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【006不思議】多々羅と斎藤

 逢魔ヶ刻高校に本日の日程終了を告げるチャイムが鳴り響き、生徒達は部活に行ったり帰宅したりと、それぞれの放課後を迎えていた。

 それは一年生が過ごす一階校舎でも同じである。

 廊下には先生の呼びかけに耳を貸そうともせずに走り回る二人の生徒。

 その顔つきはこれから楽しい放課後が待っているとは思えない程に真剣であった。

 前を走っていた生徒が振り返り、二人は対峙する形となる。

「今日という今日は帰らせてもらうぞ、乃良!」

「へへっ、そうはいかねぇぜ。ハカセ!」

 何を隠そうその二人とは博士と乃良の事であり、部活に行くか行かないかという小さな争いであった。

 周囲の生徒達は二人を訝しげに眺めつつも、何事も無いように廊下を歩いていく。

「一つ言い忘れていたが、今日の俺は一味違うぜ?」

 足を床にトントンと叩きつけながら、挑発するようにそう言った博士。

 そんな博士を乃良は笑いながらも真剣な眼差しで見つめていた。

「確かに、俺一人で捕まえようとしても逃げられちまうかもな」

 乃良がそう言うと、博士は口の端を尖らせて玄関へと駆け出していった。

「……でも」

 しかし、博士の足はすぐに止まる事となった。

 何故ならそこには――。

「今日は、助っ人がいるんだよなぁ……!」

 博士の行く手を阻む上級生、多々羅が待ち構えていたのだから。

「ハカセぇ、どこ行くつもりだぁ?」

 博士は顔から一気に血の気を引かせると、方向転換して多々羅から逃げようとした。

 しかし、そんな博士の襟を多々羅の腕がガッチリと掴み、そのまま部室へと歩き出した。

「ほーら、部活行くぞー」

「嫌だよ! 放せよバカ!」

「いい加減大人しく部活来てくれねぇかな? 毎日捕まえるの大変なんだけど」

「じゃあほっときゃいいだろうが!」

 さっきまでの真剣な表情はどこへいったのか、博士は散々喚き散らしながら、部室へと連行されてしまった。

 そんな一部始終を見ていた千尋は憐みの目を向けながら、静かにこう言った。

「……何やってんの?」


●○●○●○●


「ったく! お前はもうオカルト研究部員なんだからさ! 諦めて部活来やがれ!」

 オカルト研究部の部室にて、多々羅は問題児となっている博士に対してそう説教をしていた。

 博士はというと反省している様子はなく、先輩相手に反抗をしていた。

「嫌だっつってんだろ! 意味も解らず強制的に入部させられて、こっちの身にもなれってんだ!」

「じゃあ何で部活動見学に来たんだよ!」

「それもこれも全ての元凶はこいつなんだよ!」

 声を張り上げる博士が指を差した相手、乃良は空気が読めていないようで博士に向かって笑顔でピースサインを向ける。

「だからってなっちまったもんはしょうがねぇだろ!」

「無理矢理入部させといて何言ってんだよ! そもそも俺は勉強がしてぇんだよ!」

「勉強なんてここでも出来るだろうが!」

「こんな五月蠅いところで勉強できるかぁ!」

 博士と多々羅が激しく言い争っていると、そんな事お構いなしというように千尋が割って入ってきた。

「そんな事より! 他の七不思議にはまだ会えないんですか?」

「ん? あぁ、他の奴らにもそれなりに事情があるからな。七不思議巡りは当分お預けだ」

「えー!」

「当分どころか一生お預けで良いけどな」

「あ? なんか言ったかお前?」

 二人の口論が再びバチバチと火花を立て始めると、今後を心配した斎藤が宥めようと口を開いた。

「まぁまぁ、確かにハカセ君は僕らが勝手に入部させちゃったんだし、無理に部活に来てもらわなくてもいいんじゃないかな?」

「はぁ?」

「ひっ!」

 博士をかばいにいった斎藤に、多々羅の厳しい視線が突き刺さる。

「優介、お前何でハカセの事かばってんだよ。お前部長だろ? 部員が部活に来るよう注意するのは、本当は部長であるお前の仕事じゃねぇのか? あ?」

「う、うん。そうだけど……」

 どんどんと青に染まっていく斎藤の顔を博士が可哀想だと眺めていると、隣にいた花子が博士の袖を弱く引っ張った。

「ん? どうした?」

「……喉乾いた」

「どのタイミングで言ってやがるんだテメエ」

 何を思い立ったのか謎の花子の発言を聞いて、多々羅は思いついたようにわざとらしい口調で喋り出した。

「そうだなー、俺も喉乾いたわ。優介、詫びの印になんか買ってこい」

「えぇ!?」

「コーラ」

「私カフェオレ」

「麦茶」

「俺は炭酸系で!」

「牛乳」

「じゃあオレンジジュースお願いします!」

「えぇぇ!!?」

 多々羅を筆頭に始まった怒涛のドリンク注文に斎藤がてんやわんやしていると、博士は溜息を吐きながら助け舟を出す。

「俺も行きますよ。一人じゃ大変だろうし」

 ――というか、この五月蠅い部室から抜け出したい。

「本当? ありがとう」

 博士の本音に気付かずに、斎藤は博士に向かって優しい笑顔を見せた。

「ハカセが行くなら私も」

「来るな」

 博士は花子に冷たくそう言うと、斎藤と一緒に最寄りの自動販売機へと歩いて行った。

 部室に残された花子は、博士が閉めた扉をただじーっと見つめていた。


●○●○●○●


 自動販売機までの道のり、校舎の外から運動部活の威勢のいい声が聞こえてくる中、二人は廊下を歩いていた。

「ありがとね。付いてきてくれて」

「いえいえ、あそこに残っていた方が全然苦痛ですから」

 無表情で冷酷に言った博士に、斎藤は少し顔を引きつらせながら愛想笑いを浮かべた。

 そんな斎藤の顔を博士はしばし眺めていると、意を決したように口を開いた。

「……前々から気になってたんですが」

 博士の言葉に斎藤は首を傾げて、博士の質問を待つ。

「何で斎藤先輩が部長なんですか?」

「ハハッ、やっぱり思うよね」

 斎藤が博士の疑問にそう笑うと、博士は流れるように疑問についてを詳しく明かした。

「だっていつも多々羅先輩が仕切ってるし、斎藤先輩は黙って見てるだけだし、多々羅先輩に尻に敷かれてるって感じだし、多々羅先輩の方が部長って感じがするんですが」

「アハ、ハハハハ……」

 さっきよりも確実にやつれている斎藤に、博士は全く気付いていない様子で更に言葉を並べる。

「それに先輩、いつも微妙に震えてますよね?」

「あぁ」

斎藤はそう声を漏らすと、博士の質問に優しい笑顔で答えた。

「それは、僕本当は怖い話とかそういうの苦手で、ちょっとビビっちゃうんだよね」

「質問を変えましょう。何でこの部活に入ったんですか」

 博士は冷静にそう言うと、この際全てと言わんばかりに新たな疑問を口にする。

「というか、多々羅先輩の事も訊きたいんですけど。あの人は何で入学したんですか? 別に入学する必要なんかないですよね?」

「それ、私も訊きたい」

「うおぉい! びっくりした!」

 そう言うと博士は海老の様に素早く体を後ろへと仰け反った。

 博士がビックリした理由は、いつの間にか博士と斎藤の真ん中で一緒に歩いていた花子の姿であった。

「お前、さっきまでいなかったよな?」

「うん、幽体化して来た」

 幽体化、花子が持つ自身の体を透明かつすり抜けるようにする能力に博士が溜息を吐くと、花子は話題を元へと戻す。

「それで、タタラは何で入学したの?」

「あぁ、そうだった。……て、お前知らないの?」

「うん、聞いてない」

 博士と花子がそんな会話をしていると、斎藤は昔を思い出すような目でどこかをじっと見つめた。

「それはね、十年前くらいの話なんだけど」

「昔すぎませんか? それ」

「僕にはお兄ちゃんがいてね、兄ちゃんは当時のオカルト研究部の部長だったんだ」

 博士の指摘になど目もくれず、斎藤は思い出しながら話を続けた。

「僕、こんな性格と髪の色だから友達がいなくてね? 兄ちゃんがよく部室に連れてってくれたんだ。その時だよ」


「多々羅と出会ったのは」


●○●○●○●


 十年前、逢魔ヶ刻高校のオカルト研究部部室――。

 たくさんのオカルト研究部員が取り囲む中、その中心にいたのは高校生とまだ小学二年生だった銀髪の少年――斎藤であった。

「へぇ、こいつが大輔(だいすけ)の弟?」

 そう口を開いたのは十年後の今と変わらない姿のままの多々羅であった。

 何か違う事といったら制服を着ておらず、普通の私服姿であるという事くらいであろう。

「そう! 俺に似てイケメンだろぉ?」

 大輔と呼ばれた生徒、つまり、斎藤優介の兄である斎藤大輔は調子の良さそうに笑って言った。

 優介は周囲を警戒した様子で大輔の足に隠れようとへばり付いている。

「こいつ、極度の人見知りでさ、学校にも友達いないらしいんだよねぇ。全く、何でこういうところは似なかったんだろう」

「お前、人間大好きだもんな」

 多々羅は大輔にそう言うと、優介の元へ歩いていき、しゃがんで優介と目を合わせようとした。

 しかし、当然の様に優介はビックリしてしまい、急いで大輔の足へ隠れる。

 そんな優介を見て多々羅は顔を笑みで覆った。

「解った! 俺が友達になってやる!」

「?」

 多々羅の言葉に優介を含めるその場にいた全員が首を傾げる。

「だぁかぁらぁ! 俺がお前の友達になってやるって言ってんだよ! ……でも、流石に俺が小学校に行くのは無理だしな。んー……、そうだ!」

 多々羅は一頻り考えた後に何かを閃くと、それをそのまま口にした。


「お前、この高校に入れ! 俺も入るからさ! んで、オカルト研究部(ここ)に入部しよう! そしたら、完全な友達になれるだろ!?」


 多々羅のその場の発想の様な言葉に部室が一気にざわめきだす。

「タタラ、友達ってのは別にそういう事じゃ……、てか、お前入学出来んのか!?」

「解らねぇ、入学した事ねぇからなぁ」

 完全にノープランな多々羅に大輔が心配に思うも、多々羅はそんな心配を余所に優介に話しかける。

「どうだ?」

「……友達に、なってくれるの?」

「あぁ!」

 優介は数秒の時間を置いた後、顔をパッと明るくさせた。

「解った!」

「よし来た! んじゃ、お前の名前は何だ? 友達なんだから名前知らないとマズいだろ」

「優介!」

「優介か! 俺はタタラだ! よろしくな!」

「うん! よろしく、タタラ!」

 多々羅の発言に一時は騒然とした部室だったが、今は全員が二人を暖かい目で見守っていた。

「よし、んじゃ約束の印にこれしようぜ!」

 優介は最初疑問に思ったが、多々羅から差し出された小指を見ると、笑顔のまま大輔の足から小さな小指を多々羅のに結び付けた。

「「指切りげんまん、嘘吐いたら針千本飲―ます」」


「「指切った!」」


●○●○●○●


 ガランゴロンと自販機からペットボトルの落ちる心地の良い音が聞こえてきた。

 落ちたペットボトルを博士が拾い上げると、飲み物は一通り買い終えたようで三人は部室へと歩き出した。

「まさか二人にそんな過去があったとは……」

 斎藤から全てを聞き終えた博士がそう呟くと、斎藤は笑いを浮かべながら言葉を返した。

「まぁ、そんな大した過去じゃないけどね」

 その後、斎藤は懐かしげにどこかを見つめながら、ポツリと言葉を漏らす。

「……でも、あの時の多々羅のおかげで僕はちょっとずつ人と話せるようになって、友達が出来るようになったんだ。……本当、多々羅には感謝してもしきれないよ」

 そんな斎藤を横目に見ながら、博士は未だ答えられていない疑問を口にした。

「それで、何で斎藤先輩が部長になったんですか?」

「あぁ、それはね。多々羅も西園さんも部長は僕が良いって言ってきてさ。何か無理矢理押し付けられた感じで……」

「心中お察し申し上げます」

 先輩達らしいと言えば先輩達らしい内容に博士が納得していると、斎藤が口を開く。

「でもね、今は部長になって良かったって思えるんだ」

 斎藤の唐突な言葉に博士は耳を傾ける。

「だって、部長になったおかげで皆ともっと仲良くなれた気がするからさ」

 嬉しそうに話す斎藤に、博士も伝染ったのか微笑んでいた。

 ――斎藤先輩を部長にした理由、ただの押し付けって訳じゃないと思うけどなぁ。

 博士はそう思いつつもあえて口には出さず、多々羅に対する評価を考え直しながら部室へと戻っていった。


●○●○●○●


「ただいまー」

「遅いぞお前ら!」

 斎藤の帰宅の挨拶に返事が返ってくる事は無く、代わりに多々羅の怒号が飛び込んできた。

「お前ら飲み物買ってくるのに何でそんな時間かかってんだ? どっか寄り道してたんじゃねぇのか? 部長はパシリさえも出来ないのか? あ?」

「ご、ごめん」

「謝って済むんなら警察いらねぇんだぞ!?」

 ――やっぱこの人最低だー!

 博士の中の多々羅に対する評価が再び急低下しているのを知らないまま、多々羅は斎藤に対して延々と文句を浴びせ続けるのであった。

多々羅と斎藤の出逢いの話でした。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


という事で今回は部長・副部長コンビの出逢いの話でした。

多々羅が入学した理由、そして、ビビりな斎藤が入部した理由はこんなところにありました。

こんな出来事があった為、二人の間には他の人達とはまた違った信頼関係が構築されているのですね。

この二人は名コンビであると自負しているのでww、また二人の話は書きたいなと思っています。


ここで初登場なのが、斎藤のお兄さんである斎藤大輔君。

果たして、彼に再び脚光が当たる時は来るのか……、こうご期待下さい!ww


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!


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