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逢魔ヶ刻高校のちょっとオカしな七不思議  作者: 越谷さん


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【060不思議】現実は台本よりも甘酸っぱい

『大変長らくお待たせしました。これより三年A組『ロミオとジュリエット』を開演致します』

「おっ、始まるみたいだぞ」

 アナウンスの声を聞き、体育館の照明がゆっくりと光を落としていく。

 さっきまで他愛のない話をしていた生徒達の声は段々と消えていき、皆正面のステージの方へと括目する。

「いやぁ、楽しみだなー!」

「ちょっと、もう始まるんだから静かにしてよ」

 オカ研部員達も同じく体の向きを直し、静かに前を見つめた。

 開始のブザーが鳴り響き、舞台の幕は上がっていく。

『これから語られますは悲しい恋の物語。血で血を洗うような争いを日夜続ける名家モンタギューとキャピレットのもとに生まれたロミオとジュリエットによる、秘密の恋の物語……』

 そこに立っていたのは、西洋の貴族の様な服装をした斎藤と西園だった。

「あれ、斎藤先輩?」

「ロミオって確かタタラ先輩だったよな?」

 キャスティングを事前に知っていた乃良達は、周りに気を配りながら口を開く。

 その声に反応する素振りも無く、博士は真っ直ぐと始まったばかりのステージを見つめていた。


「あぁ、ロミオ。何故私達の両親は憎み合い、争うのでしょう。本当なら、きっと私達の様に手を取り合い、想い合う事も出来るというのに。私のロミオ様を想う気持ちの半分でも理解してもらえたなら、きっと」

 可憐なドレスを身に纏った西園は、セリフに合わせて軽くステップを踏む。

 その動作一つに、観客席が全て魅了されたようだ。

 続いてのロミオのセリフに、斎藤はゆっくりと口を開いていく。

「いけないジュリエット、もうお別れの時間だ。明日の夕暮れ、またあのバルコニーに会いに行くから、そこで待っていてくれるかい?」

 その声にいつもの怯えた斎藤の影は無く、正しくロミオそのものだった。

 そんな斎藤に西園は少し微笑むと、そのまま演技を続けていった。


 照明が眩しいくらいに輝くステージの裏で、他のクラスメイト達は裏の仕事をしていた。

 仕事を片手間に熟す中、ひっそりと注目の浴びる舞台を覗く。

「斎藤、マジでセリフ全部覚えてんのかよ」

「あんな大勢の人の前なのにちゃんとロミオになりきってるね。斎藤君じゃないみたい」

「バーカ」

 小さな声で話していた二人の後ろから、突然声が投げかけられた。

 何事かと振り返ると、そこには松葉杖を突いて立つ多々羅の姿があった。

「あいつは元々あーゆー奴なんだよ」

 それはどこかこの状況を楽しんでいるような、そんな表情だった。


「あのロミオ役の先輩カッコ良くない?」

「それ思った」

「あの銀髪ヅラなのかな?」

「ジュリエット役の先輩って生徒会の人じゃない?」

「ほんとだ!」

「綺麗だなぁ」

 観客席からはちらほらとそんな話し声が聞こえてきた。

 それぞれ目の前の劇を楽しみながらも、隣に座る友達と軽く感想を言い合っている。

 それはほんの目の前の席でも同じだった。

「西園先輩めっちゃ綺麗! あとで写真撮らせてもらお!」

「つーかさいとぅー先輩演技上手いな」

 一応声を潜めながらの言葉だったが、すぐ隣に座る博士にはハッキリと聞こえていた。

 しかし博士にそれに文句をつける様子は無い。

 逆に博士は観客席を気にする素振りも見せずに演技を続ける斎藤を見て、口元を緩ませている様に見えた。


「あぁ、ロミオ。どうして貴方はロミオなの?」

 夜空の西洋屋敷をイメージした背景を背に、西園は誰もが知っているような名ゼリフを囁く。

「貴方がモンタギュー家のロミオでなければ、私達の愛を邪魔するものは何も無いというのに。そのロミオという名前の代わりに、私の全てを受け取ってください」

 ジュリエットを鮮やかに演じる西園は、そう言って密かに目を閉じる。

 そんな西園の姿に、斎藤は少し見惚れていた。

 ――あぁ、やっぱり。

 斎藤は少しロミオから身を剥がすと、斎藤らしい笑顔を浮かべた。


 ――僕、西園さんの事好きだなぁ。


「頂戴しましょう。その代わりに、僕を恋人と呼んでください。そうすれば僕は今日からロミオでは無くなります」

 斎藤はそう言うと瞼を閉じ、西園に向けて膝をつく。

 そしておもむろに右手を掲げ、西園の元へとゆっくり運んでいく。

「愛しのジュリエット」

 そんな斎藤を見て、西園も少しジュリエットから離れていた。

 西園は優しく微笑むと、目を閉じて次の自分のセリフを流れるように口にする。

 それは台本のセリフなのか、それとも心の奥からのセリフなのか。

「えぇ、私も愛していますわ」

 西園はそう言うだけで、斎藤の差し出された右手に手を置く事は無い。

 本来なら次の西園のセリフと一緒に手が置かれる筈なのだが、西園にそんな手振りは一切ない。

 なかなか話が進まない事に心配になった斎藤は、薄らと目を開ける。

 そんな斎藤が面白かったのか、西園は斎藤にしか見えないような角度でとびっきりの笑顔を見せた。


「ロミオ様」


 そう言って添えられた西園の手は、心が包まれるように暖かかった。


●○●○●○●


 いつの間にか沈んでいた夕日が差し込む体育館の隅。

「アッハハハハ! アハ! アッハハハハハハ!」

 そこに集まっていたオカ研部員達の中で、乃良の腹を抱えた笑い声が目立って響いていた。

 乃良が指を差す先には松葉杖を突いている多々羅。

 その表情からは奥底から溢れ出す苛立ちが滲み出てきていた。

「どうしたんですかそのケガ」

「まぁちょっと色々あってな」

「アハハハハハハハ! アッハハハハハハハハ!」

「お前ちょっと黙ってろ!」

「この二日間お前ずっと笑ってんぞ」

 そこには本番を終えた多々羅達三年生も顔を出しており、オカ研メンバーが全員集合していた。

「それで斎藤先輩が代役で出たって訳ですね」

 謎が解けたというように博士は視線を斎藤の方へ向けた。

 まだ本番を終えて間もないのか、斎藤と西園は未だ舞台衣装を着飾っている。

 劇はそのまま順調に進んでいき、多少のトラブルはあったものの三年A組『ロミオとジュリエット』は無事に幕を下ろした。

 幕が閉じていく間は体育館が拍手で埋め尽くされ、大成功と言ってもいいだろう。

「劇めっちゃくちゃ良かったです! 感動しました!」

「本当?」

「はい! あっ、一緒に写真撮ってもらっていいですか!?」

「勿論」

「やった! 花子ちゃんも一緒に撮ろ!」

 千尋を中心に女子達がキャッキャと盛り上がり、写真撮影に専念している。

 そんな女子達に負けじと、笑いの収まった乃良が斎藤に話しかけた。

「さいとぅー先輩もカッコ良かったすよ!」

「えっ!? やっ、やめてよぅ、そんな事言われると恥ずかしい……」

 そう言って顔を真っ赤にする斎藤はいつもの斎藤であり、舞台の上のロミオはどこにもいない。

 やはりあれは変わり身だったんじゃないかと、乃良は少し疑問を抱いた。

「良かったですね」

 唐突にそんな声が聞こえてきて、斎藤は顔を弾いた。

 声を出したのは他でもない博士で、いつもの仏頂面で斎藤を見つめている。

 言葉足らずの文章だったが、それでも斎藤は徐々に何を伝えたかったのかを理解していき、柔和な笑顔を浮かべる。

「……うん、ありがと」

 そんな斎藤の笑顔に、博士も思わず表情が緩くなった。

 そこにピンポンパンポンと校内中にアナウンスが放送される。

『これにて二日間に渡り行われた文化祭を終了致します。各クラス、部活動は作業を終了し、後片付けに入ってください。三十分後、後夜祭を行いますので、処分のし切れない廃材はグラウンド中央まで運んでください』

「グラウンド中央?」

 放送に耳を傾けていた博士は、そう疑問を口にした。

「なんで廃材をグラウンド中央に運ぶんですか?」

「廃材を燃やしてキャンプファイアーをするんだよ。その周りで皆でフォークダンスを踊って、文化祭の全日程終了って訳」

「何ですかその意味の解らない行事」

 斎藤の説明を聞いて、博士は思わず表情を歪ませた。

 そんな博士の冷酷は発言に不愉快になったのか、撮影を終えた千尋が口を開いてくる。

「最高じゃん! キャンプファイアー! フォークダンス! これぞ青春って感じじゃん!」

「生憎俺はその青春ってヤツに興味無ぇんだよ」

 さらっと言葉を返した博士に、千尋はまだ納得のいっていないようで唇を震わせる。

 そんな二人の言い争う光景を見て、乃良が不意に口を開いた。

「さて、俺はクラスの後片付けでもしてきますかな」

「あっ! 私も行かなきゃ! それでは皆さんまた!」

 そう言って二人はそれぞれのクラスの元へと歩いていった。

 いつの間にか百舌の姿も見当たらず、クラスの片付けへと向かったようだ。

 後輩の背中を見送ると、斎藤は一段落着いたと息を吐く。

「僕達もクラスの片付けに」

「斎藤君」

 斎藤の言葉を遮る様に、そう隣から声が聞こえた。

 それは紛れもない西園の声で、斎藤は黙って西園のセリフを待つ。

「一緒にフォークダンス踊らない?」

「!」

 予想だにしなかった西園からのお誘いに、斎藤は顔色を赤らめた。

「いっ、いやっ、そんなっ、僕ダンス苦手だし、きっと他に良い人が」


「斎藤君とじゃなきゃ嫌なの」


 はっきりと告げられた言葉に、斎藤は照れるのを覆い越して真顔になる。

 西園にとってそれは照れる要素の欠片もない事なのか、いつもと変わらない笑顔で斎藤の言葉を待つ。

 そんな西園に釣られて、斎藤も優しく微笑んだ。

「……僕で良ければ」

 そう言って、斎藤はまるでロミオの様に西園に手を差し伸べる。

 西園は少し驚いた表情をしたが、すぐに斎藤の右手に自分の左手を添えた。

「斎藤君じゃなきゃ嫌って言ってるでしょ」

 それはまるで劇の延長戦の様に見えるが、これはれっきとした現実だ。

 『現実は小説より奇なり』なんてよく言うが、案外その通りなのかもしれない。

「それじゃあ行こっか」

「いや皆劇の片付けしてるし、そっち手伝わないと」

「いいじゃない別に」

「!?」

 西園の突飛な発言に斎藤は目を見開く。

「いや、それは流石に……」

「だって私達主役で頑張ったんだもん。それぐらい免除してくれてもいいんじゃない?」

「他の皆だって頑張ってたし……。第一衣装のまんまだし、これじゃ目立つよ」

「見せつけてやりましょ」

「何で!?」

「ねぇ、いいよね? 多々羅君」

「あぁ、いいんじゃねぇか?」

「多々羅!?」

 あっさりと言葉を返した多々羅に、斎藤はもうてんやわんやである。

「よし、それじゃあ行こ!」

「あっ、ちょっと待って! 西園さん! ねぇ西園さんって!」

 西園は斎藤の言葉を聞き入れようとはせず、そのまま引っ張ってグラウンドに向かってしまった。

 その一部始終を見ていた博士は、呆れて歪んだ表情を溜息で溶かす。

「……片付けくらいは俺も手伝うか」

 そう言葉を言い終えようとした瞬間、博士のシャツが引っ張られた。

 そちらに目を向けると、小さな手でシャツを握りしめる花子がこちらをじっと見つめている。

「……何?」

 返答は返ってこなかったものの、言いたい事は解っていた。


 こうして、今年の文化祭は幕を閉じた。

 暗くなってきた星空の下にはキャンプファイアーを囲んで、たくさんの生徒がダンスを踊っている。

 その中で妙に目立つ格好をしたカップルがとても注目を浴びたのだが、二人はその熱視線など最早どうでもいいくらい今に夢中になっていた。

文化祭、大成功!

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


という事で文化祭編、完結でございます!

僕の学校は後夜祭なんて楽しげなイベント無かったんですが、やっぱり文化祭は踊るしかないっすよね!

二人すごい衣装で踊ってるけどww


今回劇でロミジュリを書く事にしたんですが、一回映画を観ただけであまり記憶がありませんでした。

なので参考にと、あるマンガのロミジュリの劇を観ました。

それによりセリフがその劇と丸っきり一緒なので、気付いた方はご愛敬という事でww


何はともあれ文化祭編はここで完結です! しかし、学校祭はまだまだ終わりじゃありません!

次回はあのイベントが幕を上げます!

次回からも注目していただくと嬉しいです!


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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