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逢魔ヶ刻高校のちょっとオカしな七不思議  作者: 越谷さん


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【067不思議】ハカセとノラ

 夜空に満月が映える静寂な校舎の中庭に、何も言わず立ち尽くすオカルト研究部員達。

 全員の視線の先には渡り廊下の屋根に佇む乃良がおり、その目は未だ信じられないという様に動揺を晒している。

 乃良の癖っ毛から飛び跳ねた猫耳を、月明かりが金色に染めていた。

「……乃良が、七不思議」

 現実を受け入れようとする様に、千尋が静かに呟く。

「乃良が……、中庭の化け猫」

 いつもならば七不思議の熱狂的ファンである千尋は、全身を使って大いに喜んでいただろう。

 しかし出逢った七不思議は高校の同級生だった。

 胸の鼓動が荒くなるのを感じながら、千尋は後ろの西園へ目を向ける。

「先輩は知ってたんですか?」

 千尋の質問に西園は首を横に振った。

「前にも言ったけど、私達上級生も今まで会った七不思議以外とは会っていないの。それぞれの生活があるからって多々羅君から聞いてたけど、まさか加藤君が七不思議の一人だったなんて……」

「一人っていうか、一匹なんすけどね」

 そう西園の言葉を訂正した乃良の表情は、いつも通り明るげだ。

「三年生達が入学してきた時には、俺もう中学校に編入してましたしね。それに、無事この学校に合格できたら、晴れて先輩後輩の関係になる訳ですから、どうせなら後でドドンとサプライズしたいじゃないですか」

 何とか盛り上げようと話す乃良だったが、下の部員達は通夜の様に口を閉じている。

 それに対して反応しなかったが、乃良は話の相手を一人に絞った。

「……まぁ、実はさいとぅー先輩とは昔会ってるんですけどね」

「え?」

 そう声を漏らしたのは、千尋だった。

 当の本人である斎藤は解っていたというように、じっと乃良を見つめる。

「十年前、さいとぅー先輩のお兄さんの大輔さんに連れて来られた先輩と一緒に遊んだ事あるんですよ? あの時先輩小学生だし、俺猫の姿だったから覚えてないと思いますけど……」

「覚えてるよ」

 斎藤の返答に、乃良は予想できなかったようで身を硬直させた。

「一緒に中庭(ここ)で鬼ごっことかしたよね? 無我夢中で追いかけてたの、すごく覚えてる。まさかあの猫が加藤君だったなんて、夢にも思わなかったけど……」

「……そうっすか」

 十年前の情景を思い出してか、乃良は懐かしんだ目ではにかんだ。

 斎藤も今にも泣きそうな顔で乃良を見つめている。

「……一ついいかな?」

 そう口を開いたのは、千尋だった。

 何の前触れも無く呟いた千尋は、返答が無いまま質問を口にする。

「どうして、今それを言おうと思ったの?」

 それは千尋が乃良の正体を告げられた時に、最初に浮かんだ疑問でもあった。

 斎藤達の卒業の日に派手に正体を打ち明けるとかなら分かるが、今日は何て事ないいつもの平日だ。

 博士が乃良の様子がおかしいと言っていた事と何か関係があるのだろうか。

 千尋の質問に最初に口を開いたのは、意外にも多々羅だった。

「それは」

「大丈夫」

 多々羅の言葉を遮って、乃良がそう断言する。

「……全部話すから」

 乃良の覚悟を決めた様な顔つきに、多々羅は開いた口を閉ざす。

 そんな乃良の言動に、博士はどこか決まりの悪そうな顔をした。

 乃良は一呼吸して体を落ち着かせると、心の中でしっかりと噛み砕き、淡々とその言葉を吐いた。

「……俺、もうすぐ死ぬんだ」

「「「「!」」」」

 その言葉に再度部員達は体を杭で打たれたかの様に硬直する。

 何が何なのか解らず、千尋は堪らず声を漏らす。

「…………何って?」

「例え化け猫っつったって、そこの幽霊みたいに死んでる訳じゃねぇから寿命があんだよ。代わってそこの巨人程バカみたいに生きられない。人間達(お前ら)と一緒で百年程度だ。んで、俺は今年で平均寿命を迎えた訳だ。その証拠に身体能力も体力もみるみる衰えていってやがる」

 乃良は自分の髪を撫でた右手を眺めて力無く笑った。

 掌には千切れた金髪が残っており、夜風に吹かれて中庭に流れていく。

 しかし乃良のそんな表情も、今の千尋にはぼやけて見えた。

 もう何が正しいのか解らない。

「……何それ」

 千尋はグッと両手に力を入れると、乃良を見上げて夜空に叫びだした。

「何なのそれ!? 自分が実は化け猫でしたって言ったと思ったら、今度はもうすぐ死ぬだなんて……、こっちはもう話についてけないよ! ねぇ、死ぬなんて嘘なんでしょ!? またそうやって私達の反応見て楽しんでるだけでしょ!? 嘘なら嘘って早く言ってよ!」

 千尋の心からの叫びに、乃良は黙って見つめている。

 その表情は満月の影になっているせいか、あまり読む事が出来ない。

「おら! いつまでそこに立ってるんだよ! 降りてこいよ! 私が今からアンタの事ぶん殴ってやる!」

「千尋ちゃん、落ち着いて」

「落ち着いてらんないですよ! だって……、だってあいつ!」

 西園に制止された千尋の目には、止めどない涙が零れだしていた。

 そんな千尋を優しく抱き締める西園も、悲哀の情を浮かべている。

 全く応答しない乃良を諦めた千尋は、後ろに立ち尽くす少年に向けて声を荒げた。

「ハカセも何か言ってやんなさいよ! 友達でしょ!?」

 急に名前を叫ばれた博士は、千尋の声に反応しようとしない。

 視線はやや下げられており、表情を読み取る事は不可能に近かった。

「……俺はそんな事どうだっていいんだよ」

「そんな事って」

「それより」

 博士の一言に千尋は圧力を感じ、口を噤んでしまう。

 俯いていた博士の顔はバッと上がり、屋根の上にいる乃良を視界に捕えた。

「何で今まで黙ってたんだよ」

 乃良に向ける瞳は完全に睨んでおり、今までにないくらいの怒りがその場にいるだけで肌から伝わってくる。

 博士の問い掛けに、乃良はしばらく口を閉ざしていた。

「……それは」

「中学二年の時から一緒にいて、話す機会なんていくらでもあったろ。なのに……、何で今の今まで黙ってたんだよ!」

 悔しかった。

 三年も乃良の隣にいて、誰よりもずっと近くにいたのに、乃良の悩みに、乃良の正体に気付けない自分が悔しくて仕方なかった。

 博士に圧倒されてか黙っている乃良に、博士はダメ押しと声を上げる。

「俺達、友達じゃなかったのかよ!」

 その言葉に乃良の胸が暴れる様に騒ぎ出す。

 溢れ出しそうになる気持ちを必死で抑えて、乃良は冷静に言葉を紡いだ。

「……友達だよ」

 そうポツリと呟くと、タガが外れたかのように胸中で言葉がドンドンと顔を出してくる。

「友達だから……、かけがえのない大親友だから……、尚更言えなかった」

 二十年以上前、大好きだった飼い主に突然捨てられた。

 二度とあんな思いをしたくないという考えが、いつの日かストッパーとして出来上がり、乃良の目の前に立ち塞がったのだ。

 しかし理由はそれだけじゃない。

 乃良は途端に目頭が熱くなって、視線を落として表情を隠す。


「言ったら……、嫌われちゃうような気がして……」


 その言葉に博士の頭の中の何かがプツンと切れるような音がした。

 乃良の言っている事は正論だ。

 中学生の時からオカルトを真っ向に否定した博士に自分の正体を伝えれば、自分が嫌われてしまうだろうと考えても無理はない。

 無理はないが――、無性に腹が立った。

「……バカ野郎」

 自分はこれほどまでに信用されていなかったのかと思うと。


「俺がお前の事、嫌いになる訳ないだろ!」


 そう叫んだ博士の面は、涙でぐちゃぐちゃになっており酷く不恰好だった。

 しかし今自分の姿なんてどうでもいい。

 今までどんな時もしつこく隣についてきた乃良に、これまで一緒にいた三年間の日々をぶつけたかった。

 自分達の繋がりはこんなしょうもない告白で断ち切れやしないと伝えたかった。

 そんな博士の想いが届いたのか、乃良の頬も涙で水浸しになっていた。

「……ごめん、……ごめん!」

 乃良は崩れそうになる体を何とか耐えながら、嗚咽を吐き散らして両手で顔を覆う。

 博士もようやく自分の表情に気が回り、眼鏡をずらして目を擦っている。

 傍で見ていた部員達も空気にやられて、泣いたり、黙ったりして二人を見守っていた。

 何とか落ち着かせた乃良は、若干鼻声のまま明るく口を開く。

「……さて、もう悔いないや」

 そのたった一言に、博士は残酷な意味を予想する。

「……どういう意味だよ」

 博士は腫れた目で乃良を見ると、その表情はえらく醜かったが清々しくもあった。

「いつまでもこんなカッコ悪い姿、皆に見せてらんねぇよ。これで皆ともお別れだ。明日から学校も行かねぇから、そういうつもりで」

「おいちょっと待て!」

「本当はこういう時、『俺の事は忘れて楽しく生きろよ』なんて言えたらカッコ良いんだろうけど……、ごめん、忘れられるのはちょっと寂しいや」

「待てって言ってんだろ!」

 相手の反応も無視して語り続けた乃良に、博士は叫んで無理矢理止めさせる。

 何とか乃良がこちらを振り向くと、中庭には逸る気持ちを抑え込められない部員達が想いを投げつけていった。

「何勝手に話進めてんだよ! お前一生俺達と会わないつもりか!? そんなの絶対させねぇからな!?」

「そうだよ! 一人で死んじゃうなんて、そんなの絶対許さないから!」

「これでお別れなんて、そんな寂しい事言わないでよ」

「後輩が死ぬとか、縁起の悪い話迷惑なんだよ」

「これからの加藤君の事、皆で一緒に考えていこ? そしたらきっと良い答えが見つかるよ。だから加藤君、勝手に死ぬなんて言わないで」

 下から声が聞こえてくるこの感覚、まるでアイドルの引退コンサートだ。

 それが何だかおかしくて、嬉しくて、恥ずかしくて、乃良は思わず微笑みを零した。

 やっぱり自分は笑っている方が自分らしい。

 そう思った乃良は溢れ出す涙を拭って、いつもの明るい満面の笑顔を皆に向ける。


「ありがと! 皆に会えてよかった! もし来世でまた会えたら、その時はよろしくな!」


「乃良!」

 手を振ってその場から離れようとする乃良に、博士は咄嗟に足を動かす。

 しかし屋根の上にいる乃良に手を伸ばしたって届く筈はない。

「じゃ!」

 そう言って、乃良は一同の視界からフッと消えた。

 端で建物の影に飛び込む猫の姿が見えた気もしたが、それを捕まえるのは絶望に等しい。

 博士はそこにいた乃良の影を浮かび、力無くして膝をつく。

 生気を失った博士を心配する余裕などその場にいる誰一人持っておらず、空しいままに時間は流れる。

 これ程までに綺麗な満月を恨んだのは、きっと最初で最後だ。


●○●○●○●


 こうしてオカルト研究部は一人の部員を失う事となった。

 人が一人いなくなったにも関わらず世界は変わらず回り続け、人々の笑顔は知らん顔である。

 乃良のいた一年C組では欠席扱いになっており、部室にも当然その姿は無い。

 多々羅なら何か知っているのではないかと尋ねてみても、一切口を割る気は無さそうだった。

 そんな状態のまま、一週間の時が流れた。

「乃良……、今日もいなかったね」

 部室への通り道、隣を歩く千尋は寂しさを隠し切れずにそう呟いた。

 博士は千尋の顔色を覗いたが、すぐに視線を元に戻して自分達の部室を目指していく。

「多分、きっとあいつはもう」

「やめて!」

 博士の言う言葉を予測した千尋は、無理矢理言葉を遮る様に声を荒げた。

「そんな事……、言わないで」

 頭の片隅で、千尋も何となくは思っていた。

 あの日の乃良はもう、自分達と同じ世界にいないんじゃないかと。

 俯いて足を止めてしまった千尋に、博士はもうすぐに近付いてきたオカ研部室のドアへと足を向けた。

「……しゃあねぇだろ。あいつの決めた最期だ」

 博士はドアに手をかけ、千尋に頼りない笑顔を見せてドアを開いた。

「せめて俺達は……、あいつみたいに笑っていようぜ」


「おー! ハカセ! ちひろんもいるじゃん! 元気してたぁ!? いやぁ、久し振りだな」


 気付けば反射的に、博士はドアを閉めていた。

 一体今何が起こったのか把握できず、二人はただ固まって目を合わせている。

「……えっ、今何か聞こえた?」

「いや? 空耳じゃねぇか?」

「あーそっかー、ちょっとあのバカの事考えすぎだったのかなー」

「ったく、あんな奴とっとと忘れろよ」

 台本を文字だけ見て読んでいるような会話で、二人は無機質に笑い合った。

 そしてそのまま博士は何事も無かったように、再びドアを開ける。


 そこには眼前に迫っていた見覚えのある金髪が、こちらに笑顔を向けていた。


 刹那、猫耳の生えた頭に頭蓋骨陥没レベルの衝撃が訪れる。

「痛っ! おいハカセ! 何すんだよ!」

「言いたい事があんのはこっちだ! 何でお前生きてんだよ! 死んだんじゃなかったのかよ!」

 博士の荒げる声の先には、確かに顔を抱える乃良の姿があった。

 相当の衝撃だったのか乃良は殴られた顔を撫でていると、博士のご希望通りに質問に答える。

「何でって……、そら一回死んだよ。ぽっくりと。でも生き返ったんだよ。『猫に九生あり』って知らねぇか? 猫は生まれながらに命を九つ持ってるとかっていうヤツ。ていうか俺生き返るのこれで三回目だし」

「はぁ!?」

 耳を疑うような衝撃発言の連発で、博士はついていくのに精一杯だった。

 やっと顔の痛みから解放された乃良は、立ち上がって二人へと悪戯な笑顔を向ける。

「……それで、寂しかったの?」

「「!」」

 その言葉がドストレートに二人の胸を突き刺した。

 乃良は調子に乗ったように目を閉じると、鼻を高くしながら語り始める。

「いやー、ハカセにもちひろんにも寂しい思いさせちまったなぁ。本当ごめんな? 本当はもっと早く帰ってくるつもりだったんだけど、なかなかくたばんなくてさぁ。寂しかったろ?」

 乃良はそう言うと、徐に二人に向けて両手を広げた。

「さぁ、恥ずかしがらずに俺の胸に飛び込んでおいぐふぇ!」

 飛び込んできたのは熱い抱擁ではなく、博士の命中ドロップキックだった。

 乃良はそのまま床に倒れ、間髪入れずに博士と千尋が追撃を食らわす。

「おいお前! 勝手な事言ってんじゃねぇぞおらぁ!」

「そうだ! 誰がお前なんか心配するってんだ! 今ここでもう一回三途の川渡らしてやろうかゴルァ!」

 二人の本気の攻撃に、乃良はやられるばかりであった。

 傍から見ていた他の部員達は止めようかと悩みながらも、静かに三人を見守っている。

 一人部員を失ったオカ研だったが、また一人部員が戻ってきて、いつも通りの賑やかなオカルト研究部が帰ってきた。

乃良編、無事完結!

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


色々ごちゃごちゃとした乃良編でしたが、最後は平和に完結でございます!

まぁ本当に死ぬ訳ないよね!ww

基本は楽しく、くだらなくがモットーみたいな作品なので、これからもそんな感じで頑張っていきたいと思います!


今回の乃良編、僕にとっては本当に感慨深い回です。

最初から隠し通していた設定を意を決してぶちまけるという訳ですから、この作品のターニングポイントにもなる回だと思います。

この回で皆さんの乃良への印象がどう変わったのかは解りません。

ですがこれからはオカ研の乃良ともう一つ、七不思議のノラもどうかよろしくお願いします。


さて、次回からは通常運転!

ちょっと相関図は変わってしまいましたが、内容は全く変わりません!

これからのオカ研部員達もどうかよろしくお願いします!


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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