

 その肩に手を置いて、西園は何とか千尋を元気づけようと試みた。

「今度の放課後、また開いてね」

「……解りました。もっとお菓子用意して待ってます!」

「これ以上増やすな」

 騒がしさを取り戻した部室に、斎藤は楽しそうに眺めていた。

「どうだった」

 ふと横からそんな声が聞こえてくる。

 目を向けると、多々羅が博士達に視線を向けたままこちらに語りかけていた。

「……どうって、別にどうもしてないよ」

「……そうか」

 特に期待もしてなかったのか、多々羅はそう呟くだけだった。

「……ねぇ多々羅」

 不意に名前を呼ばれ、多々羅は目を横へと動かした。

 そこには晴れやかな笑顔を浮かべている、斎藤の柔らかな表情があった。


「僕、いつか必ず西園さんに告白するよ」


 その表情を見れば、斎藤の言葉の真意に疑う余地など無かった。

「……高校のうちにしとけよ」

「いや、それはどうか分かんないけど」

「しろよ」

「………」

 多々羅の言葉に何も言い返す事が出来なくて、斎藤は口を閉じる。

 高校卒業したら西園にはもう会えなくなる。

 そう思っていた。

 しかしどうやらそういう訳でもないらしい。

 とにかく今できる事といったら、西園と同じ大学に行く為に勉強に身を燃やす事だけだ。

 告白は、その後にでもしよう。

 部室で楽しそうに笑う西園を見ていたら、自然とそう思うようになっていた。

「そういえば生徒会は引退した訳ですけど、オカ研(ここ)はいつ引退するんですか!?」

「! えっ、えーっと……、取り敢えずまだかな」

「まだ引退しないんですか?」

「引退して欲しいの!?」

「そうじゃなくて、先輩達受験でしょ」

「受験ちょっと余裕あるし、家ではちゃんと勉強してるから。息抜きも兼ねてもう少しお邪魔させていただくわ」

 後日、予定通り西園の生徒会引退を祝ったパーティーが敢行された。

 更に追加されたお菓子達はやっぱり食べ切れなくて、行く宛もないまま机の上に大量に寝転がっていた。

西園編、完結!

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


という事で生徒会引退をテーマにした西園編完結になりました!

結局二人になんの進展もありませんでした!

期待させてしまった方がいましたら、申し訳ございません!


西園は作者の僕にとってもなんだか掴めないキャラクターです。

いつも不思議なくらいに微笑んでて、心の中は何考えているか解らない、正直僕も「こいつ何考えてんだ?」と思ったりする事があるくらいですww

それでも僕が唯一解るのが、斎藤が見せる期待以上の反応が大好きだという事です。

今回の西園編では、それが少しでも書けているんじゃないでしょうか。

西園が斎藤と同じ大学を志望していると告白するところは随分前から決まっていたシーンで、そんな西園が如実に描かれていると思います。


生徒会引退の時期という事はとっくに部活動も引退するべきなんですが、作中でも言っている通り引退する気はありませんww

彼らにはまだオカ研に残ってもらいます。

僕も十二月までだらだら部室に入り浸っていたんで大丈夫でしょ!

という事で三年生がいなくなる事はまぁまだないので、これからもこのメンバーでオカ研を盛り上げていきますよ!


という事で次回からはまたぐだぐだと日常回!

これからもこのオカ研メンバーをよろしくお願いします! ……今メンバーていうとなんか違う事連想しちゃうなw


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ