【048不思議】不思議の部室のアリス
夏休みの昼下がりというにも関わらず、逢魔ヶ刻高校オカルト研究部の部室には今日も部員全員が集結していた。
しかし、いつもの騒音は聞こえてこない。
全員が口を閉じて、とある一点に目を向けているだけだった。
「えぇっと……」
皆の視線を感じながら、冷や汗をかく斎藤はそう声を漏らしていた。
正確に言うならば視線の先は斎藤ではなく、斎藤の隣に立つ一人の少女なのだが。
「僕の姪っ子の斎藤アリスちゃん。ちょっと今日だけ預かる事になったんで、連れてきました」
その少女は斎藤の腰辺りまでの身長で、日本人離れした金髪のツインテールだった。
無口のままじっと部員達を眺めるアリスに、部員達も視線を見つめ返す。
お互い無言のまま時間だけが流れていく中、多々羅が恐る恐るといった様子でアリスに指を差した。
「……隠し子?」
「違うよ!」
多々羅の口から飛び出した衝撃の発言に、斎藤はそう声を荒げる。
「ダメよ多々羅君。女子を押し倒す勇気も無い斎藤君にそんな子いる訳ないでしょ?」
「!」
西園のその言葉にやけに胸に突き刺さるのを感じたが、西園はそんな事知らずに斎藤の元へ歩いていく。
いざ辿り着くと、斎藤の耳元でボソリと囁いた。
「どこから取ってきたの? ちゃんとお母さんのところに返さないとダメだよ?」
「誘拐でもないよ! 姪っ子だって言ったでしょ!?」
目の前で繰り広げられる高校生の会話を、アリスはじっと見つめている。
そんな光景に飽き飽きして、博士は溜息を吐くと話題を元に戻そうと口を開いた。
「んで、姪っ子って事はあのお兄さんの娘さんって事ですか?」
「うん」
斎藤の兄と聞いて、一同あの自由奔放な斎藤大輔を頭に浮かべる。
「まさか本当に娘がいたのか……」
十年前からの友人である多々羅にとっては余程の衝撃らしく、アリスに向けて視線を向ける。
「普段は兄ちゃんの家に住んでるんだけどね。今日急に僕の家に来て……」
そう言うと、斎藤はゆっくりと今朝方起こった現実を思い浮かべ始めた。
●○●○●○●
今朝、斎藤宅の玄関にて。
「よー! 優介! 元気かー! 夏休み楽しんでるか! 夏休みだからって怠けすぎると後悔するぞ! これ兄ちゃんの経験談だ!」
「兄ちゃんどうしたの急に! あっ、パトリシアさん。それにアリスちゃんも」
突如来訪してきた大輔一家に斎藤はペコリと挨拶する。
「あれ、母さんいないの?」
「ご近所さんと遊びに行ってるよ。それで何の用? なんかすごい荷物持ってるけど」
何の連絡も無く家に来るのは特に珍しくもないが、家族全員で来るというのはそうあることではない。
大輔の持つキャリーバッグから嫌な予感が漂う中、大輔は理由をベラベラと語り出す。
「あぁ、ほら、もうすぐ俺とパトリシアの結婚記念日だろ?」
「そうだっけ?」
「だから久々に夫婦水入らずで旅行に行こうって話になってな」
「へぇ、良いんじゃない?」
「ちゅー事で、今から行ってくるからアリスの面倒見といてくれ!」
「はぁ!?」
あまりにも淡々としたテンポで出された言葉に、斎藤は思わず大声を上げてしまった。
「今から!? いくら何でも急すぎでしょ! そういうのは事前に行ってくれないと困るって!」
「だって昨日の夜決めたんだからしゃーねぇじゃん」
「そんな行き当たりばったりの旅行で大丈夫なの!? ダメだよ! 今母さんいないし、これから僕部活に行かなきゃいけないんだから!」
「部活にアリス連れてけばいいじゃん」
「はぁ!?」
「んじゃ頼むわ! 明日の夕方くらいに帰ってくるから! アリス、良い子でお留守番してるんだぞ! じゃあ行ってくるわー!」
「ちょっと待てぇ!」
斎藤の嘆きも届かず、大輔夫妻は明るい顔でそのまま家の外へと行ってしまった。
残された斎藤は苛立ちながら頭を掻いて、共に残されたアリスに目を向ける。
波乱万丈の両親に慣れているのか、動じる様子のない少女に、斎藤はこれからどうしようかと頭を悩ませた。
●○●○●○●
「と、いう訳なんだけど……」
まるで悪夢のような朝を話し終えた斎藤は、思わず閉じてしまっていた目をゆっくり開けていく。
「キャー! 可愛い! 肌ぷにぷにしてるー! あっ、飴あるよ? 食べる!?」
「お兄さんの奥さんって確かポルトガル人の方だったから、ハーフなのね。アリスちゃん、何歳ですか?」
目を開いた先には、アリスの前でキャッキャする千尋と西園がすぐに目に映った。
先程の自分の話が聞かれてしなかったのではと思い、斎藤の顔色はぐっと青くなる。
女子二人に可愛がられるアリスだったが、千尋から差し出されていた棒付き飴を乱暴に取ったかと思うと、二人の間を抜けて歩き出した。
そのまま椅子のところまで行くと、ちょっとジャンプして椅子に座る。
貰った飴を口に咥え、足をクロスさせると、部員達を見下ろすかのような視線で堂々と口を開いた。
「斎藤アリス、五才。今日はお兄ちゃんがどうしてもって言うからついてきてあげたけど、別にアンタ達と仲良くするつもりはないから。そのつもりで」
アリスはそう言うと、口に咥えた飴を勢いよく噛み砕いた。
ゴロゴロと飴を咀嚼する音が聞こえる中、言い放たれた部員達はしばし放心状態だった。
――何この娘――――!
少女の衝撃なキャラに、部員達は急遽小声で会議を始める。
「えっ、何!? あの子そういう子なの!?」
「大分ませてるねぇ」
「お宅のお兄さん一体どういう教育してるんですか!」
「良い子ではあるんだけどね」
「ちょっと、アンタ達何話してるのよ」
コソコソ話しているのが気に食わないのかそう言うが、組んだ足を動かす様子は無い。
そんな中、一人だけ上機嫌だったのは千尋だ。
「何をそんなコソコソ喋ってるんですか。子供ですよ? あんな可愛い子が何言ったって可愛いだけじゃないですか!」
千尋はそう言うと、アリスの元へと歩いていく。
「もう飴食べたの? 早いねぇ! まだまだたくさんあるから、食べたかったら言ってね」
「ラフランスしかないの?」
「え?」
予想外の返答に千尋が疑問符を浮かべると、アリスはその隙を突く勢いで言葉を乱射していく。
「飴の味、ラフランスしかないの? アリスあの味嫌いなの。あんなの好き好んで食べてる人の気が知れない。アリスに飴をあげるんだったらもっと上品な味のやつにしてよね」
長々と並べられたその言葉に千尋はただただ茫然とするだけだった。
徐々に内容が入ってきたのかと思えば、千尋の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「美味しいじゃん! ラフランス美味しいじゃん!」
「千尋ちゃん! 落ち着いて!」
「うわぁぁぁぁ!」
耐え切れなくなったのか、千尋はそのまま西園の胸へと飛び込んでいった。
西園は優しく千尋の頭を撫でていたが、その表情はどこか困っているように見える。
「ったく、子供相手に泣かされるなんて情けねぇなぁ」
そう言ったのは一部始終を眺めていた乃良だった。
乃良は腰かけていた椅子から立ち上がると、手短にある遊び道具を手にしてアリスに近付く。
「アーリスちゃん」
メロディ口調で呼ばれた声にアリスが振り向くと、そこには無邪気な笑顔の乃良が立っていた。
「お兄ちゃんと一緒に遊ばない? お手玉やおはじき、他にも色んな遊び道具があるよ?」
「ジジ臭い」
「ん?」
アリスはそう一刀両断に切ると、そのまま言葉のナイフを突き刺していく。
「なんでそんな古臭いのしかないの? レディを誘いたかったら、もっとオシャレな遊びで誘いなさいよ。そんなんじゃいつまで経ってもアリスと遊べないわよ」
怒涛の勢いで並べられた言葉に、流石の乃良も少々立ち尽くしていた。
「……さいとぅー先輩」
「?」
突如名前を呼ばれた斎藤は、一向に動きそうもない乃良に目を向ける。
「ちょっと我慢できないんで、代わりに先輩殴ってもいいですか?」
「抑えて! 加藤君抑えて!」
よく見ると乃良は小刻みに震えており、右手には拳が握られていた。
怒りを何とかして抑えようとする乃良にもアリスは目を向けず、ただただ座り込んでいる。
「アリスちゃん! いい加減にしなさい!」
そう声を上げたのは、保護者代理である斎藤だった。
斎藤は少し口調を強めて、偉そうに座っているアリスに言葉を投げていく。
「折角一緒に遊んでくれようとしてる皆にそんな言い方はダメでしょ! ちゃんと皆に謝りなさい!」
「お兄ちゃんは黙ってて!」
「ごめんなさい」
「弱っ!」
速攻で白旗を上げた斎藤に、泣き止んでいた千尋が思わず声を漏らした。
「何五歳の子供相手に打ち負かされてるんですか! お兄ちゃんでしょ! もっとガツンと言ってやってくださいよ!」
「だって怖いんだもん! というか泣かされてた石神さんに言われたくないよ!」
「泣いてないもん!」
「泣いてたじゃん!」
五歳児よりも子供らしい幼稚な会話に、本物の五歳児であるアリスは何を思ってか溜息を吐いた。
すると辺りを見渡して、とある一人をターゲットにする。
「ねぇ、そこのメガネ。ちょっと喉乾いたから何か飲み物買ってきなさいよ。オレンジジュースね」
この部室に眼鏡が自分しかいない事を悟り、博士はアリスの方へ目を向けた。
もう自分には関係ないと思っていたのか、博士の前の机には勉強道具が散らばっている。
すっかりオカ研のお姫様となったアリスの注文だったが、博士はシャーペンを机に置くと、ゆっくり口を開き始めた。
「……自分勝手か」
「は?」
博士の言葉にアリスはそう口を歪ませると、博士は構わず言葉を並べ立てていく。
「ここにいる全員が自分の言う通りになると思い込みやがって、自分は我が儘お嬢様気取りか。笑わせんな。こっちはお前の機嫌とる為に仲良くしてやろうとしてんだよ。それを嫌いだの古いだの言って甘えやがって。そんなんしてたら友達いなくなるぞ。全部自分の思い通りになると思ったら大間違いなんだよ。解ったら大人しくそこに座っとけガキ」
全てを言い終えた時、部室は嫌という程静かになっていた。
博士は特に気にならないのか、再びシャーペンを取って勉強を再開しようとする。
しかしその時、前から小さな声が聞こえてきた。
何かと目を向けてみると、そこには目から涙を溢れさせるアリスの姿が。
「!?」
目の前の衝撃な光景に、博士は思わず目を見開いた。
そんな博士に向けて、他の部員達は追い打ちをかけるようにヤジを飛ばしていく。
「あぁ、ハカセ子供泣かしたぁ」
「いやっ」
「しかも女子ぃ」
「可愛い女の子泣かしたぁ」
「ハカセ大人げなぁい」
「五月蠅ぇな泣かす気なんて無かったっつーの!」
博士はそう声を荒げながら立ち上がり、泣き続けるアリスの元へと歩いていく。
来たはいいものの、どうすればいいか解らず、博士は混乱し頭を掻き毟った。
その掻き毟った手に、博士は無意識で目がいった。
博士は手を頭から放すと、同じ目線になるようしゃがみながら、その手をアリスの頭にポンと乗せる。
すると、さっきまで聞こえていたアリスの嗚咽は止まり、涙もピタリと止まった。
「悪かったよ。別に泣かせる気は無かったんだ」
博士は申し訳なさそうな声で話し始めていき、アリスの耳にそっと声を届ける。
「ただ、ああいう言い方はよくねぇぞ? 皆お前の為にしてやろうと思ってやってんだ。例え嫌だと思っても、もっと人を傷つけない言い方で言わないと、折角お前の為にやってくれたのに、皆が傷ついちまうだろ?」
話しながら同時にアリスの頭を優しく撫でていく中、博士はアリスの顔を覗いた。
「約束できるか?」
博士のその声に、アリスは口を閉じたまま子供らしく頷いた。
「よし、んじゃ約束な」
博士はアリスの肯定を確認すると、撫でる手を少し強めてアリスの頭から離した。
一安心して立ち上がった博士に、アリスは目を向ける。
博士を見つめるアリスの表情は、さっきまでの泣き顔とは違ってどこか赤らんでいた。
「ねっ、ねぇ、お兄ちゃん」
「? 俺の事か?」
「うん……」
何事かと博士だけでなく、他の部員達もアリスの次の言葉を待つ。
アリスから先程の刺々しいオーラは消え、普通の少女の様に恥ずかしながらその言葉を口にした。
「もっ、もしよかったら、お兄ちゃん、アリスのおむこさんにしてあげても……、いいよ」
「「「「「「!?」」」」」」
アリスの衝撃の発言に、遠巻きで見ていた部員達がその現場に釘付けになった。
気になるのは勿論、博士の返事である。
「あのなぁ、そういう自分勝手な言い方をやめろって言ってんだろ?」
――そこじゃねぇだろ!
気怠げな様子でそう回答する博士に、他の部員達は満場一致でそう心の中で叫んでいた。
アリスも博士の態度は気にしてないようで、「そっ、そうだね。ごめん……」と反省するだけである。
とんでもない展開が始まった中、急遽本日二回目の会議が始まった。
「ねぇ、何がどうしてあぁなったの?」
「子供のラブストーリーはいつだって突然だからねぇ」
「あぁ……、兄ちゃんに何て言おう……」
「ねぇ! そんな事より問題は……」
千尋がそう言うと、他の部員達もその問題については知っているようで、一同そちらにゆっくり視線を動かしていった。
そこには博士とアリスのいる方をじーっと見つめる花子がいた。
――こっ、これは……。
オカルト嫌いの男子高校生、トイレの花子な女子高生、ちょっと我が儘な幼稚園児。
この歪な三角関係がこれから続いていくのか、それは誰にも解らない。
それは作者にも解らない……。
ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!
今回は新キャラ、斎藤先輩の姪っ子にあたるアリスちゃんの回でした!
実はこの話、ずっと書きたかった話なんです!
と言いますのも、僕の部室にも長期休暇に入ると幼稚園児くらいの先生の娘さんが遊びに来てくれまして、一緒に遊んでたんですよ!
その子がまたえらい可愛くて、子供好きの僕からしたら夢の様な時間だったんです!
だから、この話を作った時からそんな話を書こうとは決めていました!
モデルとなった子はこんなにませた子じゃなく、普通に可愛い女の子ですけどねww
この話を書きたすぎて、アリスが先に生まれたのか大輔が先に生まれたのか解んないくらいですww
はぁ……、またあの子に会えないかなぁ。
ちなみにその親の先生っていうのは偶然にも今の担任です。おぅ……。
それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!




