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【068不思議】ノラ猫に九生あり

 オカルト研究部部室、ここのところあまり騒がしくなかった部室だったが、今日はその反動とでも言わんばかりの大賑わいだった。

「だけど、加藤君が無事に生き返ってくれて本当に良かったわ」

 西園が優しい笑顔を浮かべながら、久し振りに顔を合わせた乃良を見る。

 しかし乃良の表情はあまり読めなかった。

「無事……っすかねー……」

 乃良の顔面は博士達の手によって、誰か区別できない程に腫れ上がっていた。

 声帯までやられた乃良の声を聞いてなお、西園は笑顔を浮かべている。

 乃良の隣に座って頬杖をつく博士は、未だ怒りが抑え切れていないようで、その表情は依然不機嫌だった。

「ったく、生き返るって解ってんだったら最初から言っとけよな。つーか、そもそも死ぬだなんて言わなくても良かっただろ」

 博士の言葉に、昭和のギャグ漫画の様に顔が元通りになった乃良が表情を歪める。

「言っとくけど、今まで二回生き返ったからって今回も生き返る保証なんて無かったんだからな!? 俺死ぬまでずっとドキドキしてたんだぞ!?」

「でも結局生き返ってんじゃねぇか!」

「結果そうなっただけだ!」

 久し振りの顔合わせで声を荒げる二人に、部室の空気もいつも通りに戻ってきた。

 二人の言い合う声に口元を緩ませながら、西園は話を切り出す。

「だけど加藤君が中庭の化け猫だったなんてねぇ……。全然気付かなかったわ」

「ん? まぁ、気付かれないように頑張ってましたしね」

「そうだよ!」

 二人の会話に割って入る様に、そう大きな声が飛び込んでくる。

 目を向けると、案の定乃良の隣に座る千尋が顔をグイッと近付けてきた。

「何でもっと早く教えてくれなかったの!? 乃良が死んじゃうって言うから一瞬頭から抜けてたけど、これ大事件だよ!?」

「あぁうんそうだね、ごめん」

 尋常じゃない圧で訴える千尋に、乃良はじんわり冷や汗を垂らす。

「私、中庭の化け猫に訊きたい事がたくさんあるの! ちょっとインタビューして良い!?」

「それは別に構わないけど……、何そのメモ帳? ちひろんそんなの持ってたの?」

 まるで新米記者の様な出で立ちでペンとメモを持つ千尋に、乃良はそう口にした。

 よく見れば反対側にも同じくメモを持った博士の姿が確認できた。

「お前もか」

 乃良がそう言うも、博士がペンをしまう素振りは無い。

「じゃあ最初の質問ね!」

 乃良の声を余所に、千尋は当初から疑問に思っていた質問を本人にぶつける。

「何で中庭の鶏小屋を襲ったの? 鶏さん達何も悪い事してないよね?」

「何でって……、単純にお腹が空いてたからだよ。鶏達には悪い事したと思うけど、そん時は飢餓死寸前だったからね。本当は魚の方が好きなんだけど」

「何で魚食べなかったの? 中庭の池に魚くらいいるでしょ?」

 メモを走らせながら更に質問した千尋だったが、乃良の答えは単純明快だった。

「池の中にいたから」

「あー成程」

 全てを察した千尋はそう相槌を打ってメモを取った。

 もう片方の隣に座る博士もメモを取りながら、納得した様に声を唸らせた。

「お前が化け猫だって考えると、色んなとこの説明がつくな」

 中学からの親友である博士にとって、乃良は謎の多くある人物だったのだろう。

 千尋はインタビューの相手を本人から友人に変え、質問を続ける。

「ハカセは乃良が人間じゃないって気付かなかったの?」

「気付く訳ねぇだろ。そもそもそんなバカげた事思い付きもしねぇよ」

 博士はそう言うと中学時代からの乃良の事を思い出していった。

「そらぁ運動神経はバカみたいに良いし、こいつの家知らねぇし、カナヅチだし、魚好きだし、猫じゃらし好きだし、たまにこいつの近くに来るとくしゃみする奴いたけど、全然気付かなかったよ」

「いやいっぱいヒントあったんじゃん」

 博士の証言に、千尋は思わず手を止めて声を零した。

 そのままメモを書く手が疲れたのか、千尋はペンをしまって口を開く。

「まぁ、今までずっと一緒にいた友達が七不思議なんて、現実味無いよねぇ……」

「いや化け猫の時点で現実味無ぇだろ」

 博士の冷酷な訂正も千尋の耳には届いておらず、千尋の視線は乃良の金髪を捕えていた。

「ねぇ乃良! 猫耳見せてよ!」

「えっ? あぁ、良いよ」

 勿体ぶるような素振りを見せず乃良はそう言うと、乃良はピョコッと金髪から猫耳を生やした。

 どういう原理なのか、猫耳は明るく元気に天井を突き刺している。

「うわぁ! 本当に猫耳だぁ!」

 千尋のテンションは最高潮に到達したそうで、猫耳を見つめる瞳は最早宝石箱だ。

「これ触ってもいい?」

「えっ!? 触るの!?」

「ダメ?」

 千尋の穢れを知らない質問に、乃良は表情を歪めながらも項垂れた。

「……良いよ」

「本当!? やったー!」

 千尋は喜びを全身で表すと、立ち上がって乃良の背後に立った。

 そのまま乃良の跳ねた耳に手をそっと近付け、慎重に、優しくその耳に触れる。

「んっ……」

 ふと乃良の口からそんな声が漏れた。

 どうやらその猫耳は、少し触れただけでも反応してしまう程敏感なものらしい。

 しかし千尋はそんなのお構いなしに表情をパッと明るくする。

「すごい! すごいフワフワだ!」

 千尋はそう言って乃良の猫耳に容赦無く手を付けた。

 猫耳は触れる度に弾けており、乃良の顔もきゅっと引き締まる。

「うわぁ……、すごい!」

「ちょっ、ちひろん、もっと優しく……」

「何見せられてんだ俺は」

 目の前のシュールな状況を客観視し、博士はそう呟いた。

 メモ帳にペンを滑らせながら、ふと疑問に思った事を乃良に問い詰める。

「そういやぁ、お前いつもどっちの耳で音聞いてんだ?」

「えっ? ……さぁ、考えた事無かった」

 乃良の金髪には猫耳が跳ねているが、勿論人の形をした体には人間の耳もある。

 本人に解らないと言われたのではどうしようもないが、博士はふと考えを膨らませた。

「……確かめるか」

「えっ?」

「千尋、その猫耳聞こえないように掴め」

「!」

「了解」

「ちょっ、ちょっと待て!」

 千尋の手が乃良の猫耳を捕えようとした直前、間一髪で乃良は体を翻した。

 二人がこちらを見つめる中、乃良は声を荒げて異議を申し立てる。

「何するんだよ! 勝手に俺で実験するんじゃねぇよ!」

「何言ってんだお前。お前が化け猫だって発覚した時点でお前は俺の研究対象だ。被験者が研究者に口きいてんじゃねぇよ」

「とんだ悪の科学者だな!」

 冷静にそう言い切った博士に、乃良は指を突き立てた。

「とにかく! 俺はそんな実験受けねぇから! 知りたかったら後で人間(こっち)の耳に耳栓でもなんでもして報告してやるよ!」

「……ちっ」

「何が不服だ!」

 言い争う二人に、千尋は「まぁまぁ」と二人を宥めさせる。

 乃良の息が落ち着いたのを見計らって、千尋は再びメモを取り出して質問した。

「じゃあ乃良、次の質問なんだけど、何で十年前にオカ研で会った事がある筈の斎藤先輩のお兄さん、大輔さんは前に会った時乃良に気付かなかったの?」

「はぁ? お前話聞いてなかったのかよ」

 そう声を上げて乃良の代理に質問に答えたのは博士だった。

「こいつは十年前、人の前ではただの猫として姿を見せてたんだ。だから人型のこいつには気付かなかったって訳。そうでしょ? 斎藤先輩」

 博士が同意を求めたのは、乃良ではなく斎藤だった。

「うん。ほんと、まさかあの猫が加藤君だったなんて。今でも信じらんないよ」

「さいとぅー先輩、まだこんな小っさかったっすからねぇ」

 乃良は当時の斎藤の大よその身長を右手で表すと、歯を見せて笑った。

 そんな乃良に照れているのか、斎藤は指で頬を掻く。

「そのぅ……、先輩ってやめなよ。加藤君の方が人生の大先輩な訳だし」

「そんな訳にはいきませんよ。先輩達は紛れもなく高校の先輩ですし、俺自身この呼び方が体に染み込んじゃってますからね。今更変える方が難しいっすよ」

 乃良の言葉に、斎藤はこれ以上返す言葉もないと口を噤んだ。

「まぁ、二十年も付き合ってるこいつらは、そろそろ戻しますけどね」

 そう言って乃良は近くでお茶を啜っている花子に目を向ける。

「なっ、花子(・・)

 急に名前を呼ばれた花子だったが、花子は無表情に乃良を見つめるだけである。

 それの何がおかしいのか、乃良は無邪気に笑ってみせた。

「そういやぁ、お前が今まで告白断ってきたのってそういう意味だったんだな」

 不意に零れた博士からの質問に、乃良はそちらへ視界を戻す。

「ん? あぁ、そうだな」

 告白してきた相手が自分とは違う種類の生物だから。

 博士の質問の真意がそういう意味なのだろうと汲み取った乃良は、深くは訊かずにそう返した。

「じゃあ乃良は人間を好きにはならないの?」

 千尋の質問にふと乃良は思考を停止させる。

 乃良の脳裏に、一瞬あの子が過ったのだ。

 何故その子が頭に浮かんだのか、それは乃良にも解らない。

 けれども乃良はそれを表には出さないようにして、静かに笑うだけにした。

「うん、まぁ人間よりは同じ猫の方が可能性はあるかな?」

「へぇ! じゃあどんな猫が好みなの!?」

「えっ?」

 千尋からの更なる質問に、乃良は思わず間抜けな声を漏らしてしまった。

「タイプ! 好みのタイプは何って話!」

「好みのタイプって……、ちひろんそんな猫詳しいの?」

「別に猫の種類とかでも良いだろ」

 博士まで参戦してきた謎の恋バナに、乃良は不思議に思いながらも頭を悩ませる。

 すると頭の中にパッと好みの猫が浮かんだ。

「あっ、ドラミちゃん?」

「「ドラミちゃん!?」」

 予想の遥か彼方を飛んだ乃良の回答に、思わず二人は声を合わせた。

「えっ、あの国民的アニメのドラミちゃん!? あれロボットだよ!? 猫じゃなくてロボットだよ!?」

「愛さえあればロボットかどうかなんて関係ないよね」

「何言ってんのこの猫!?」

「つーか前お前好みのタイプ聞かれた時、『年上のお姉さん』とか言ってなかったか!? あれ姉どころか妹だぞ!? 国民的アニメの主人公の国民的妹だぞ!?」

「じゃあネコバス」

「あれメスだったのか!?」

「知らねぇよ! 好きなタイプなんて分かんないっつーの! 文句があるなら質問するな!」

 乃良はそう叫んで言い詰めてくる二人の声を振り払った。

 それでも二人は止まる事を知らず、溢れ出る疑問点を投げつけてくる。

「じゃあさ! 身体能力はどうなってるの!? やっぱり猫だし夜の方が身体能力上がるの!?」

「今回で生き返ったの三回目って言ってたけど、他の二回はどんな死に方をしたんだ? できるだけ詳しく」

「あぁもう五月蠅ぇ! お前らもう口開くな! こんな事なら生き返らなきゃ良かった!」

 問い詰められる拷問の様な恐怖に、乃良は頭を抱えて塞ぎ込んだ。

 それなのに周りの部員達は、この日常を楽しんでいるように笑っている。

 実は乃良も同じで、塞ぎ込んだ表情は満更でもなさそうな笑顔だった。

 それからも部室には笑い声が溢れ返り、それはまるで今までの重苦しかった放課後を取り返そうとしているかの様だった。

乃良編、蛇足回でした。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


前回で一応乃良編は完結したのですが、今回は七不思議ノラに焦点を当てた蛇足回でした。

シリアスな展開にあまり詰め込みすぎるのもいけないと思いましてね。

七不思議回の恒例ともなってきた質問大会の全貌をお届けしたみたいな感じです。


乃良は本当に設定を詰め込んだキャラなので、この回はとても苦労しました。

なんせ書きたい事がいっぱいあったのでww

書かなきゃいけない部分を少しずつ掻き集めて、いらない部分は排除しながら書いたのを覚えてます。

それぐらい内容の詰め込んだ回ですね。

おかげで話がまとまらず、オチに悩んだ覚えもありますww


という事で何度も言っていると思いますが、これからも乃良をよろしくお願いします!

次回からは本当に平常運転だよ!ww


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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