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逢魔ヶ刻高校のちょっとオカしな七不思議  作者: 越谷さん


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【063不思議】ノラ猫被り

 早朝、逢魔ヶ刻高校。

 雀が可愛い声を上げて朝を報せる中、一年C組は閑散としていた。

 居るのは教室のど真ん中にある自分の席に座り、ぼーっと時計を眺めている乃良だけである。

 いつもは賑やかな乃良の目に力は無く、無気力に時計を見つめている。

 ふと後ろの扉がガラガラと開く音がした。

「あれ乃良。随分早ぇな」

 クラスメイトの男子がそう言って入ってくるのを背中で感じる。

 乃良が振り返った時、そこにはいつもの満天な笑顔があった。

「まぁな!」

 そう言って、二人は他愛もない会話を始めていく。

 男子生徒と話す乃良の表情には、さっきまでの力失くした表情はどこにもなかった。


●○●○●○●


 時は流れて、放課後のオカルト研究部部室。

「で、何で治ってんすか」

 相変わらずな冷酷な視線を向ける博士の先には、立派に立っている多々羅がいた。

 先日まで松葉杖だった筈なのに、そうとは思えない程の仁王立ちである。

「何でって、普通治るだろ。たかが骨折だし」

「複雑骨折が三日で治る訳ねぇだろ! 最低でも普通一ヶ月はかかるわ!」

 乱暴に声を上げた博士だったが、多々羅は人差し指で耳を弄くっており、興味も無い様子である。

「お前らはそうかもしんねぇけど、俺は違うんだっつーの」

「くっ、巨人の生態か! えぇっと、巨人は複雑骨折が三日で治る程の治癒能力を持っている……」

「ハカセ君も大変だね……」

 ブツブツと呟きながらメモを取る博士に、傍から見ていた斎藤が苦笑いを浮かべる。

「『おい蕎麦屋! 一体いくらだい!?』」

 突如畳スペースの方からそんな大声が飛び込んできた。

 目を向けてみると、乃良が畳の上に正座して何役も演じながらお伽噺を聞かせていた。

「『えぇ、十六文です』

『銭が細けぇんだ。お前さんの手に置くから手ぇ出してくれ。ひー、ふー、みー、よー、いつ、むー、なな、やー、今何時だい?』

『えぇ、よつです』

『いつ、むー、なな、やー、今何時だい?』

『よつです』

『いつ、むー、なな、やー、今何時だい?』

『よつです』

『いつ、むー、なな、やー』……あれ?」

 噺の最中だったが、とある違和感に気付いて乃良が中断してしまう。

「これいつまでやればいいんだ? こんなんじゃ死ぬまで続いちまうぞ? なんか忘れてたか? いやでもこれってそういう噺だし……」

 あれこれ悩んだ結果、乃良は観客達に頭を下げた。

「……おあとがよろしいようで」

「よろしくないよ!」

 突然の幕下ろしとなった乃良の落語に、千尋は居ても立ってもいられず立ち上がった。

「全然すっきりしないよ! 何あの歯切れの悪い最後! あんだけ時間かけてこんな終わりじゃ締まりがつかないよ!」

「落語も蕎麦も、時間かけてちゃマズくなるって事だね」

「全然うまくないよ!」

 千尋の苦情にも乃良はひょうきんに対応するだけである。

 ふと時計の方に目を向けると、乃良は近くにあった自分の鞄を手に取った。

「んじゃ、俺そろそろ帰るわ」

「えっ? まだ全然時間あるじゃん」

「今日ちょっと用事あるんだよ」

 乃良はそう言うと、そのままスタスタと扉のもとまで歩いた。

「それでは皆さん、また明日ー!」

 明るく手を振りながら乃良は扉を閉め、博士達の視界から完全に姿を消した。

 他の部員達が目線を逸らす中、博士だけが扉の方をじっと見つめていた。

「……あいつ、最近おかしくねぇか?」

「えっ?」

 突拍子もない博士の言葉に、千尋が惚けて反応する。

「……いや別に、乃良いつもおかしいし」

「そこは否定しねぇけど」

 博士は乃良の出て行った扉を見つめながら、じっと考え込んでいるようだ。

「……そんなに気になるなら、ついていけばいいじゃん」

「知らねぇんだよ」

「?」

 博士の言葉の意味が解らず、千尋は首を傾げる。

 千尋が理解できていないのだろうと何となく呑み込むと、博士は淡々と答えを吐いた。

「俺あいつの家知らねぇんだよ」

「!?」

 千尋は堪らず硬直した。

 中学校からの付き合い、おまけに乃良は博士の家を知っていたし、博士も乃良の家を当然知っているものだと思っていた。

「何で……、親友なんでしょ?」

「それはあいつが勝手に言ってるだけだろ」

「でも……」

 例え親友じゃなかったとしても、あれだけ仲が良いのだからある程度の場所くらい知っているものじゃないだろうか。

 そう思っていても言葉に出せないまま、博士が滑々と口を開く。

「そもそもあいつは中学二年の時に転校してきたんだよ。その前はどこにいたのか、家族の事すら知らない。自分の事はあまり話さない主義なんだよ。まぁ、別に気にしちゃいないし、こっちから訊いた事も無いけどな」

「そうだったんだ……」

 二人についての話に、千尋は少々混乱気味だった。

 博士は若干俯いたまま、先程の乃良の姿に悩んでいるようである。

「……でも」

「今回ばかりは気になるか?」

 いきなり口を開いた多々羅に、博士は呆気にとられていた。

 多々羅の言葉に博士は無言で返し、そのまま静かに思考の海へと潜っていった。


●○●○●○●


 数日後、再び放課後のオカルト研究部部室。

「それじゃ、俺そろそろ帰りますねぇ!」

 いつしか恒例となり始めた乃良の早帰りに、他の部員達も物珍しい反応をしなくなった。

 乃良はさっさと扉に手をかけ、部室を後にしようとする。

 しかし、今日はいつもとは違った。

「待てよ」

 突然そう呼び止められ、乃良は後ろを振り返る。

 そこには帰る準備を整えようとしている博士の姿があった。

「たまには一緒に帰ろうぜ」

 鞄を肩にかけて言う博士に、乃良はしばらく硬直していた。

 一緒に帰ろうと自分から誘うなんて、いつもの博士ならまず有り得ない。

「……いやぁ、……そのぅ」

「お前に話があんだよ」

 口籠っていた乃良の言葉を塞ぐように、博士はそう言い放った。

 その言葉が決め手となり、乃良は口をポカンと力失く開けて博士に目を向ける。

 博士の目にはいつにも増して力が入っていた。


●○●○●○●


 カラスがご機嫌に歌を歌う夕暮れ空、そこには雲など一つも無かった。

 路地に並ぶ二つの影が、夕焼けの影響で細く伸びていく。

「いやぁ、二人で帰るなんていつ振りだろうなぁ」

 乃良は首の後ろで手を組んで、そう声を漏らした。

「中学ん時はよく一緒に帰ってたっけ」

 中学時代はバスケ部に所属していた乃良が、博士を無理矢理待たせて、一緒に帰るのが日常だった。

 博士はその度に不機嫌そうだったが、何だかんだでいつも待っていてくれた。

 帰り道に乃良の家に寄った事も無く、寄り道した場所といえば、通学路にあったマックか博士の家くらいである。

「俺がハカセん家に恋愛ゲーム持ってきて無理矢理プレイさせたっけ。そしたら理子ちゃん帰ってきてすごい蔑みの目で見られたよな」

 その日を思い出してか、乃良は堪えきれず笑い声を上げた。

「……今日は空が綺麗だなぁ。知ってるか? 今日満月らしいぜ?」

 空を仰ぎながら、乃良がはにかんで言う。

 しかし隣を歩く博士は、乃良の話など耳にも入れないで、ただひたすら歩いているだけである。

 そんな博士に慣れているのか、乃良は構わず話を進める。

「んで、話って何だよ。ハッ、まさか愛の告白とか!? やだなぁハカセ、流石にお前と友達以上になる気は」

「お前なんか隠してんだろ」

 言葉を遮った博士の言葉に、乃良は足を止める。

 博士もそれが解って、数歩だけ先に進むと、振り返って乃良の顔を覗いた。


「……ダチなんだからそんくらい分かるっつーの」


 夕焼けを背にしているせいか、乃良の顔が影になって表情が読みづらい。

 それでも博士は自分の赴くままに言葉を並べ立てていった。

「まぁ、お前にも色々事情があるだろうし、俺も無理に聞く気なんてねぇよ。ただお前がもし悩んでるんだったり、困ったりしてるようなら、そん時は勝手に一人で抱え込まないで俺とか他の奴らに話した方が」

「……んだ」

「ん?」

 博士の言葉に紛れて聞き取りづらかった乃良の声に、博士は耳を傾ける。

 乃良は博士のアンコールに応えて、いつになく小さな声でそう言った。


「……俺、もうすぐ死ぬんだ」


「……………………えっ?」

 気付いたら博士はそう声を漏らしていた。

 乃良の顔は夕暮れにライトアップされており、誰かと見間違えるくらいに優しくもどこか儚い笑顔を浮かべていた。

 二人だけの夕暮れ、寂しそうな風が頼りなく吹いた。

乃良編です。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


みんなにスポットライトを当てていこう第三弾、乃良編でございます。

開幕早々なんかすごい事になってますが……。

えっ、乃良死ぬの?ww

オカ研メンバーが一人抜けるかどうか、これからの展開を楽しみにしていただけると幸いです。


この乃良編、マガオカに手を付ける前からずっと書きたいと思っていた話でした。

書くタイミングを体育祭の後に定めて、満を持しての投稿です。

内心ちょっとドキドキしてます。

それはきっと緊張と興奮の両方であって、早く来週にならないかなとこっちが待ち遠しいですww


さて、乃良の生死の真相は!?

これからの乃良編に目が離せませんね!


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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