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逢魔ヶ刻高校のちょっとオカしな七不思議  作者: 越谷さん


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【050不思議】真夏の海色パラダイス

 灼熱の太陽の下、正午過ぎ最初のバスがとある駅に停車した。

 簡易的な雨ざらしとベンチしか置かれていないその駅に荷物を抱えた八人を下ろすと、バスは新たな目的地へとガスを吐き出しながら走り出す。

 駅の目の前は石の下り階段となっており、下の景色を一望する事が出来る。

 その景色を眺めて、彼は叫んだ。

「海に来たぞぉ――!」

「「「「おぉ!」」」」

 真っ青に染まったオーシャンビューを前に、部員達の心は舞い上がっていた。

「おらおら! 早く行こうぜ! 海は待ってやくれねぇぞ!」

「永遠に待っててくれるでしょ!」

「海なんて何年振りだろ!」

「ほら! 何してんだよ! お前らも早く来いよ!」

 海を目の前にして耐え切れなかった数人は早くも階段を下りて、ビーチへと急いでいる。

 特に海だからといって浮き足立っていない博士は、燦々と照りつけてくる太陽に手を翳しながら憂鬱そうに呟いた。

「あぁ、暑っ……」

「ハカセ君、僕達も行こ?」

 博士一人取り残されたバス停に斎藤がそう言うと、博士も渋々と階段を降り始める。

 たくさんの人で賑わう、真夏の楽園へ向かって。


●○●○●○●


 斎藤がパラソルを砂浜に突き刺すと、ようやく場所取りが完成した。

「ふーっ、場所はこんなとこでいいかな?」

 真夏日の大仕事に額から滲み出た汗を拭うと、斎藤の言葉を辺りを見渡していた博士が拾う。

「場所を取れれば十分でしょ」

「大賑わいだね」

 いざ砂浜に来てみれば、その人口密度は上から見ていた時の想像を遥かに超えていた。

 視界を移せば必ずそこに人がおり、約数十メートル先の海さえ人影に憚られ見るのは困難だった。

「どうしてこんな暑い日にわざわざこんな場所に来るんでしょうね」

 それは自分にも言えるんじゃないかと斎藤は言おうとしたが、博士は皆に引っ張られて来ただけなのでその言葉は上手く呑み込まれた。

 すると博士は、身の回りの景色にちょっとした違和感を覚える。

「……あれ、あいつらは?」

「ん? あぁ、花子ちゃん達?」

 博士の曖昧な疑問に、乃良が反応した。

 確かにどこを見渡しても、さっきまであんなにはしゃいでいた女子達の姿は見えない。

「女子ならさっき水着に着替えに行ったよ」

「あいつら、面倒な仕事こっちに押しつけやがって」

 博士は苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、乃良はそれを見て笑うだけである。

「ハカセは着替えないの?」

「あ?」

 乃良の質問に、博士は不機嫌なまま答えた。

 乃良や多々羅、斎藤はすでに服を脱いで海パンに着替えており、いつでも海に飛び込める格好になっていた。

 しかし博士はTシャツに薄い上着を羽織っており、一向に着替える素振りを見せない。

「水着なんて持ってきてねぇよ。俺は海に遊びに来たんじゃねぇ」

「はぁ!? じゃあお前何しに来たんだよ!」

「勝手にお前らに連れて来られただけだよ!」

 二人が激しく言い争いも周囲の雑音に埋もれ、目立つ事無く掻き消される。

「おーい!」

 そんな折に、二人の間に割って入るように声が飛び込んできた。

 聞き馴染みのある声に目を向けてみると、そこにはビキニの水着姿になった千尋と西園の姿があった。

「おー! ちひろん! ミキティ先輩! 水着可愛い!」

「ほんと!?」

「ありがと」

 照れた様子もなくさり気なく言う乃良に、千尋と西園も素直に喜ぶ。

「ね! さいとぅー先輩!」

「えっ!?」

 乃良に肩を組まれるようにして突然振られた斎藤は、しどろもどろに目を泳がせた後、目の前に佇む西園へと目を向ける。

 大人しめで尚且つ上品な西園の水着姿に、斎藤の脳は限界のようだ。

「あっ……、あぁ……、かっ、かわ……」

「川? ここは海よ?」

「もうこの人ダメだな」

 頭から豪快に蒸気を上げている斎藤を見て、乃良は肩を放して日陰へと連行した。

 一連の流れに笑っていた千尋だったが、そこで何やら視線を感じて振り向く。

 視線の正体は、こちらをじっと見つめる博士だった。

「なにー、ハカセー。いくら可愛いからってそんなジロジロ見ないでよー」

 体を不自然に揺らしながらからかうように喋る千尋に、博士は「いや」と一言加えると、思っている感情を洗いざらい吐き出した。

「よくそんな下着みたいな姿晒して平気でいられるなと思って」

「海のもずくにしてやろうか」

「それを言うなら海の藻屑だ」

 ぶーぶーと文句を垂らす千尋を置き、博士は辺りを見渡し始めた。

「つーか花子は?」

「あれ? そういえばいない」

 あまりの人込みで気にしていなかったが、さっきから花子の姿はあらず、乃良も探し始める。

 それを見て、千尋が忘れてたと言わんばかりに説明をし出した。

「あぁ、花子ちゃんならまだ着替えてるよ。なんか花子ちゃん、一緒に水着買いに行こって誘ったのに、持ってるからいいって断られちゃってさ。どんな水着着てくるか分かんないんだよね」

 千尋の説明を聞いて、博士は思わず首を傾げる。

「は? あいつ水着持ってんの? 服も持ってなかった癖に?」

 博士がそう言うと、一同を取り巻く空気は海の色のように真っ青になった。

 今では千尋と一緒に遊びに行った時に何着か私服を買っているらしいが、もともとは白の着物しか持ってなかった少女が水着を持っているとは到底思えない。

 花子がどんな格好で来るのか、未知なる水着が浮かんでは消えていく。

「ちょっ、ちょっと見てくる!」

「おう! 行ってこい!」

「お待たせー」

「「「「「「!」」」」」」

 心配で走り出そうとした千尋の先から、当の問題である花子の声が聞こえてきた。

 思わずそちらに目を向けると、一同はその目を放す事が出来なくなった。


 花子は胸の辺りに『山本』と書かれた、所謂スクール水着を身に纏っていた。


 ――スク水!

 予想の斜め上をいった花子の格好に、一同は脳と体を一斉にフリーズさせる。

 何故か真夏日に凍り付いてしまった博士達を見て、花子は不思議そうにスク水のまま首を傾げる。

 状況把握が追いついていない部員達に、花子の代わりに多々羅が口を開いた。

「いやー、学校ってのはやっぱり失くし物が多くてよ。俺らはそれを結構有り難く使ってんだよ。あれもそのうちの一つだ」

「一つだじゃねぇよ! ここ海だぞ!?」

「面白いだろ?」

「滑稽だよ! つーか山本もスク水忘れるんじゃねぇよ!」

 何を言っても楽しそうに笑う多々羅に、博士は怒鳴り気味に言葉を浴びせていく。

 花子の格好に流石の人々も目を惹き、花子に視線を向けている。

 特に男子達の視線に気付いた千尋は、自分が着替える前に着ていた薄地のパーカーを花子に着させた。

「花子ちゃん! これ着て!」

「え? 何で?」

「いいから!」

 あまりの熱気に、花子は否定する気も無くパーカーに袖を通す。

 重ね着をした事により周囲の視線を和らぎ、千尋も安堵の溜息を零した。

「よっしゃー! んじゃ早速海行くか!」

「おぉー!」

 そう言って数人の部員達は浮輪やらなんやらを持って海へと走り出した。

「ほら! ハカセも行くよ!」

「いいよ俺は。ここで勉強がてら荷物番するから」

「いや、荷物番は百舌先輩がいるから」

「俺がいるから遊んでいっていいよ」

「おいズルいぞ!」

 何とか荷物番の座を手にしたかった博士だが、パラソルの下から動こうともしない百舌に先を越され、千尋に引きずられてしまった。

「花子ちゃんは俺と一緒に砂のお城でも作ろっか!」

「うん」

 乃良はそう花子を誘うと、人のいない砂場を見つけて砂の城を建築しだした。

 そんな乃良を見て、千尋は博士を引きずる手を止める。

「……なんか意外」

「え?」

「乃良って、真っ先に海に飛び込んでくヤツだと思った」

 千尋がそうイメージを口にすると、乃良はハハッと慣れた笑いを見せる。

 いつもと同じように笑う乃良にどことなく違和感を覚えた博士は、思い出したように声を漏らした。

「あぁ。そういやぁ、お前カナヅチだったな」

「!」

 博士の発言に、乃良は動揺から折角立てていた砂の山を豪快に崩してしまった。

 その反応からその話が真実なんだろうと、千尋は妙に心を躍らせる。

「えっ! そうなの!?」

「違ぇよ! ただ泳ぎたくないだけだ!」

「じゃあなんで水着に着替えたんだよ」

 乃良の必死の抵抗もどこか見当違いで、千尋は面白いものを見つけたと口角を上げるばかりである。

 そんな博士達に、どこか遠いところから雄叫びが投げかけられた。

「おーい!」

 その声からかなり遠いだろうと思いながら目を向けると、そこにはプカプカと海に浮かぶ多々羅の姿があった。

「多々羅先輩!?」

「お前ら何そこで屯してんだよ! もっとこっちに来いよ!」

「いやそこ大分水深深いでしょ!」

 多々羅の浮かぶ海は遥か彼方で、憶測ではあるが大分水深は深そうだ。

「あぁ? バカ野郎! 深い方がテンション上がるだろうが!」

「小学生か!」

 子供みたいな事を当然の様に叫ぶ多々羅に、博士も思わず声を上げる。

「大丈夫、なんか事件でも起こんねぇ限り溺れはしないって」

 そう言っている途中で、多々羅の体に突如違和感が走った。

 それは最早確実な違和感で、さっきまで流暢だった多々羅の額に冷や汗が浮かぶ。

「……足つった」

「「「はぁ!?」」」

 かなり遠距離からの頼りない言葉に、三人は息を揃えて顔を顰めた。

 遠目からも多々羅が苦しそうにもがいているのが解り、自業自得と思いながら黙って見ている訳にはいかない。

「ったく、あの人は……! すぐにライフセーバー呼んで!」

「おぅ!」

 博士がそう指示すると、乃良はすぐに砂を蹴って走り出す。

その刹那、何の音か解らない謎のけたたましい物音がビーチ中に響き渡った。

 それはさっき多々羅の声がした方からの音で、博士達だけでなく、ビーチにいた全員が一斉に振り返る。


 そこには海面から首をひょっこりと出した巨人の姿があった。


「そういやぁ巨人化したら普通に足着いたわ」

 なんて暢気な事を口にする多々羅に、博士達は思わず真っ青になって多々羅を見つめていた。

「うっ、海坊主だぁぁぁぁ!」

 突如、誰かが海に轟かす勢いでそう叫ぶと、パニック状態になった人々は一斉にその場から逃げ出した。

 さざ波の音は人々の怒号に埋もれ、砂浜をたくさんの足が蹴り上げていく。

 一、二分とも経たないうちに人々は消え失せ、残った人影は部員達八つのみ。

 さっきまで大勢の人で賑わっていた渚は、いきなりプライベートビーチへと様変わりしていた。

みんなで炎天直下の海水浴です!

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


今回は前回もちらつかせていた海水浴の話でした!

夏といえば? の古今東西で真っ先に名の挙がるだろう、夏休みには欠かせない鉄板イベントですよね!

夏休みの話を考える上で、海水浴に行く話は決めていました。

海水浴はやっぱり定番な話なのであんまり変化球は書けませんね。

それでも少しはマガオカならではの海水浴を書けているのではないでしょうか? スク水とか……。


僕は海に面していないところに住んでいるので、海に行くなんて事は滅多にありませんでした。

高校時代には一度も行っていません。

別に海に行きたいとは思いませんが、オカ研の皆には目一杯楽しんでもらいましょう!


さて、多々羅の手柄(?)でビーチの独占に成功したオカ研部員達。

渚を舞台に彼らがどう暴れるのか!

海水浴編、次回に続きます。


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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