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逢魔ヶ刻高校のちょっとオカしな七不思議  作者: 越谷さん


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【042不思議】Breakfast time

 乱雑に散らかった男子部屋の布団の上、そこで博士は目を覚ました。

 時計に目をやると既に朝の七時を回っており、窓からはまだ早朝だというにも関わらず蝉達がこれ見よがしに音を響かせている。

 部屋の中には博士以外誰もおらず、耳に入ってくるのは蝉の音だけだ。

 まだ眠気が取れないのか、博士が体を起こそうとする気配は無い。

 ただ何も考えていない様な顔で、天井にぶら下がる蛍光灯をぼんやりと眺めるだけ。

 そんなたった一人の男子部屋のドアから誰かが顔を出した。

 蝉に負けないような元気な声を浴びせる乃良である。

「おーいハカセー! 起きたかー! もうすぐ朝飯できるから、起きてんなら食堂来いよー!」

 そう用件だけ伝えると、乃良はドアを閉めてその場から消え去った。

 乃良の用件は確実に博士の耳に届いたが、それでも一向に博士が動き出す気配は無い。

 そのまま寝てしまうのではないかとも考えられたが、博士はゆっくりと体を起こし、乃良の後を追うようにして男子部屋を後にした。


●○●○●○●


 階段を下りて食堂へ向かうと、こちらをすぐに見つけた花子が声を漏らした。

「ハカセ」

「あっ、ハカセ君。おはよー」

「おはよ、ハカセ! 大分遅かったね!」

 最初に出迎えたのはエプロンを身に纏ってキッチンに立つ女子組だった。

 朝食を作る片手間にこちらを見て挨拶してきた女子達に、博士は眠気眼のまま「おはよ」と言葉を返す。

「おーいハカセー! こっちだー!」

 自分を呼ぶ声に博士がそちらへと視線を向けると、そこには大きく手を振っている多々羅とその他男子組が見られた。

 男子達は席について朝食を待っており、博士も重い足取りでそこへと向かい、ゆったりと腰を下ろす。

「随分遅くまで寝てたなー」

「俺ハカセ起こそうとめっちゃ揺らしたのに全然起きなかったし!」

「寝かしてやれよ」

「昨日寝つけなかった?」

 斎藤の心配そうな声に、博士はふと昨日の夜の出来事を思い返す。

 プールにて初めて会った人魚のローラに首根っこを掴まれ、ガンガンに振り回されたあの出来事を。

「……まぁ、ちょっと」

「あれか? 家の枕じゃないと寝れないってヤツか?」

「まぁ、そんな感じだ」

 多々羅の質問を面倒ながら軽くあしらうと、博士は重たい頭を抱えた。

「いやー、にしても楽しみだなー!」

 頭を抱える博士を余所に、乃良は目を閉じて想像力をかき立てながら笑みを浮かべた。

「今日の朝ご飯!」

「あぁ、そうだね」

「昨日も美味かったもんな」

 乃良達はそう言って、女子組が作ってくれた昨日の夕食の事を思い出す。

 オカ研夏合宿では毎回女性陣が食事を作るというのが定番となっており、今年は料理上手の千尋もいるとあって、何とも絶品な夕食となっていた。

 食事の味については博士も一目置いているのだが。

「まぁ、そうなんだけどよ……」

 博士がそう前置くと、突然後ろのキッチンからけたたましい悲鳴が飛び込んできた。

「キャァァァァ! 花子ちゃん! 卵投げ飛ばさないで!」

「千尋が卵割ってって」

「言ったけど! まさかこんな原始的な割り方するなんて思わないじゃん!」

「飛び散った卵が何か殺人現場の血痕みたいになってるよ!?」

「取り敢えずあいつを厨房から追い出せ」

 まるでこうなる事が予知できていたのだろうか、博士は後ろで起こる惨劇を耳で感じ取りながら、親指でそれを多々羅達に知らしめていた。

 多々羅達もそれに言葉を失ったようで、何も言えないまま、ただ顔を青ざめさせていた。


●○●○●○●


「はい! どーぞ!」

「「「「うぉー!」」」」

 千尋の手によって並び終えられた朝食達に、男子達は目を奪われてしまった。

 机には鮭の塩焼き、出汁巻き卵、きんぴらごぼう、貝の味噌汁、白ご飯、それに味海苔と朝食の代名詞と言える役者がずらりと顔を揃えている。

「今日の朝ご飯のテーマはずばり、日本の和食! 代々日本に伝わる朝ご飯は現代の栄養面から見てもかなり高評価されていて。今回特にこだわったのはその出汁巻き卵でね。ちゃんと昨日の晩に出汁を取っておいてそれで」

「「「「いっただっきまーす!」」」」

「ちょっとまだ喋ってる途中なんですけど!?」

 千尋はまだ何か言いたそうな顔をしているも、今や博士達の目は目の前の朝食に夢中でそれどころではなかった。

「うわっ! 美味っ!」

「こっちも美味ぇぞ!」

「……うん、美味い。やっぱ千尋、料理だけは才能あるんだな」

「料理だけはって何よ」

 そう口を尖らせるも、千尋はその後に思わず口元を緩ませる。

 そんな緩んだ千尋の口は、食事に夢中になっている多々羅に質問をしていた。

「それで! 他の七不思議とはいつ会えるんですか!?」

「あぁ、それなんだけどよぅ……」

 表情を曇らせる多々羅に千尋はどういう事かと首を傾げると、それを見かねた斎藤が代わりに口を開いた。


「実は僕達も他の七不思議には会った事無いんだ」


「!?」

 思わぬ発言に千尋は体を硬直させた。

 固まった千尋に口を閉じていた多々羅が説明を添える。

「他の七不思議達は俺みたいに人間として別の生活をしてんだよ。それを俺らの都合で邪魔立てする訳にもいかないだろ? だから、七不思議巡りはこれで打ち止めだ」

「えー!」

「文句言うな、飯冷めるぞ」

 まだ納得のいっていない様子の千尋だったが、多々羅の言葉に渋々箸を手に取った。

 すると、多々羅は思い出したように口の中に白米を詰め込みながら、隣に座る博士に口を開いた。

「そういえばハカセ。お前には言ってなかったが、朝飯食ったらちゃっちゃと着替えて部室行くぞ」

「ん? 何だよ。何か急ぎの用でもあんのかよ」

 急用の心当たりの無い博士はそう言うと、多々羅はもぐもぐと口を動かしながら言葉を放つ。

「いや、ちょっとしたゲストがいてよ」


●○●○●○●


 制服に着替えて向かった部室を前にして、博士は思わず顔を引きつっていた。

「やぁ天使君。どうしたんだい? そんなお顔をして。もしかして、僕のあまりの美しさに見惚れちゃったのかい?」

 部室の前には何かキラキラと輝くようなオーラを身に纏う、音楽室の伴奏者ことヴェンの姿があった。

 ヴェンの戯言に耳を貸す素振りも見せず、博士は隣に立つ多々羅に声を潜める。

「ゲストってあの人の事っすか?」

「おぅ。折角学校に合宿に来てるんだから、顔合わせておきたいだろ?」

 多々羅に悪気がある様子は無く、博士は声も出せぬまま辺りを見回した。

「……あれ、西園先輩は?」

「美姫はちょっと野暮用があってな」

 少し曖昧な答えに違和感を覚えたが、気にする事も無いと博士は視線を部室へと戻す。

 そこではヴェンによる一人舞台が開催されていた。

「あぁ! なんて清々しい日の光だ! まるで僕を照らしているスポットライトのようだ! 天使よ! この僕に祝福の角笛を!」

「だからあの人、今日絶好調なのか……」

 ヴェンの天敵である女子がいない中、ヴェンの一人舞台は続いていく。

「乃良君。ここにピアノは無いかい? 何だか一曲弾きたい気分だ」

「えっ、ピアノ? ピアノは流石に無いんじゃないですかねぇ……」

「鍵盤ハーモニカでいいか?」

「あんのかよ!」

 多々羅が棚から取り出した水色の鍵盤ハーモニカをヴェンは受け取った。

 口で咥える部分はホースのもので伸びており、ヴェンはそれを掴んで口元に運ぶ。

「何かリクエストがあれば引いてあげるよ」

「じゃあチューリップでお願いします!」

「幼稚園児か」

「了解した」

 乃良の幼稚なリクエストもヴェンは易々と承諾し、ヴェンはホースの先端を咥える。

 たらふくに空気を吸って息を吐くのと同時に、その細やかな指でチューリップを奏でようとした。

「へぇ、何年か振りに来たが、ここも変わんねぇな」

 突如、ヴェンの持っているハーモニカから耳を塞ぎたくなるような歪な音が響き渡る。

 何事かと先程聞こえてきた声の方へと目を向けると、そこには昨日会ったばかりの彼女がスレンダーな足(・・・・・・・)で立っていた。

「ローラさん!?」

 博士は思わず目を大きく見開き、目の前に映るローラへと口を開いた。

「おぅ、ハカセじゃねぇか。昨日は悪かったな。ちと頭に血が上っちまって」

「いっ、いやいや、こちらこそ……」

 まだ昨日のトラウマに残っているのか、博士の声はとても弱々しいものになっていた。

 しかしそれ以上に気になる事が目の前に起こっており、取り急ぎそれの説明を要求する。

「つーかローラさん! 何でここにいるんですか!?」

「ん? いや西園に呼ばれてな」

「そうじゃなくって!」

 博士はローラの台詞を遮ると、その問題であるローラの下半身へと目を向ける。

「それ! 何でローラさん普通に人間の足で地上に来てるんですか!?」

 博士の言葉通り、ローラの下半身は昨日見たような尾びれでは無く、れっきとした人間の足が生えており、その姿は最早普通の人間と何ら遜色なかった。

 にも関わらず、ローラは至って冷静に言葉を返していく。

「何でって……、人間の足に変身したんだよ。当然だろ」

 ――えぇ――――――。

「じゃねぇとこんな陸上に来れる訳ねぇじゃねぇか。ちったー頭使えバカ野郎」

 ――じゃあいよいよ水中で生活する意味無ぇじゃねぇか!

 博士は心の底からそう思ったが、言ったらまた殺されかけるのではないかと思い、寸でのところで言葉を呑み込んだ。

 それよりももう一つ、気になる事があるのだ。

「……んで」

 博士はそう言って振り返り、気になるもう一つの正体へと目を向ける。

「何でアンタはそこまで震えてるんですか?」

 博士が目を向けたヴェンは尻もちをついており、ハーモニカもほったらかしにして、ワナワナと震えていた。

 その震えは異常で、まるで極寒の地に裸でいるような震えだ。

「……ロ、ローラさん。……何で、……ここに?」

「おぅ、ヴェンじゃねぇか。久しぶりだな」

 震えているヴェンに、ローラは相も変わらず男勝りな返事を返している。

 これは只事ではないと感じた博士は、多々羅の傍まで行って、こっそりと耳打ちした。

「あのぅ……、あの二人ってどういう関係なんですか?」

 耳打ちされる事を予想していたのか、多々羅は一拍置いてその質問へと答えていく。

「ヴェンの女嫌いあるだろ?」

「?」


「その原因、ローラ(あいつ)なんだよ」


「「!?」」

 突然聞かされた衝撃の事実に、博士だけでなく乃良も一緒に驚きを隠せない様子である。

「あのヴェンさんの女嫌いが!?」

「何十人もの女性と関係を持ち、そのうちの一人に殺害されたにも関わらず、まだ女性を愛し死後も女性を口説き続けたという生粋の女好きを女嫌いに変えたのが、あのローラさん!?」

「随分知ってんじゃねぇか」

 多々羅はそう言ったきり、それ以上話す事は無いと言わんばかりに口を閉ざした。

 それに合わせて二人は視線を注目の相手へと向ける。

 ヴェンは依然としてガクガクと体を震わせているままだったが、ローラはそんなヴェンに溜息を吐いた。

「全く、そんな五十年も前の事気にするなと言っているのに。ん? ピアノがあるじゃないか。ヴェン、これで何か一曲弾いてはくれんか?」

「えっ!? 無理無理! 滅相もございません! 僕がローラさんの前でピアノを弾こうだなんて!」

「いや、弾けと言っているのだが」

「弾かせていただきます! ヴェンでチューリップ!」

 そう言ってヴェンは恐怖で震える手で鍵盤ハーモニカを持ち、拙い曲を奏で始めた。

 そんな二人を眺めて、この二人にどんな過去があったのかと気になりながら、面倒臭そうだと驚愕した博士と乃良だった。

ややこしい七不思議の相関図となりました。

ここまで読んで下さり有難うございます! 越谷さんです!


大分前に『Lunch time』と『Dinner time』というサブタイトルをつけて、もし『Breakfast time』というタイトルを付けるとしたらいつかなぁと考えたら、

「夏合宿じゃね?」という感じで今回のサブタイトルが決まりました。

みんなで朝ご飯っていうのも、夏合宿でやりたかった事の一つです。

なんか……、合宿!て感じしません? えっしない?ww


それと後半はヴェンと新キャラのローラという、七不思議メインの話になりました。

折角夏合宿なんですから、七不思議集めなきゃダメですよね!

花子ちゃん補習行ってるけどw

本当は二人の過去についても書きたかったんですが、想像以上に長くなってしまったのでボツに。

そのうち書きますので、気になる方は気長にお待ちを……!


さて、次回は時間が目まぐるしく経過し、いよいよ二日目の夜です!

合宿で夜といったら……、ふふふ、もうお解りですね?ww


それでは最後にもう一度、ここまで読んで下さり有難うございました!

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