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【043不思議】湯けむり変人事件

 大分太陽が西へと沈んだ頃、寄宿舎の食堂では丁度夕食が済んだところだった。

 男子達がのんびりと食堂で寛ぐ中、キッチンの方から女子達が全員分の皿を洗っている音が聞こえてくる。

 そんな音に紛れての声だった。

「花子ちゃん! これ終わったら一緒にお風呂入ろ!」

 千尋の活発な声に、男子達の耳がピクリと反応する。

「うん」

「西園先輩も! お背中流しますよ!」

「うん、一緒に入ろっか」

 女子達の会話に耳を働かせていると、さっきまでBGMで流れていた水の音が消え、クリアに千尋の声が聞こえてくる。

「という事で、先お風呂いかせてもらいますねー!」

「おー!」

 背中に飛び込んできた千尋の言葉に、多々羅は振り返りもせずにそう返事をした。

 食堂から女子達がいなくなったのを確認すると同時に、男子達もゆっくりと動き始める。

「ハカセ、ハカセ!」

 まだ寝不足気味なのか、少しウトウトしていた博士に乃良が体を揺する。

 随分ご機嫌に眠っていたようで、博士は眠気眼を擦って、ピントの合わない乃良の顔を見つめる。

「寄宿舎裏で集合な」

 乃良はそう用件だけ伝えると、他の男子達と一緒に食堂を後にしてしまった。

 全く状況を読み込めていない博士は、しばらくその場から動けずに、最大限に首を傾げた。


●○●○●○●


 素足でサンダルを履き、言われたままに博士は寄宿舎裏まで足を運んだ。

 そこには既に博士以外の男子達が集結しており、博士の到着に気付いた乃良が声を上げる。

「おーい! 遅ぇぞー!」

「五月蠅ぇ、つーかここって……」

「まぁ少し黙ってろって」

 乃良はそう悪戯に笑うと、目の前の建物に存在する鉄格子へ目を向ける。

 地面から三メートル以上あるだろう高さの鉄格子からは、モクモクとした白い霧と、甲高い女子の声が漏れ出していた。

「はぁ! 今日も疲れたぁ!」

「補習お疲れさま」

「ぐはぁ! 疲れとれるー! 中に溜まってた勉強細胞が一気に抜けていくようだ!」

「それ、ダメじゃない?」

「ね! 花子ちゃん温かいね!」

「分かんない」

 その声達は反響しており、その他諸々を踏まえると、この建物の奥に何があるのかは明白だった。

「やっぱここ風呂じゃねぇか」

「そう! そして現在中にはオカ研女子メンバーが勢揃い!」

 楽しそうな顔で話してくる乃良に、博士はまだあまり状況が読めないのか不機嫌そうに眉を顰める。

「そんなの声聞けば解る。それがどうしたってんだよ」

「ほんと解ってないなーハカセは」

 乃良はそう言ってわざとらしく声を上げると、キリッと整えた目付きで博士にそう言い放った。


「ズバリ、覗くんだよ!」


 その言葉に博士は目を細めると、そのままスタスタと元来た場所へと戻っていく。

「んじゃな」

「おいおい! どこ行くんだよ!」

 そう言って乃良は帰ろうとする博士の肩をガッチリと掴んだ。

 このまま強引に逃げても勝ち目はないと悟り、博士は強く振り返りながら捕えられた手を振り払う。

「どうせそんな事だろうと思ったよ! 俺はそんなの興味無ぇんだよ! やりたきゃお前らで勝手にやってろ!」

「まぁまぁ」

 乃良はそう言って博士を宥めると、強引に話へと持っていく。

「作戦はこうだ! あそこに鉄格子があんだろ? あそこから覗くんだよ! 脚立や梯子は調達できなかったから肩車して覗くしかねぇんだけど」

「おいいいよ、聞きたくねぇよそんな事」

「名付けて、人間合体ヒューマンフュージョン大作戦!」

「作戦名ダサッ!」

 博士はそう怒鳴り上げると、耐え切れずに大きく溜息を吐いた。

「……というか、お前が積極的にこういうのするとか意外なんだけど」

「えっ? 何で? 面白いじゃん!」

「そこら辺はお前らしいけど。お前、あいつらの裸とか興味あるの?」

「いや特に」

 思いの他あっさりと返された否定の言葉だったが、博士は予測圏内だったのか驚いた様子も無く話を続ける。

「じゃあ何で覗くんだよ」

「いやだって合宿だぞ!? 風呂覗かない合宿なんて合宿じゃねぇだろ!」

「お前合宿の定義なんだと思ってんだ」

 これ以上乃良と話しても埒が明かない判断した博士は、話し相手を別の人へと向ける。

「多々羅先輩は?」

「ん?」

 こちらへと質問が来るのは予想外だったのか、多々羅はよく解っていないように声を漏らした。

「多々羅先輩はそういうの興味あるんすか?」

「いいや? だって合宿なんだから覗かなきゃ損だろ」

「アンタも同族か」

 多々羅もダメだと判断した博士は、ターゲットを次へと変える。

「斎藤先輩は……西園先輩か」

「!」

「美姫だな」

「ミキティ先輩ですね」

「ちょちょちょっと待ってよ!」

 弁解をする余地も無く言葉を畳み掛けられた斎藤は、慌てて声を出してその波を止めようとする。

「何で僕も覗きたいみたいな感じになってるの!? ダメだよ覗きは! 覗かれた人の気持ちも考えないと!」

「西園先輩の裸見たくないんですか?」

「ぐっ……」

 博士の問い掛けに、不覚にも斎藤の言葉は喉に引っかかってしまった。

 斎藤の頭の中に、秘密の花園で衣服を纏わずこちらに笑いかけてくる西園の姿が浮かぶ。

「そっ、それは、見たくなくなくなくなくなくなくなくないけど」

「めっちゃ心揺らいでるじゃないですか」

「最終的に見たいってなってるし」

 西園を想像して顔を真っ赤にさせている斎藤を余所に、博士は残った百舌へと目を向けるも、相変わらず本の虜で、訊くまでも無く壁の向こうに興味は無さそうだ。

 一通りその場にいる面子を見て、博士はそっと溜息を吐いた。

「なぁもう帰っていいだろ? あいつらの裸なんか見たって興奮しねぇんだよ」

「ちょっと! 西園さんをあまり悪く言わないでよ!」

「下心ある人は黙っててください」

「損得は関係無ぇだろ! 取り敢えずちゃっちゃと風呂覗いてあいつら驚かそうぜ!」

「最低か!」

「ちょっと! あんま騒ぐなよ! 聞こえたらどうするんだよ!」


「聞こえてるっちゅーの」

 寄宿舎の風呂場、モクモクと湯気が立ち込める中、髪を下ろした千尋はどっぷりと我が身を湯に浸けながら声を漏らした。

 男子達の声が上の鉄格子から聞こえており、『人間合体ヒューマンフュージョン大作戦』も全て筒抜けだった。

「全く、なんでこの部活ってあんな失礼な人ばっかなんすかね!? 覗くんなら下心全開で覗けっつーの!」

「それはそれで嫌じゃない?」

 目を瞑って深々と語る千尋を、西園が優しくそう笑いかける。

 西園はそのまま視線を風呂の中にまで行き渡る、千尋の体へと向けていった。

「千尋ちゃんスタイル良いのにね」

「いやいや! 何言ってんすか! 西園先輩の方がスタイル良いですよ!」

 千尋はそう言って、慌てて西園の体へと目を向ける。

 千尋の体は何と言ってもその大きな胸に目を奪われるも、それ意外も割とバランスのとれたものだ。

 一方、西園は全体的にバランスが良く、全ての女性が憧れるような代物である。

「それなのにあの人達と来たら……、ほんと見る目無いんだから」

 千尋の不機嫌そうな顔に、西園は微笑むとポツリと声を漏らした。

「……でも、確かに簡単に覗かれるのは嫌ね」

「?」

 そう言って笑いかけた西園に、千尋は解らず首を傾げると、西園は声を潜めて千尋に話していった。

 風呂の端でヒヨコの玩具と一緒に遊んでいる花子にも聞こえないような声で。


●○●○●○●


「もうちょっと! もうちょっと右です! あぁ行き過ぎた! 左! 左に行ってください!」

 声が風呂場へと全て筒抜けだと知らない男子達は、着々と覗きの準備を進めていった。

 乃良が百舌の位置を鉄格子の下へと誘導するのを見て、博士は目を細める。

「ほんとにやんのかよ」

「当たり前だろ!? 最初にお前に行かせてやるんだ! ありがたく思えよ!」

「いや、全然ありがたくないんだけど」

 博士は最初の挑戦者に何故か選ばれてしまい、最早逃げ出す手段を失ってしまっていた。

 気分を憂鬱にさせながら、隣に立つ多々羅へと再び話題を振る。

「つーか、そんなに覗きたいなら、アンタ巨人化して覗けばいいじゃないですか」

「バーカ。こんな屋外で巨人化なんかしたら誰かに見られるかもしんないだろ。それに、そんな裏ワザ染みた方法で覗いたって何も面白くねぇだろ」

「アンタにバカとか言われたくねぇ」

 真顔で答える多々羅に呆れていると、どうやら台になる百舌のセッティングが完了したらしい。

「よーし! ハカセー! いいぞー!」

 手をこちらにブンブンと振りながら笑う乃良に、博士は思わず溜息を吐く。

 ――あーあ。こうなりゃチャッチャと終わらせて早く勉強しよ。

 そんな事を考えながら百舌の体へとしがみ付いていき、百舌の肩の上に立つ。

 肩の上は不安定でぐらついたが、何とかバランスを保ち、眼前に来た鉄格子から風呂場を覗いた。

「あっ、ハカセだ」

「あ?」

 風呂から何故か自分を呼ぶ声が聞こえ、博士はそちらへと目を向ける。


 そこにはバスタオルを体に巻き、蛇口に繋いだホースを持ってこちらを見つめる女子達の姿が見えた。


「ごめんね、ハカセ君」

「ハカセ、討ち取ったりー!」

 ホースを持った千尋と西園がそう言うと、花子は蛇口から勢いよくお湯を出し、そのままお湯はホースの中を辿ってハカセのいる鉄格子へと噴射された。

 お湯は勢いよく博士の顔面にかかるも、それだけでは飽き足らず、鉄格子からお湯が一斉に吐き出された。

 鉄格子の前に立っていた男子達はもれなく全員かかり、全身びっしょりと濡れてしまった。

「やったー! 作戦大成功ー!」

「こんなに上手くいくとは思わなかったね」

「じゃあもう逆上せちゃうし上がりましょっか!」

「そうだね」

「私牛乳飲みたい」

「いいねぇ! 私も飲ーもおっと!」

 風呂場からは女子達の楽しそうな声が聞こえており、女子達は風呂場を後にした。

 ずぶ濡れになった男子達は口を開く事も出来ないまま、ただ何とも言えない現実にぶち当たっていたのだった。

合宿ネタのお約束ってやつですね。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


今回は合宿の定番中の定番、女子高生のお風呂場を覗こうの回でした!

本来のラノベならここでムフフな展開が待っているんでしょうが、なんせ僕がそういうのが苦手なもんでこの程度になりました。

定番中の定番なんで覗かせようとはしたんですけどね。

最終的に野郎共には粛清を与えられたので、個人的には満足ですww


恥ずかしくてあまり触れられていなかったのですが、女子達のスタイルについて、

千尋はシルエットだけで釘付けになる『ぼんっきゅっぼん』で、

西園は無駄な脂肪が無く、スタイルが良いの一言に尽き、

花子は……、まぁなんとも可愛らしいスタイルとなっておりますww

女子キャラのスタイルを文字におこすだけで大分苦行なんですけど……、助けて……ww


さて、夏合宿の夜はまだ始まったばかり!

それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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